SATYRICON再発

Satyricon_DMT(Re-Issue)_RGB.jpgSATYRICONは、2007年の「EXTREME THE DOJO」でライヴを観たことがある。
その時点で前身バンドECZEMAの結成から17年、初期のプリミティヴなサウンドではなくなっていたが。
で、SATYRICONがプリミティヴなブラック・メタルを聴かせていた初期2作がリミックス/リマスターを施して再発。
28日にリリースされている。


『DARK MEDIEVAL TIMES』(画像)

1994年初頭にリリースされた1stアルバム。
92~93年にかけてサティアー(ヴォーカル他)以外のメンバーが全員脱退し、93年に加入したフロストのドラム以外はすべての楽器をサティアーが担当。
キーボードによるクラシカル/シンフォニックなアプローチは当時他の多くのブラック・メタル・バンドもやっていたが、SATYRICONの場合はアコースティック・ギターを大々的にフィーチュアしたトラディショナルなメロディで他と差別化していた。
まさに”暗い中世”というタイトル通りというか。
サティアーにとってはその暗鬱なムードこそが大切なようで、初期のブラック・メタル勢の中では珍しくというか、サタニズムを前面に押し出してはいない。
『ブラック・メタル サタニック・カルトの30年史』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201712article_20.html)にSATYRICONの名前がほとんど出てこないのはそのせいか。
それはさておき、1曲目から8分以上の曲が続く。
ドカドカ・ドラム+チェーンソー・ギター+呪わしい叫喚+キーボード類…まではわりと他にもあったスタイルながら、この長尺曲中心でアコースティック/トラディショナルなパートと行き来する展開の多さ…が初期SATYRICONの真骨頂。
音質はリマスターしてもまあこんなもんか、ぐらいな感じながら、そもそもこの時期のブラック・メタルにそんな高音質を求める人もいないだろう。


『THE SHADOWTHRONE』

1994年秋、前作から8ヵ月という短いインターヴァルでリリースされた2ndアルバム。
EMPERORのサモス(ギター)が加入し、ARCTURUSのスヴェルド(キーボード)がゲスト参加、多少バンドらしい体裁で制作されているが、音楽性自体は前作とそう変わりがない。
ただ、冒頭の8分台2連発だけでなく後半にも9分台の曲を配し、大曲志向と壮大さが更にスケールアップしている。
音質も向上し、サティアーのヴォーカルの禍々しさも増大。
前作ではブラストというよりもブラストの半歩手前(?)、みたいな感じだったフロストのドカドカ・ドラムも、このアルバムでは随所でモロにブラストしている。
一方で、専任の鍵盤奏者がゲスト参加した甲斐あってか、ピアノやチャーチ・オルガンのパートが充実。
反面、相変わらず展開は多いものの、前作を特徴づけていたトラディショナルかつ侘しいメロディはわずかに引っ込んだ感があり。
聴く人によって好みは分かれるかも知れない。
とはいえ、アコースティック・ギターを多用したSATYRICONらしさはここでも健在だし、デビュー時からアコギを前面に押し出しただけあって、この人たちは初期北欧ブラック・メタル勢の中でも最初からけっこう上手い人たちでした。
あと、この時点で「Vikingland」という曲が収録されているのも目を引く。
ともあれ、サティアーとフロストを中心に、SATYRICONはその後も試行錯誤と成長を続けていくのでありました。


そして2021年。
ECZEMAがSATYRICONと改名してから実に30年。

THE LITTLE GIRLS/The Clear Album(2008)

LITTLE GIRLS.jpgタイトルは”アルバム”となっているが、33回転4曲入り7inch EP。
で、タイトル通りクリアー・ヴィニール。

THE LITTLE GIRLSは1979年にカリフォルニア州サン・フェルナンド・ヴァレーで結成。
メンバーはミシェル・マソ(ヴォーカル)、キャロン・マソ(ヴォーカル、ギター)、キップ・ブラウン(ギター:元SHOCK)、スティーヴ・シキュラー(ギター)、ジェフ・フェア(ベース)、ジョン・ガーラック(ドラム)の6人。
THE BEATLESやTHE BEACH BOYSの影響を受けた音楽性で、西海岸でTHE PRIMSOULSやTHE BOOMTOWN RATSやビリー・アイドル、THE PRETENDERSなどの前座を務めていたという。
83年にミニアルバム『THANK HEAVEN!』をリリースして、85年に解散。

…というのは、このEPを入手してから知った。
それまで全然知らないバンドだった。
ところが、2004年に再結成していて。
06年にはレコーディング。
新録を含むアルバムが出るのと前後して発掘リリースされたのが、このEPだった。

4曲中3曲は、解散直前だった1985年の録音。
この時の編成はミシェル・マソ(ヴォーカル)、キャロン・マソ(ヴォーカル、ギター)、キップ・ブラウン(ギター)のオリジナル・メンバーに、ナイジェル・ハリスン(ベース)とクレム・バーク(ドラム)という、BLONDIEのリズム・セクション(!)。
「Any Way You Want It」はTHE DAVE CLARK FIVEのカヴァー。
末期のRAMONESもカヴァーしていただけあって、ポップ・パンク/パワー・ポップ系のバンドにはよくハマる。
「I Really Want To Be With You」は同時期のTHE GO-GO'sにも通じるメロディ。
ほとんど同時代のバンドながら、THE LITTLE GIRLSはGO-GO'sのようには成功しなかったが。
「Not A Perfect World」もやはりGO-GO'Sっぽいセンスのメロディながら、このEPに収録された4曲中では最もマソ姉妹のハーモニーが活かされたアレンジで、かつ疾走感も充分。
客演でもどうかするとコージー・パウエルばりに(?)パワー全開になりがちなクレムは、ここではわりと控えめなドラミング。
(しかし流石のタイトさ)
3曲とも、当時世に出なかったのが惜しまれるクォリティ。
ジャケットの写真を見ても、美人姉妹二人がフロントという、ステージ映えするルックスで人気が出てもおかしくなかったのではと。

そして「Crush On You」は姉妹が二人だけで録音したと思われる、1982年のデモ。
キャロン・マソ自身によると思われるアコースティック・ギターに乗せて、姉妹のハーモニーが冴える。
バンド・サウンドでないせいもあって、ちょっとポップ・カントリーっぽいフィーリングも。

裏ジャケットは、80年代当時の写真ではなく再結成時の写真が使われている。
この時点で解散から20年以上、40代半ばと思われるマソ姉妹、充分キュートです。
しかし00年代の再活動は期間限定だったのか、10年代以降はニュースがない。

木幡東介切り絵定期作品展@中野天獄

マリア観音.jpgマリア観音の木幡東介(ヴォーカル)が中野五差路前のライヴ・ギャラリー天獄で時々開催している切り絵展。
これまでにも何度かこのブログで紹介しているが。
また行ってきました。

今回撮影禁止になっていたので、展示されていた切り絵作品ではなく、とりあえず木幡東介の手になるマリア観音のアルバム・ジャケットを載せているが。
こんな感じの作品がたくさん展示・販売されています。

以前見たモノもあれば、新作もあり。
身近なようで意外と身近でない、国内の淡水魚(羽生のさいたま水族館にいるようなやつ)をテーマにしたモノが多い一方で、近作では”お店”をテーマにした連作が目を引いた。
(蕎麦屋さんや古書店を切り絵で表現している。蕎麦を食べる木幡東介自身を切り絵にしたモノもあり)

先に書いた通り、木幡東介の切り絵展にはもう何度か足を運んでいたのだが。
今回、改めて眼鏡をずらして目を作品に近づけ(強度近視で老眼なので、いきおいこうなる)、よくよく吟味してみた。
その野性的とも言うべき作風が、一方でとんでもなく緻密にして細かく丁寧な作業によって実現していることが、改めて実感された。
(遅いよ)
そして、動物を子細に観察して切り絵作品に仕上げていく木幡の”仕事”は、動物の野生に学びながら、西洋音楽の作法に則った現在の一般的な(?)ロックとは違う、人間本来の、そして日本人に固有のビートを追及するマリア観音の音楽と通底している。

木幡東介・明子夫妻(明子夫人のことは今でも旧姓の”伊藤さん”と呼んでしまう俺だが…)が在廊し、楽しいお話を聞かせていただいた。
(音楽の話全然しなかったなー)
明日20時までやってるんで、御都合付く&興味ある方は是非行ってみてください。
入場料500円で、来場者全員に切り絵をあしらったポストカード1枚プレゼントあり。