
寺内タケシとバニーズは、以前シングル「運命」を紹介したことがあった。
(
https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1359.html)
こちらはアルバム。
シングルよりもずっと後になって買ったモノで、シングルよりもずっと安かった。
寺内タケシとバニーズとしては4thアルバム。
全曲がクラシックのエレキ・インストゥルメンタル化という。
当時エレキ=不良という世間の風潮に我慢ならなかった寺内タケシが、じゃあエレキで何を演ったら不良扱いじゃないんだ、となった末に向かったのが、クラシックと民謡だった、ということらしい。
当時のメンバーは寺内タケシ(リード・ギター)、黒沢博(サイド・ギター、ヴォーカル)、鈴木義之(リズム・ギター、ヴォーカル)、小野肇(ベース)、荻野達也(エレクトーン)、井上正(ドラム、尺八、ヴォーカル)。
”サイド・ギター”と”リズム・ギター”って、役割的にどういう違いがあったのか…とか思ったりもするが、ともあれギター3本の6人編成。
エレキ・インストゥルメンタルはギター2本の4人組スモール・コンボ…という常道なんぞはハナから無視し、自身の頭にある音像を実現するためだけにひたすら突き進んだ寺内であった。
(その後の新生ブルージーンズではツイン・ドラム化したりも)
で、シングルとしても紹介した「運命」がA面1曲目で、やっぱり強烈。
寺内タケシの鬼気迫るブチ切れた速弾きと、バンドの異様なハイテンション。
熱い。
(シングルを紹介した時にも書いたけど、この人当時最速ギタリストの一人だったのでは)
かと思ったら「白鳥の湖」でいきなり井上正の尺八が主旋律を吹いていたりして、別の意味でぶっ飛ばされる。
(「ドナウ川のさざなみ」でも尺八が登場)
「熊蜂の飛行」「エリーゼのために」では凄まじい歪みを炸裂させる一方で、「ショパンのノクターン」ではしっとりと優雅なソロを披露し。
(ピアノ曲をギターに置き換えるにはかなりの苦労があったらしい)
「剣の舞」はデイヴ・エドマンズのLOVE SCULPTUREより1年早い。
「未完成」のソロもかなりエグいぞ。
全体的には、凶暴さが支配している。
ガレージ・パンクとかじゃないのにな…。
見開きジャケットの内側には寺内タケシらメンバーのコメントだけでなくミキサーのコメントも寄せられているが、「ともかく音が大きいので、それをいかにそのままレコードに入れるかで苦心しました」とある。
実際、ロック後進国だった1967年当時の日本のレコーディング環境では、相当な苦労があったはず。
一方、単にクラシックをエレキ化しただけでなく、奏法や音色の多彩なヴァリエーションを聴かせ。
原曲の持つ味わいを相当に研究した上でのレコーディングではなかったか。
寺内自身「これが若い世代のクラシック音楽だと思っています」とコメントしている。
(御大、この時28歳であった。全然20代に見えないんだけど…)
果たして日本レコード大賞編曲賞を受賞。
しかし、このアルバムの中ジャケットで全員が「尊敬する人=寺内タケシ」と答えていたメンバーはその後離反。
バンドは分裂/独立し、荻野達也とバニーズとなる。
もっとも、腕達者がそろいながらもカリスマ・寺内タケシを欠いた新バンドは成功から遠く、1971年には解散している。
そして昨年6月に寺内が亡くなるよりも前に、井上正、鈴木義之、荻野達也が世を去っていて。
当時の6人のうち生き残っているのは二人だけという…。