
俺がティナ・ターナーを知ったのは、御多分に漏れずというか(?)、1984年に『PRIVATE DANCER』が大ヒットした時だ。
(全米3位、全英2位)
ワサワサヘアーの黒人のおばさん、という見た目にびっくりしたが(ティナは当時45歳)、えらくカッコよかった。
かつてIKE & TINA TURNERという夫婦ユニットで人気、しかし離婚後のソロ活動はしばらく鳴かず飛ばずだった…というのを知ったのはその後。
で、間違いなく『PRIVATE DANCER』大ヒットへの便乗を狙ったであろう、IKE & TINA TURNER時代のベスト盤。
(ジャケット雑だなー…)
『PRIVATE DANCER』の翌年、1985年にリリースされている。
俺が持っているのは91年のCD。
LP時代のアルバムなので、10曲34分と非常にコンパクト。
意外にも、バンマスにしてDV夫(…)であるアイク・ターナーの曲は少なく、「A Fool In Love」(1960年:全米27位)と「Baby-Get It On」(75年:全米88位)の2曲しかない。
CREEDENCE CLEARWATER REVIVAL「Proud Mary」、THE ROLLING STONES「Let's Spend The Night Together」「Honky Tonk Women」、THE BEATLES「Get Back」…と、白人ロックのカヴァーが半数近くを占める。
そんな中、あのNASHVILLE PUSSYにもカヴァーされたカッコいい「Nutbush City Limits」(1973年:全米22位)がティナ・ターナー自身の作詞作曲であることに驚いたり。
ただし、NASHVILLE PUSSYはIKE & TINA TURNERではなくボブ・シーガーのヴァージョンをベースにしていたかも知れない。
あと、「Let's Spend The Night Together」はIKE & TINA TURNERではなく、離婚前のティナのソロ作『ACID QUEEN』収録曲。
60年のいかにもなR&B「A Fool In Love」から75年のロックっぽい「Let's Spend The Night Together」まで、15年のスパンがある楽曲を時系列バラバラで34分続けて聴くと少々混乱するが、まあどれもナイスです。
「Proud Mary」を聴いて驚いた。
俺が確か小学3年生の時に旭川で観た”スペイン少年サーカス団”…彼らが公演のBGMに用いていたのがその曲だったことは、このアルバムを買う以前にCCRのオリジナルを聴いて知っていたが。
スペイン少年サーカス団が流していた「Proud Mary」は、明らかにIKE & TINA TURNERのヴァージョン(1971年:全米4位)を下敷きにしたアレンジだった、ということに、このアルバムの「Proud Mary」を聴いて初めて思い当たったのだった。
思えば「Proud Mary」は、俺が初めて聴いた”洋楽”だったかも知れない。
ところで俺がこのアルバムを買ったのは、名曲「River Deep, Mountain High」目当てだったのだが。
聴いてみたら、ラジオで馴染んでいたフィル・スペクターのアレンジによる1966年のオリジナル(全米88位)とは似ても似つかない再録ヴァージョンで、そのことにも面食らった。
しかしコレはコレでカッコいい。
オリジナルの録音時にはフィルによってスタジオから締め出されていたとかいうアイク・ターナーのどや顔が頭に浮かぶような。
SLY & THE FAMILY STONEのカヴァー「I Want To Take You Higher」は1970年に全米34位。
ジェシー・ヒルのカヴァー「Ooh Poo Pah Doo」は71年に全米60位。
大ヒットは少なかったが、それなりに人気を得ていたIKE & TINA TURNERだった。
(実は74年までに3回も来日している)
しかしアイク・ターナーとティナ・ターナーは76年に離婚。
その後のティナが『PRIVATE DANCER』でソロとして名声を確立するまでに、実に8年近くを要したのだった。
このベスト盤は当時全米189位と、レーベルの思惑ほどには売れなかったかも知れない。
ともあれIKE & TINA TURNER時代よりもはるかに長く、半世紀近くソロで活動したティナが昨年世を去ってから、1年ちょっと経過している。
ちなみに小学生の俺が70年代に観た”スペイン少年サーカス団”は、スペインの貧しい子供たちを助けるため、キリスト教の神父によって1956年に設立された”ベンポスタ子ども共和国”の少年たちが始めた興行で、彼らが海外公演で得る収入は、ベンポスタの主要な収入源のひとつなのだという。
サーカス団”ムチャーチョス”はコロナ禍を経ても存続し、今では日本人のメンバーもいるらしい。