そこで今夜は、レグ追悼の意を込めて、DOLL2007年7月号に掲載したTHE TROGGSについての記事に、大幅な加筆訂正の上でアップします。
60年代ブリティッシュ・ビートの異端児(?)、THE TROGGS。もっさりしたルックスと、変な声のヴォーカル…大ヒットした「Wild Thing」ばかりが有名で、特にここ日本では知名度のわりにイマイチというかイマサンくらいの評価しかされていない気がするバンドだが、そのやたらアクの強いR&Rが、パンクも含めて後世のロックに与えた影響は意外と大きい。
英国ハンプシャー州の田舎町・アンドーヴァーでレンガ職人をしていたというレグ・プレスリー…ことレジナルド・ボールズが、TROGGSの前身バンドとなるTHE TROGLODYTESを結成したのは、1964年。“レグ・プレスリー”…それにしても随分とんでもない芸名付けたもんだな(なんかエルヴィス・コステロのことを思い出した)。ちなみに当時のレグはリード・ヴォーカリストではなくベーシストだったらしい。
その後1965年にはレグ・プレスリー(ヴォーカル)、クリス・ブリットン(ギター)、ピート・ステイプルズ(ベース)、ロニー・ボンド(ドラム)の4人編成となっていたTHE TROGLODYTESに、THE KINKSのマネージャーだったラリー・ペイジが目をつけたところから、バンドの運命は転がり始める。バンド名をTHE TROGGSと改めて、CBSレコーズとの契約を取り付け、4人は66年2月にシングル「Lost Girl / The Yella In Me」でデビューを果たす。この時点では特に話題にもならなかったTROGGSだったが、新たにフォンタナ・レコーズと契約して66年4月にリリースしたシングル「Wild Thing / From Home」が7月には全米チャートのNo.1という特大ヒットに(全英チャートでは2位)。バンドはいきなりスターの座をつかむ。
…「Wild Thing」。THE TROGGSの代表曲…というか、日本ではTROGGSといえばこの曲以外に話題がない感じだが、彼らのレパートリー中でも確かに突出した曲ではあった(オリジナル曲じゃないんだけど)。イントロのギター一発、その後に続くはボ・ディドリー・ビートをヒネったと思われる独特のズンドコ・リズムとヘヴィなリフ。そしてもの凄く変な声の、ねっとりしたヴォーカルによる、あからさまにセクシーな歌詞。更に何故かギター・ソロじゃなくてオカリナが入ってる(!)。
「Wild Thing」は当時ヒットしただけじゃなく、後の世のミュージシャンたちに愛された曲でもある。TROGGSのヒットの翌年、1967年にはあのジミ・ヘンドリックスが超ハードかつサイケデリックにカヴァーしていたし(ジェフ・ベックやVAN HALENもカヴァーした「Wild Thing」は、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの先鞭といえなくもない)、70年代にはTHE RUNAWAYSもレパートリーにしていた。そして80年代にはTHE DAMNEDも。
SLADEやゲイリー・グリッターやスージー・クアトロといったグラム・ロック勢が得意としていたドンドコいうリズムも、元をたどれば「Wild Thing」に源流があるともいえる(実際、スージー・クアトロは80年代にレグ・プレスリーとの共演シングルで「Wild Thing」を歌っている。出来はひどいが…)。グラム/グリッター・ロックがパンクに与えた影響を思えば、「Wild Thing」もパンクのそのまた源流のひとつ、ということになるだろう(今改めて聴くと随分牧歌的に響いてしまうものの、当時は放送禁止になったこともあるのだ)。
「Wild Thing」のヒットを受けて、THE TROGGSは1967年に1stアルバム『FROM NOWHERE』をリリースする。明らかにTHE KINGSMENのヴァージョンを下敷きにしているようなのに、「Wild Thing」ばりのズンドコ・リズムで奇怪極まりない仕上がりになっている「Louie Louie」とか、聴きどころ多数。ギターのセンスなんかはTHE KINKSに近いモノがあると思うんだが、この人たちはリズムの感覚が同時期の他のバンドとは決定的に違っていた。単なる人気バンドというワケじゃなく…R&Bをベースにしながら明らかに独自過ぎる進化を遂げていた当時のTROGGSは、キース・リチャード(もちろんTHE ROLLING STONES)あたりも高く評価していたらしい。
アルバム『FROM NOWHERE』は全英6位まで上昇。次いで同じ1967年に『TROGGLODYNAMITE』(コレも全英10位のヒット)、68年には『CELLOPHANE』『MIXED BAG』、69年にはライヴ盤『TROGGLOMANIA』とアルバムが連発される。
…しかし、THE TROGGSの真髄はシングルにあり、と言っておこう。「Wild Thing」以降にも「With A Girl Like You / I Want You」(全英1位/全米29位)、そしてラリー・ペイジが新たに設立したレーベル、ペイジ・ワンに移籍しての「I Can’t Control Myself / Gonna Make You」(全英2位)、「Anyway That You Want Me / 66 5 4 3 2 1 」(全英8位)と、TROGGSのシングルは大ヒット。1967年に入っても、「Give It To Me / You’re Lyin’」(全英12位)、「Night Of The Long Grass / Girl In Black」(全英17位)、「Hi Hi Hazel / As I Ride By」(全英42位)、「Love Is All Around / When Will The Rain Come」(全英5位、そして久々に全米チャートでも7位を記録)とヒットが続く。
「Wild Thing」に限らず、66年までのTHE TROGGSのシングル曲がその後のロックやパンクに与えた影響は大きい。「With A Girl Like You」B面の「I Want You」はMC5の「I Want You Right Now」に化けたし(MC5のアルバム『KICK OUT THE JAMS』を見ると、「I Want You Right Now」の作曲クレジットはMC5となっているが、コレはTROGGSの「I Want You」の改作、というか単にカヴァーと言っても間違いないだろう)、RAMONESやBUZZCOCKSやCANVEY ISLAND ALL STARS(THE DAMNEDやEDDIE & THE HOT RODSのメンバーによるプロジェクト)なんかが「I Can’t Control Myself」をカヴァーしていたりもする。
だがしかし、世の中は移り変わるのが常。1967年になると英国のロック・シーンにもサイケデリックの波が押し寄せてきていた。60年代前半からブイブイいわしていた(?)DOWNLINERS SECTは失速を余儀なくされ、THE PRETTY THINGSは音楽性を大幅に変えていた…そんな時代だ。THE TROGGSの音楽も、「Love Is All Around」の頃にはサイケ・ポップを意識したかのややソフトなモノになってきていたが、そんな路線変更で第一線に留まれるほど世の中は甘くなかった。
68年には初のアメリカ・ツアーも行われたが、「Wild Thing」の大ヒットから2年も経ってからでは、それも遅過ぎた感があり。そして、「Love Is All Around」に続く68年2月のシングル「Little Girl / Maybe The Madman」が全英チャートの37位まで上昇したのを最後に、TROGGSの名前はヒット・パレードから消えた…。
引き続きシングル・リリースを続けて頑張っていたTHE TROGGSだったものの、彼らの試行錯誤はこの頃ハズレまくる。1969年春頃には一時期解散状態だったらしく、メンバーがそれぞれソロ活動をしてみたり(すぐにバンド活動を再開するが)。…結局TROGGSは70年秋にラリー・ペイジと別れて新レーベルDJMに移籍。しかしここでも上手く行かず、パイ・レコーズに移籍。
そうこうする間にピート・ステイプルズとクリス・ブリットンが相次いで脱退。バンドは後任にトニー・マレイ(ベース)とリチャード・ムーア(ギター)を迎える。ちなみにトニーはナイジェル・オルソン(ドラム:後にエルトン・ジョンのバンドで人気)も在籍していたPLASTIC PENNYの元メンバー。
とにかくTROGGS、活動だけはしぶとく続けていた。そして、それは報われることになる。
…パイからの1972年のシングル「Everythings Funny / Feels Like A Woman」は、明らかに様子が違っていた。A面の躍動感溢れるビート、B面の全盛期もかくやというズンドコ・リズム。そしてパイでの3枚目のシングル「Strange Movies / I’m On Fire」(73年)がまた凄かった。「Strange Movies」での、躍動感通り越した強烈にワイルドなビート、レグ・プレスリーのあえぎと叫び。歌詞の内容はポルノ映画のことを歌っていたんで、イギリスでは放送禁止となったが、スペインではNo.1ヒット。
パイからはアルバム・リリースの機会こそなかったものの、THE TROGGSは地道なツアー生活の中で、再評価の波が来ていることを肌で実感しつつあった。時はまさにグラム・ロック全盛の時代。SLADEやスージー・クアトロがTROGGSへのリスペクトを表明するまでもなく、「Everythings Funny」や「Strange Movies」を聴けばTROGGSが彼ら本来のビートを前面に出しつつ時代ともリンクしていたことがよくわかる。
1974年になるとTHE TROGGSはラリー・ペイジと再び手を組み、75年1月にはペイジの新レーベル、ペニー・ファージングからシングル「Good Vibration / Push It Up To Me」を、続いてアルバム『THE TROGGS』をリリース。約半数の曲がカヴァーで、THE ROLLING STONESの「Satisfaction」を得意のズンドコ・リズムで料理していたり。「Wild Thing」をレゲエ(!)にアレンジした新ヴァージョンも収録、と企画モノっぽいニオイもするが、1曲目からシャキッとしたビートでハードにキメてくれる。
個人的には、その昔初めて聴いた時は「なんだこりゃ」と思ったものの(苦笑)、今では大好きなアルバムだ。この頃の TROGGSは、自分たち本来のズンドコR&Rを演りながら、72~73年同様にその時代と十分にリンクした音を出していた。72~73年のTROGGSはグラムとリンクしていたが、75~76年のTROGGSはカッコいいパブ・ロックに聴こえる(ただ、残念ながらシングルもアルバムもヒットはしなかったらしい)。
ちなみに80年代後半、俺が初めて買ったTROGGSのレコードが、この『THE TROGGS』だった。「Wild Thing」のレゲエ・ヴァージョンでは元FLEETWOOD MACのピーター・グリーンが参加しているということで、ずっとそれを信じ切っていたが、2004年に『THE TROGG TAPES』が紙ジャケCD化された時に小松崎健郎さんのライナーノーツを読んだら、同姓同名の別人…ということで、びっくりしたのを思い出す。
その後バンドにはコリン・フレッチャー(ギター)が加入して、THE TROGGSはギター2本の5人編成となる。コリンはクリス・ブリットンのソロ・アルバム『AS I AM』(1969年)やトニー・マレイの在籍したPLASTIC PENNYのプロデューサーで、そのつながりで参加したモノと思われる(コリンは当時BAY CITY ROLLERSのレコーディングにも参加している)。76年にはアルバム『THE TROGG TAPES』をリリース。前作同様のパブ・ロック的R&Rに、パワー・ポップ的なテイストも感じられる(ヴォーカルがアレだから全然パワー・ポップそのものには聴こえないが)。
同時期に再評価されたDOWNLINERS SECT同様、パンク・ムーヴメントはTROGGSにも追い風となった(BUZZCOCKS他多くのバンドがTROGGSへのリスペクトを語った)。78年にはコリンとリチャード・ムーアが脱退したが、なんとオリジナル・ギタリストのクリスが復帰。
『THE TROGG TAPES』を最後に再びラリー・ペイジと袂を分かったものの、バンドは70年代末からは久々にアメリカ・ツアーも行なうようになり、あのMAX'S KANSAS CITYでもライヴを敢行。80年にはMAX'S KANSAS CITYのレーベルからライヴ盤『LIVE AT MAX'S KANSAS CITY』もリリースされている。
80年代以降、音源リリースは減ったものの、THE TROGGSはしぶとく活動を続けていた。あのフランスのニュー・ローズが彼らに目を付け、1982年にはニュー・ローズからアルバム『BLACK BOTTOM』をリリース(「Strange Movies」を10年近く経って再録してみたり)。その後90年にもニュー・ローズからアルバム『AU』をリリースしている。
91年にはR.E.Mが「Love Is All Around」をカヴァー。92年にはそのR.E.Mとの共演アルバム『ATHENS ANDOVER』を出しているし、94年にはWET WET WETも「Love Is All Around」をカヴァーしたり(なんと全英1位に)と、相変わらず後続のロッカーたちからのリスペクトは篤い。
90年代初頭にはリズム・セクションが交代し、ピート・ルーカス(ベース)とデイヴ・マグス(ドラム)に。ロニー・ボンドはバンド脱退後の92年11月13日に肝臓癌で亡くなってしまったが、THE TROGGSの活動は21世紀に入っても続いた。
そうして2011年まではライヴで歌い続けていたレグ・プレスリーだったが、12年1月、肺癌を理由に引退を表明。それでもバンドは、ただ一人残ったオリジナル・メンバー(出戻り)のクリス・ブリットンを中心に、現在も活動を続行している。
上に書いたとおり、シングルが多いバンドなんで、オススメはシングル・コンピレーションか。ドイツのレパートワーから出たCD3枚組の編集盤『THE SINGLES As & Bs』(2004年)は特にオススメしておこう。
この13年1月には、02年のライヴを収録したDVD『LIVE AND WILD IN PRESTON』がリリースされている。それから約2週間後の、レグ・プレスリーの訃報だった…。レグの御冥福をお祈りします。
(2023.11.1.改訂)
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