『ウェインズ・ワールド』(1992年)のヒットでも知られる映画監督、ペネロープ・スフィーリスによる音楽ドキュメンタリー“The Decline Of Western Civilization”(西洋文明の衰退)三部作。
その第2作である『ザ・メタルイヤーズ』(88年)は89年に日本でもかなり話題になったが、それとてもう27年も前のこと。
3月から4月にかけて、その3部作が改めて日本で公開される。
今回は三部作のうち、第3作である『ザ・デクラインⅢ』(98年:原題『THE DECLINE OF WESTERN CIVILIZATION:PART Ⅲ』)を紹介。
前2作と違って日本で公開されなかった…どころか、世界的にもほとんど上映されたことがなかったという、いわば幻の1作。
1980年前後のLAパンク・シーンを題材とした『ザ・デクライン』(1981年:GERMS、X他出演)、80年代後半のLAメタル・シーンを取り上げた『ザ・メタルイヤーズ』(FASTER PUSSYCAT、POISON他出演)。
そして『ザ・メタルイヤーズ』から10年近く経過した頃に、ペネロープ・スフィーリスは再びLAのパンク・シーンを取材した。
しかしLAといっても広く、『ザ・デクライン』の頃とはシーンも一変している。
GREEN DAYやRANCIDといったバンドのブレイクで、パンクがアメリカのロック・シーンを塗り替えている一方、シーンの多様化は進み、アンダーグラウンドな世界ではメディアに取り上げられるようなこともあまりないハードコア勢が跳梁跋扈し。
この映画に登場するのは、そういった比較的有名でないハードコア・パンク・バンド群。
(FINAL CONFLICT、NAKED AGGRESSION他)
そして、シーンどころか社会の最底辺に位置するような、“ガター・パンクス”と呼ばれる若者たち。
世界の各地に、廃墟を不法占拠して生活する、スクウォッターと呼ばれるパンクスが存在することは、今ではかなりよく知られるところだが。
ガター・パンクスは、明らかにそれ以下だ。
大半が住み家を持たずに野宿同然の暮らしをし、もちろん仕事もなく(そして仕事をする気もなく)。
通りに出ては通行人に小銭をせびり、あるいは観光客相手に写真を撮らせてわずかな金を得て。
さもなければ盗みを働き。
そうして手にしたちょっとの金でビールかドラッグを買う。
ほとんどが劣悪な家庭環境に育ち、親に殴られたりする家よりもましな環境として路上生活を選んだような連中。
…というと、まったく救いのない陰鬱な状況と感じるが。
しかしガター・パンクスたちは、集まってはビールを飲んでハイになり。
日々生きていくのに最低限の金すらないのにモヒカンの脇はきちんと剃り上げ、髪を染めて立てている。
確かに試写会場では「重い…」という声が聞かれた。
「しかし、なんだか妙に楽しそう」と思ってしまったのは、俺だけだろうか。
もちろん、明日をも知れぬ日々。
楽しくないことの方が圧倒的に多いに決まっている。
しかし、ガター・パンクスは、圧倒的に自由だ。
その自由の代償がいかに大きなモノであったとしても。
随所で語られる悲劇は、彼らの日々がどれほど困難に満ちているかを示唆する。
しかしこの映画は、ガター・パンクスが“西洋文明の衰退”の一例なり象徴なりであるとしているのではない。
“西洋文明の衰退”はとっくに進行していて、最底辺まで弾き飛ばされたのがガター・パンクス…カメラはそれを淡々と映し出す。
演奏シーンとかは、それほど多いワケではない。
音楽それ自体に関する話はあんまり出てこないので、パンクに詳しい人しか楽しめないということはない。
というかむしろ、パンクにもロックにもあまり詳しくないような人でも楽しめる内容になっていると思う。
昨今流行りの音楽ドキュメンタリー映画とは、実は全然違った種類の映画だ。
音楽よりも、社会の縮図、そして人間の愚かしさと愛おしさを表現した映画だと思う。
誰が観に行っても、その日暮らしのガター・パンクスの中にお気に入りの若者を一人は見つけられるのでは。
『ザ・デクライン』は、3月19日(土)~25日(金)まで。
『ザ・メタルイヤーズ』は、3月26日(土)~4月1日(金)まで。
『ザ・デクラインⅢ』は、4月2日(土)~8日(金)まで。
それぞれ新宿シネマカリテでレイトショー。
『ザ・デクライン』と『ザ・メタルイヤーズ』も必見。
(C) 1998 Spheeris Film Inc. All Rights Reserved.
追記:
ペネロープ・スフィーリス監督は、この映画の撮影を機に、ガター・パンクスの一人と付き合うようになったとか…。
(2024.9.25.改訂)
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