EARTH OPERA(1968)

画像若い頃、NHK-FMの「クロスオーバーイレブン」をよく聴いていた。
(今でもやってるのか?)
「ジェットストリーム」ちゃうよ。
(いや、「ジェットストリーム」もたまに聴いてたけどさ)
深夜に放送してて、語りが入って、間に曲がかかって・・・というと「ジェットストリーム」と「クロスオーバーイレブン」は似てなくもないんだけど(今気付いた)、「クロスオーバーイレブン」は曲紹介もなしにえらいマニアックな曲を流すことが多くて、なかなか無視出来ない番組だった。
夕刊の週間FM番組表(今や絶滅、どこの夕刊にも載っちゃいない)をチェックしても全部の曲目が載ってるワケじゃなくて、とにかくエアチェックして、なんだかわからないけど凄くいい曲だ…と思って聴いてたのが実は名前しか知らなかったあのバンドのあの曲だった、ということがよくあった。
レコードを買う金がなくて、ラジオを聴く時間はたっぷりあった“洋楽初心者”の頃、TELEVISIONの「Marquee Moon」もロビン・トロワーの「Bridge Of Sighs」もJOY DIVISIONの「She's Lost Control」も、初めて聴いたのは全部「クロスオーバーイレブン」でだった。

EARTH OPERAの名曲「Time And Again」も、初体験は「クロスオーバーイレブン」だった。
時々サイケやガレージ・パンクの特集をやっていて(特に“特集”とか銘打つでもなく…)、その頃サイケやガレージのレコードなんて売ってないし高価いし、本当に役に立ったのだ「クロスオーバーイレブン」。
(NHKの回し者ではございません)
で、ある晩の放送を、例によって曲名もわからないままカセットテープに落として、“知らない曲ばっかり入ってるサイケのテープ”として聴いてた。
その中に、もの凄くダルで侘しい曲が1曲あって、ヒジョーに気に入ったんだが。
その曲こそEARTH OPERAの「Time And Again」…と知ったのは、ずっと後になってからのことだった。

EARTH OPERAはピーター・ローワン(ヴォーカル、ギター他)とデイヴィッド・グリスマン(マンドリン、ヴォーカル、ピアノ他)を中心に結成されたアシッド・フォーク/フォーク・ロックのバンドというかユニットで、2枚のアルバムを残している。
ピーターはブルーグラス界のスター、ビル・モンローのバンドBILL MONROE AND HIS BLUE GRASS BOYSでギターを弾いていた人。
一方デイヴィッドは60年代前半からグリニッチ・ヴィレッジのフォーク・シーンとかでマンドリン奏者として活動していた人で、ジョン・セバスチャンとかマリア・マルダーなんかと同じバンドにいたことも。
『EARTH OPERA』は1968年にリリースされたEARTH OPERAのデビュー・アルバムで、アメリカン・サイケの名盤としてわりと知られている、と思う。
ピーターとデイヴィッド以外のメンバーは、ジョン・ネイギー(ベース、チェロ)、ビル・スティーヴンソン(キーボード、ヴァイブ)、ポール・ディロン(ドラム他)。

1968~71年のアメリカン・サイケの一部には、その頃にしかあり得ない儚く脆いセンシビリティの極地、みたいなのがあった。
MC5やTHE VELVET UNDERGROUNDやTHE STOOGESに入れ込みまくっていた若い頃「真のサイケは東海岸や中西部の、アシッドでアッパーな、暴力的なやつ! 西海岸サイケなんて全然ダメ!」とかアホなことを思っていた俺だったが。
年齢を重ねるにつれ、西海岸を中心とするハードでもへヴィでもないサイケデリック・ロックの、単にユルいとかポップなだけではない繊細な感覚にシビレるようになった。
だがその最上の感覚は、どのバンドもほんの一時期しか持ち得なかったモノだ。
QUICKSILVER MESSENGER SERVICEなら何と言っても71年の『WHAT ABOUT ME?』…その前も後も全部イイんだけど、ちょっと違う。

当時東海岸で活動していたEARTH OPERAも然り。
この1stアルバムにおける脆さ儚さ、揺らめく陽炎のようなとらえどころのなさ、狂気と紙一重の美しい響きといったら。
翌1969年の2ndアルバムも名作だが、やはりというか少々音が太く、ロック度を増していて、『EARTH OPERA』でのセンシビリティが本当に一瞬の線香花火のような、得難いモノだったことを認識させられる。
特に、俺が大好きになった「Time And Again」の、陽炎の彼方で鳴っているような演奏と、ピーター・ローワンの寂寥感に満ち満ちた、かつトリッピーなヴォーカルの素晴らしさ。

EARTH OPERAでの活動後、ピーター・ローワンはBLUES PROJECT残党のSEATRAINに参加。
一方デイヴィッド・グリスマンはGRATEFUL DEADの『AMERICAN BEAUTY』(1970年)でプレイ、当時のGRATEFUL DEADのカントリー/アコースティック路線に一役買っている。
73年には再び合流して、クラレンス・ホワイト(ギター、ヴォーカル:元THE BYRDS)らとのMULESKINNERや、ジェリー・ガルシア(ギター、ヴォーカル:GRATEFUL DEAD)とのOLD & IN THE WAYなどでブルーグラスをモダナイズ。
デイヴィッドは70年代後半以降、THE DAVID GRISMAN QUINTETでブルーグラスの更なる発展型を追求していくことに。
90年代前半にはジェリーと組んでジャズにアプローチしたりで、99年には来日も果たしている。
その後二人は90年代後半にまたも合流、OLD & IN THE GRAYとして活動している。
そうしてEARTH OPERA以降もイイ音楽を演リ続けていくんだが、このトリップ感とセンシビリティばかりは『EARTH OPERA』でしか聴くことが出来ない。
今夜は延々とリピートで聴き続けている…。


追記:
「クロスオーバーイレブン」、もう20年くらい前に終了してたのね…。
家でラジオを聴かなくなって、もう随分経つ。


(2023.1.3.改訂)

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