第3回/最終回となります。
前2回はかなりの反響で、ブログのアクセスが普段の3倍以上に。
(ツイッターなどで感想アップしてくれたりコメント下さった皆様、ありがとうございます)
さて第3回は室井氏が“沢田新”名義で原作を担当する『バイオレンスアクション』について、そして今後の話など。
※インタヴューその1
https://lsdblog.seesaa.net/article/201907article_7.html
※インタヴューその2
https://lsdblog.seesaa.net/article/201907article_8.html
―『レイリ』と並行する形で『バイオレンスアクション』の連載が始まって、たちまち人気作となったんですけど。
室井「はい」
―『レイリ』が初の原作付きだったのに対して、自身が原作を務めて、他の人が作画をするっていうのも初めてですよね?
室井「そうですね」
―コレは、どういう経緯で?
室井「『エバタのロック』を一緒にやってた担当さんと打ち合わせして「次にまたなんかやろっか」って言ってくれて、「でも『レイリ』やるから絵は描けないッスよ?」「だったら」っていう感じ。原作だったらっていう…」
―『レイリ』が忙しいから絵まで描いてられない。
室井「そういう言い方はアレだけど(苦笑)。それで、岩明さん…ずっと尊敬してた人と仕事するから、秋田書店の担当編集の沢さんに「岩明さんの仕事だったら、仕事1本に絞って頑張ります!」って言って、こっそり小学館でネーム描いて(笑)。俺、仕事断われないし誰にでもいい顔するから…。でも、どうせ(企画が)通るはずねえと思ってたんですよ」
―へえ。
室井「小学館の担当者が「室井さんは、女の子が人をパンパン撃ち殺す漫画を描いた方がいいですよ」って。俺その手のがあんまり趣味じゃなかったから(苦笑)。今思えば、俺だったら成立させられるだろうっていう期待込みで言ってくれたと思うんですけど、そん時は無理だろ…と思って、けっこう地獄みたいな気分になって」
―(苦笑)
室井「散々悩んで、ヤケになって第1話とか、5時間くらいで手癖で書いて「どうせ通る訳ねえから大丈夫だろう」と思ったら、才能あるから通っちゃって(笑)」
―(笑)。
室井「「うわ~どうしよう~、沢さんに言えねえ~…」と思って(苦笑)」
―…どの時点まで秘密だったんですか?
室井「えっとね、『バイオレンスアクション』の1巻出る3日前まで秘密だった(笑)」
―で、告白したんですか?
室井「したした(笑)。秋田書店に行って「ちょっと話があるんです」って。2時間怒鳴られて…(苦笑)」
―うわあ…。
室井「(笑)「こっちの作品も遅れてんのにオメエ、ふざけんな、殺すぞ!」って言われて…」
―(笑)
室井「「そんなにスピリッツがいいのか! スピリッツかー!!」っていう(笑)」
―(爆笑)
室井「俺マジ泣きしちゃって(苦笑)。でも、最終的に沢さんが「産んだ子供は殺せねえからどっちも頑張るしかねえじゃん」って言ってくれて…」
―め、名台詞!
室井「ねえ?…流石だよね。俺、大好きだよ沢さん(笑)」
―…で、作画は浅井蓮次さん。
室井「はい」
―浅井蓮次さんに決まった経緯は?
室井「担当編集者さんと一緒に、会議机にどかんと色んな作家の単行本を積んで、誰それがいい、この人は?…という打ち合わせを重ねて。その中で「この人だったらいい感じにしてくれるんじゃないか」って」
―わりと編集サイド主導で決まった?
室井「いえ、わりと民主的に」
―浅井蓮次さんとは、会ったり…。
室井「あります。ホントに作画の表情が良かったんで、ありがたいなあと思って。」
―『レイリ』は岩明さんのテキストで、『バイオレンスアクション』は室井さんのネーム原作。
室井「それは、最初は俺が作画までっていう感じだったから、ネーム原作にしたんですけど」
―ネーム見せてもらったことありますけど、完成原稿はイイ意味で全然違う。
室井「絵はその人その人のもんですから(笑)」
―だから、このコンビでよかったなって。
室井「そう言ってもらえると嬉しいです。俺のせいで長く休載しちゃって、浅井さんにも迷惑かけてしまって。でも連載再開後の絵が、ブーストかかって良くなってて、ありがたいなーって」
―室井大資作画だったら、ここまでヒットしてたかなって、正直…。
室井「もうちょっとダークなものになってたでしょうね。あの絵でけっこう、感情の奥行きとかを出してもらえる感じになったのは、凄くありがたい」
―結果、大ヒットじゃないですか。
室井「大ヒットって言ってもね、そんなめちゃめちゃヒットっていう訳でもないですよ。〇万行ってないぐらいですから…」
―十分だよ(笑)。
室井「そりゃ、俺にしてみりゃ十分ですよ。去年・一昨年ぐらいで、俺、作家人生的なもの、十分ですね、もう。岩明さんと仕事出来て、町山(智浩)さんに帯コメントもらって(笑)」
―『バイオレンスアクション』は、荒唐無稽を恐れずエンターテインメントに徹したというか。
室井「荒唐無稽さっていうのは、最初の設定…設定に頭を抱えたんだけど、そこから切り替えて、そのジャンルに対していかに誠実であるかっていうことを考えようと。やるんだったらちゃんとやらないとっていう気持ちが『バイオレンスアクション』というタイトルに直結してて。『バイオレンスアクション』っていうタイトルを付けるのは、そのジャンルに対して批評性を持ってやりつつ、本道をやるんだっていう、意思表明。バイオレンスアクションっていうジャンルに対する異化作用というか。本道をやってても、ちょっと違うんだぞっていう…」
―ずらし。
室井「ずらし。同じ彫刻に、真正面から光を照らすのと、下の方から光を照らすので、浮かぶ陰影は違うけど、でも結局、同じ彫刻じゃないですか。そういうことで、ちゃんとそのジャンルの本道っていうのはやらなきゃいけないなっていうのは思ってて。だからずらし、すかしっていうのもその手段ですよ。ちゃんとその本道をやるっていうことの。皮肉だけだったら、続かないですからね」
―非常に魅力的なキャラクター…何処かネジが1本飛んでる人ばかり出てくる漫画ですけど(笑)。
室井「うんうん」
―みちたかくんが死んでなくて、後々まで絡んでくるっていうのは、出て来た時から考えてたんですか?
室井「いや…俺がみちたかくん大好きで、編集者が止めてたんですよね(苦笑)。でもやっぱり、暴力と笑いって、合う…親和性が強いっていうか。「ごっつええ感じ」の血しぶきが飛ぶようなコントとか、凄く笑っちゃうんですよね。みちたかくんのキャラクターって、言ってみれば『エバタのロック』っていう作品の、エバタ的な…エクストリームで、人生から屹立しているような人の立ち位置と、けっこう一緒なんですよ」
―いわゆるアウトサイダー。
室井「まあ、そうですね」
―アウトサイダーって、突き詰めると笑えるっていうか。
室井「ロックスター漫画ってけっこうジャンルがぼんやりしてる感じで、それが(『エバタのロック』が)あんまり訴求出来なかった理由のひとつでもあると思うんですけど」
―ああ。
室井「それが、暴力漫画っていう中にああいうエバタ的なキャラクターをポンって置くと、ホントに映えるっていうか…やってることは同じなのに(笑)。だから最近になって思うんですけど、誰に向けて何を描くかを精査するのが大事っていう…俺の周りの友達とかでもいっぱいいるんですけど、才能にあふれてるのにけっこうパッとしない人がいて。まあ俺もパッとしてるかわかんないですけど(笑)、そういう人って、1回、わかりやすいジャンルという“型”の中で、何かやった方がいいと思うんですよ」
―…そういう流れの中で、室井さんが常々公言している“漫画家はサービス業”っていう言葉があるんですけど。
室井「うんうん」
―この言葉について、出来れば室井さん自身の言葉で、説明してほしいと思うんです。作家性と商業性のバランスとかについて。
室井「それは二律背反するようなものじゃなくて、併存してていいと思うんですよ。ただそのバランスの配分っていうか…例えば音楽だったら、アジテーターでもよかったりする場合もあると思うんですね。でも漫画っていうのは娯楽としての立ち位置が違うし、作り方も違うし。ちゃんと人を楽しませるっていうか、誰かに喜んでもらえるっていうのを優先した方が、わりと生活が楽になるよって(笑)。別に、そうじゃない人はそのままアジテートしてくれれば全然いい話だし、俺はシフトしたってだけですけど。そもそもそういう風に考えないと、俺ってホントに自分アピールとか我欲が凄い強い人間だから「サービス業だ!」って自分に言い聞かせてるぐらいがちょうどいいんですよ」
―ああ。
室井「でも、結局フィクションって…俺は、負けてる人に寄り添うような仕事だと思うんで。だから、岩明さんが言った「作品に対して“端女”でいいんです」っていう…。楽しんでほしいし、俺も、ポップで明るいものを描く方が嬉しいし。自分のデトックスにもなるし。実人生がつらい分ね(笑)」
―(笑)でもどうですか?…商業的に一定の成功を収めたことで、つらい実人生っていうのも、また変わったと思うんですけど。
室井「仕事と実人生を分けて考えてるんで(笑)。…そんなめちゃめちゃ幸せな訳ではないですね。口座残高見て多少ほほえむ感じではあるけど(笑)。27歳ぐらいの、漫画に全振りしてるような奴が売れたよりかは、俺は凄い冷静に考えてて。「40過ぎて多少パッとしたところで、実人生は別だ」って思っちゃうんです。だから、ちゃんと売れるべき時期に売れて、100パーでそれを喜べる奴とか、ホント羨ましいと思って。…もうちょっと、大人になる前にちゃんと売れたかったですね(苦笑)」
―…個人的な想いで言うと、寄り道とか回り道はないと思ってるんで。実人生を振り返って(笑)。だから、そういう風でしかあり得なかったのかも知れないし。
室井「まあね、結果論そうですけど。俺だって、30歳ぐらいまで、超馬鹿でしたもん(笑)」
―(笑)
室井「頭悪いし、ネームも糞つまんないしさ(苦笑)。まあ、こうしかなり得なかったんだと思いますけど。これから先もどうなるかわかんないですしね(笑)」
―それで言うと、今後は?
室井「今後ですか?…幸いなことに需要は結構あるので。でもホント、仕事を断ることが出来ない。気が弱くて(笑)。でも、そうするとまたお酒に溺れたりとか、鬱になったりとか、ダメになっちゃうと思うんで、ちゃんと精査して。ちゃんと調律の効いた美しいものを描きたいですね。次は…今決まってるのは、別冊チャンピオンで、ヒーローものの読み切りを描くっていうのが。あとは、平山夢明さんっていう小説家が…25年ぐらいずっと好きなんですけど。うちのスタッフが行ってる飲み屋に平山さんが来てるってのを聞いて、名刺と単行本をスタッフに託して、渡してもらって。そしたら作品気に入ってもらえて。それで、何度かお会いして「なんかやろっか」っていう話になって」
―素晴らしい。
室井「でも俺も平山さんも遅いから(笑)、わかんない…。でも嬉しいですよ、好きな人と仕事出来る…岩明さんもそうですけど。他にも幾つか、やりたいことはあるんですけど、それは需要次第というか。…突き詰めたらやりたいこと、ないんですよ(笑)。やりたいのは、人間関係とかそういうことだけですから。何のジャンルでも別に何の問題もない」
―うん。
室井「それが4コマでも児童漫画でも絵本でも、ハードバイオレンスでも。ただもうちょっとね、ちゃんと、俺がやってる漫画だってのを統合したい気持ちはありますよね」
―ちなみに、ネット上で熱望論が消えない『イヌジニン』続編っていうのは…。
室井「(食い気味に)ないですないです。電書出してもさっぱり売れなかったですしね」
―売れてないんだ?…電書で風向き変わるかと思ったのに。
室井「全然ないです。10年経って、(続編を望む)声が消えないって、凄くありがたい…なかなかないじゃないですか。だからすげえ嬉しいんですけど。売れなかった作品の続編なんて、誰も買わないし。それをやっても僕の生活が立ち行かなくなるし…。各々の心の中で、いい作品と思ってくれるんだったら、それはとてもありがたいんで。ただ、俺はまだ他のことをやれる余力も才能もあるし。やらないですね。」
―…では締めましょう。一定の成功を収めた漫画家として、例えば今漫画家を志望している人とか、若い漫画家に言うことって、何かありますか?
室井「業界自体がシュリンクしてるような状況で、漫画家を目指す奴なんて、馬鹿か負けてる人しかいないので…」
―(爆笑)
室井「(笑)だから、そういう人は仲間ですよ。でも誰がどうなるかわからないんで…今は馬鹿でどうしようもなくても、10年経ってどうなるかわからないってのは、俺が実証してる訳だし。だから頑張って欲しい。頑張って欲しいっていうか、俺だって何年か先、どうなるかわかんないし。凄いフェアな業界だと思うんですよ。ビハインドがアドバンテージになる数少ない業界。友達一人もいない奴が、友達欲しいなと思って、友達を描いたら100万部売れたとかさ、そういう感じというか、何か欠けてる人の仕事だと思うんで…」
―(笑)
室井「映画なんかは、けっこうスタッフとかコネとか、政治力とか、プレゼンの上手さとかで何とかなったりとか…」
―チームじゃなきゃ出来ないし…。
室井「音楽とかも、売れてるものがいいものとは限らない。漫画って、売れてるものがおおむね面白い。好悪は別にして。新人賞なんかもコネで入選とかあり得ない。で、性差も年齢も関係ない訳じゃないですか」
―はい。
室井「だから、そういう意味ではフェアでいい業界で、俺はやなことも含めて漫画家を凄い楽しんでるんで、あなたたちも楽しめたらいいね、って思う。もちろんクラシカルな請負業態じゃなくって、SNS経由で、新しいシステムのもと食っていこうとしている人もいると思うけど、その人たちも含めて、楽しめたらいいねって」
―方法論的なアドヴァイスじゃなく…?
室井「はい。あと人柄をよくした方がいいッスよ、ホントに(笑)。(編集者の)言うことハイハイ聞くっていうんじゃなくって、いろんな人を赦すとかさ…若い頃って、けっこう、誰も彼もが馬鹿に見えてさ。「俺は最高!」みたいな感じに思っちゃったりしがちだけど、でもそうじゃなくって、みんながみんな、ちゃんと生きてる訳だから。人も赦して自分も赦すってことですよ。俺はまだ出来てないですけどね(苦笑)」
―他に何か言いたいことはないですか?
室井「失恋(の話)とかはいいんですか?…失恋から5年鬱になったとか」
―それ掘ってもなあって。
室井「まあ、みんな地獄の時期があるから大丈夫ですよ(笑)。地獄はね、糧になるからね」
―まったくその通りですね…。
室井「“地獄も糧になる”(笑)。大丈夫ですよ」
…以上。
室井大資氏の新作を楽しみに待ちたい。
お読みいただいた皆様、ありがとうございました。
感想などもお待ちしています。
(それは他の記事もいつもだけど)
追記:
室井大資氏はその後も活躍を続けている。
遠からず、もう一度インタヴューしたいと思っている。
必ず実現します。
お楽しみに。
(2025.9.1.)
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