発売日にゲット出来なかったというのもあるが。
先月下旬に入手して以降、1回聴いて、間をおいてもう1回聴いて…を日々繰り返していた。
何度も何度も聴き返したくなる一方で、なかなかこのアルバムについて書ける気がして来なかった。
何処のCD屋でも面出しで売られていたし、このブログを御覧の皆様なら既に俺より何度も聴いている人も多いかも知れない。
イギー・ポップ、『POST POP DEPRESSION』(2016年)から3年ぶりとなる新作。
当然ながらと言うべきなのか、『POST POP DEPRESSION』とはまったく違ったアプローチのアルバムに仕上がっている。
プロデュースは7曲をレロン・トーマスが、3曲を“ノヴェラー”ことサラ・リップステイトが担当。
俺はどちらのことも知らなかった。
イギー・ポップはBBCの自分の番組での選曲を通して彼らを知ったとのこと。
(ノヴェラーは『POST POP DEPRESSION』に伴うツアーのオープニング・アクトに起用されていたという。レロンもPAN AMSTERDAM × IGGY POP名義のシングル「Mobile」で共演済みとのことだが、俺は未聴だった)
二人はそれぞれトランペットとギタースケープで演奏面でも多大な貢献を果たしている。
(レロンは曲によりキーボードも担当)
レコーディングはニューヨークとフランスの4ヵ所のスタジオで行なわれている。
34分弱という短い尺のアルバム。
(IGGY AND THE STOOGESの『RAW POWER』と同じくらいか)
21世紀の今ではミニアルバム扱いになりそうな短さ。
しかし中身は実に濃密。
イギー・ポップと言えば誰もが連想する“パンクのゴッド・ファーザー”というイメージ…からは程遠い作風。
その点で『THE IDIOT』(1977年)や『AVENUE B』(99年)や『PRELIMINAIRES』(2009年)や『Apres』(12年)を思い出すのは簡単。
しかし『THE IDIOT』の作風を直接的に引き継いでいたのは『POST POP DEPRESSION』の方だし。
沈み込むような音を聴かせつつ、イギーにとっての“離婚伝説”だった(?)『AVENUE B』のようには内省的ではない。
(何しろタイトルが一言『FREE』とストレート)
『PRELIMINAIRES』や『Apres』のようにフレンチ・ポップやジャズやシャンソンを歌っているワケでもなく。
歌っているワケでもなく…というか、そもそも歌ってさえいない曲も多かったり。
歌ってさえいない曲…何しろアルバム終盤など、演奏に乗せたポエトリー・リーディング的な内容が3曲も続く。
しかもその詩は自身によるモノではなく、ルー・リードやディラン・トマスの作品。
ディランの「Do Not Go Gentle Into That Good Night」は、あのジョン・ケイル(ディランと同じウェールズの出身)もアルバム『WORDS FOR THE DYING』(1989年)で素敵なメロディを付けて歌っていた有名な詩。
イギー・ポップはノヴェラーのギタースケープとレロン・トーマスのトランペットに乗せて、歌わずに語る。
コレがまた実にディープ。
ルーの71年の詩だという「We Are The People」も同様で、分断が進む今の世界を撃つようなこんな詩をソロ・デビュー以前のルーが書いていたことにも感じ入る。
ディラン・トマスやルー・リードの詩だけではない。
メロディを付けて“歌われている”歌詞もイギー・ポップではなくレロン・トーマスによって書かれたモノが多く。
イギー自身が書いた歌詞は10曲中、なんと3曲しかない。
スリーヴノーツでイギーは「コレは他のアーティストが俺に語りかけ、俺が自分の声を貸しただけのアルバムさ」と語っている。
方向性は違えど、イギーが他人の歌詞を積極的に歌った『PRELIMINAIRES』や『Apres』のアプローチを、カヴァーではなく他人が書き下ろした歌詞を歌うという形で更に一歩進めたモノと言えなくもない。
先に書いたとおり俺はレロン・トーマスとノヴェラーを知らなかったのだが、他の参加メンバーもなんか知らない人ばっかり。
(もっとも、一般的には無名な若いミュージシャンを起用するのは90年代以降のイギー・ポップがよくやって来たことでもある)
ギター、ベース、ドラムとも曲によって複数のミュージシャンが参加していて、それがみんなイイ仕事ぶりで。
特に「James Bond」「Dirty Sanchez」「Glow In The Dark」といった曲では、印象的なベース・ラインが楽曲をリードしている。
お得意のR&Rこそ1曲も入っていないものの、メロディが歌われている曲はやはりイギー一流のロックだ。
(フランク・シナトラ大好きなイギーの面目躍如といった感じのバラード「Page」は、かつて坂本龍一と一緒にやった「Risky」を思い出す人もいるかも知れない)
深いエコー感を聴かせる音作りには90年代の傑作『AMERICAN CAESAR』(1993年)と共通するモノを感じたりも。
しかし長尺だった『AMERICAN CAESAR』に較べると遥かにシンプルな作りのアルバムで、またそれが良い。
こうして聴いてくると、幾つか例を挙げたように、今までと違うアプローチ、新しい方向性のアルバム…でありながら、ひとつひとつの要素は(偶然かも知れないが)これまでにリリースされたイギー・ポップの作品群から巧みに取捨されて統合されているような印象もある。
かつ、確実に新しい一面を感じさせるアルバム。
「James Bond」や「Dirty Sanchez」のちょっとユーモラスな感じなんかは、今までにあまりなかったテイストだ。
72歳のイギー…いまだに進化/深化を続けている。
アルバムのラストを飾るのは「The Dawn」。
すると、イギー・ポップのシルエットが海に入って行こうとしているのか、海から上がってこようとしているのか、一見して判別出来ないジャケット写真…は、とにかく明け方の情景だということだけがわかる。
このジャケット写真は、イギーの筋張った手(爪が汚れているのが見える)が写る裏ジャケットの写真共々、イギーを主役とする短編映画『THE DAWN』からのモノだという。
その映画、是非観たいですね。
それにしても、ジョシュ・ホーミ(QUEENS OF THE STONE AGE)を中心とする素晴らしいメンバーたちと『POST POP DEPRESSION』という傑作をモノにしながら「だが一方で俺は力尽きたように感じていた」「俺は自由になりたかった」と言って、次のアルバムに『FREE』なんてタイトルを付けてしまうイギー・ポップ。
なんて業の深い男だろう…。
『FREE』、9月18日より発売中。
(2025.10.22.改訂)
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