映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』

FISHERMANS FRIEND.jpg俺の大好きな『ブラス!』(1996年)なんかの系譜に連なる、音楽映画の傑作。
しかもコレが実話をベースにしているというのだから。

ロンドンの音楽マネージメント会社で働くダニー(ダニエル・メイズ)は、同僚の結婚前最後のお楽しみ旅行に付き合って、会社のメンバー4人でコーンウォール州の港町ポート・アイザックにやって来た。
羽目を外して大いに楽しむ一行だったが、地元の漁師たちは我が物顔に振る舞う都会者を冷ややかに見つめていた。
街で安宿を営むシングルマザーのオーウェン(タベンス・ミドルトン)も、運転中に路上でダニーたちとトラブルになり、敵意をむき出しにする。

漁師たちはFISHERMAN'S FRIENDSという10人編成のバンド/コーラス・グループを組んでいて、シー・シャンティ(船乗りの歌)や民謡を歌うストリート・ライヴならぬ“浜辺ライヴ”をやっていた。
(余談だが、ここでHIGH TIDEの1stアルバム『SEA SHANTIES』を思い出した人は仲間)
そこに偶然通りかかったダニーたち。
上司から無理矢理「彼らと契約を交わせ」と命じられたダニーは、あろうことかポート・アイザックに一人置き去りにされてしまう。
それはダニーに仕掛けられたタチの悪い冗談だった。

趣味で好きな歌を歌っていたFISHERMAN'S FRIENDSのメンバーたちは、当然ながら得体の知れないよそ者からのマネージメントの誘いを一笑に付す。
ダニーは渋るオーウェンの宿に転がり込み、漁船に同乗するなどして漁師たちを口説きにかかるのだった。
そしてダニーの熱意に翻意した漁師たちは、オーウェンのアイディアで教会をスタジオ代わりにレコーディングを行なう。
冗談から発したマネージメント契約を上司命令と信じ込み、仕方なくFISHERMAN'S FRIENDSにアプローチしていたダニーだったが、頑固で武骨な海の男たちによる素朴にして美しいハーモニーに徐々に心を奪われて行き。
並行して、ダニーを嫌っていたオーウェンとの距離も縮まって行くことに。

上司から契約話は冗談だったと言われても、ダニーはもう止まらない。
会社を辞めた(!)ダニーはFISHERMAN'S FRIENDSを引き連れてロンドンに乗り込み、レーベルに売り込みを図る。
レコード契約は不首尾に終わったものの、エリザベス女王の誕生日を祝うTVの特番で英国国歌を歌わせてもらえることに。
思わぬ大チャンスに意気込んだダニーだったが、生中継でFISHERMAN'S FRIENDSが歌い出したのは英国国歌ではなく地元コーンウォールを讃える歌で…。


…と、ちょっと長いけど以上が中盤までのあらすじ。
(ここまでは映画の公式HPにも載っている。ちなみにこの映画、112分と実際かなり長い)

木端みたいな小さな漁船で海に乗り出していく漁師たちのキャラがとても良い。
FISHERMAN'S FRIENDSのリーダー格であり、ひねくれ者ではありつつも娘であるオーウェンを心底愛しているジム(ジェイムズ・ピュアフォイ)。
そのジムの父親であり、毒舌ながら歴史や古謡に対する深い知識を持つ老漁師ジェイゴ(デイヴィッド・ヘイマン)。
メンバー中最年少で、美しいリード・ヴォーカルを聴かせる一方でメンバーたちのたまり場であり心のよりどころでもあるパブTHE GOLDEN LIONを経営するローワン(サム・スウェインズバリー)。
あと、主演作『わたしは、ダニエル・ブレイク』が話題となったデイヴ・ジョーンズがジェイゴの親友リードヴィル役で出演しているのも注目。
(台詞はそれほど多くないものの)

主人公であるダニーも、敏腕業界人という設定なんだけど、見た目は全然そんな風じゃなくて、なんともさえないルックスの中年男。
ヒロインのオーウェンも、とっても美人ではあるがいかにも田舎町で奮闘するシングルマザーという感じの(?)、わりとずどーんとした体型で。
それが逆に実話ベースの物語にふさわしいというか、キャストの誰もが市井の人っぽい感じを醸し出しているのがイイ。
(ジムがちょっとハンサム過ぎに見えるぐらい)

ユーモアのセンスが黒かったり口が悪かったりする登場人物がけっこう多いせいで、上映中はくすくす笑いがかなり頻出。
コメディ要素はかなり強い。
一方後半になると一気に泣かせるシーンが多くなり。
ダニーは漁師やオーウェンにはねつけられたり仲良くなったり、仲良くなったが故にトラブルが起こると徹底的にこじれたり。
それを観ているこっちの気分も盛り上がったりはらはらしたり。
長めの映画だが、まったく退屈することも眠くなることもなく、笑ったり泣いたりしながら観ていた。
凄く良かった。

田舎町の男たちが音楽に向かうという点では、冒頭に名前を出した『ブラス!』によく似ている。
『ブラス!』ほど男泣き要素は強くないとはいえ…『ブラス!』の浪花節っぷりはウェールズだからなのか、と思ったり。
しかし、イングランドの南西の端に突き出したコーンウォール(ロンドンからポート・アイザックまで車で6時間以上かかるという)も、ウェールズ同様にグレート・ブリテン島の西側に位置し、ケルト語圏に属する。
ウェールズにはウェールズ語があるが、コーンウォールにもウェールズ語同様にケルト語の一種であるコーンウォール語があり、コーンウォール語の単語や言い回しは『フィッシャーマンズ・ソング』にも登場する。
その点、イングランドとはいえロンドンとかの都市部とは文化や風俗、そして精神性なんかもかなり違っていそうな気がする。
『ブラス!』を観た時、「なんだこの浪花節! イギリスじゃなくて日本みてえ!」とか思ったけど、この『フィッシャーマンズ・ソング』もやっぱり日本人の琴線に触れる部分がかなりあるような。

作中で流れる音楽はシー・シャンティや民謡だけじゃなく。
TOM ROBINSON BAND「2-4-6-8 Motorway」がナイスなタイミングで使われているのにニヤリとする人もいるのでは。

ちなみにFISHERMAN'S FRIENDSは1995年にチャリティのために結成されたグループで、ダニーのモデルであるイアン・ブラウンのマネージメントを得て2010年にメジャー・デビューし、現在も活動中とのこと。
映画の原題はそのまんま『FISHERMAN'S FRIENDS』。
(実話をベースにしているとはいえ、登場人物が実名ではなかったりするところからして、ダニーの恋バナとかは当然ながらかなり脚色されていると思う)

ともあれ『ブラス!』や『スティル・クレイジー』といった英国製の音楽映画が好きな人には超お勧めです。
個人的には、早くも2020年のベストの有力候補が出た感が。


新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他、全国各所で公開中。
俺は有楽町で観たけど、ヒューマントラストシネマでの公開は13日(木)までとのことで、一方新宿(いつまでの公開か知らない)は上映時間が朝早いので、これから観ようという方は御注意を。


(C)FISHERMAN FILMS LIMITED 2019


(2025.11.24.改訂)

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