映画『デッド・ドント・ダイ』

DEAD DON'T DIE.jpg6月5日から各所で公開されているので、このブログを御覧の皆様で「もう観たよ」という方はかなり多いのではなかろうか。
(関東圏では既に上映を終えたところも多い)
ジム・ジャームッシュの最新作。
なんとゾンビ映画!

警察官が3人しかおらず、ダイナーもガソリンスタンドもモーテルも1軒ずつしかないのどかな田舎町・センターヴィル。
警察署長クリフ・ロバートソン(ビル・マーレイ)と巡査ロニー・ピーターソン(アダム・ドライヴァー)は、夜になってもなかなか日が沈まないことを不審に思いつつ、サマータイムに慣れないせいだなどと言い合いながら、日々の業務をのんびりと続けていた。
しかし不審なことは他にもあった。
時計やスマホがやたらと壊れたり、ペットや家畜がいなくなったり。
TVでは、エネルギー企業による北極での水圧破砕工事が地球の自転に悪影響を与えているのではと盛んに報じられている。
そのせいなのかどうなのか…センターヴィルの墓地から蘇った死体が人々を襲い始め。
「ロニー、ゾンビの殺し方は?」
「頭を狙うんです。何が何でも頭を殺る」
銃を持ったクリフと大ナタを手にしたロニーは、街で唯一の婦人警官ミンディ・モリソン(クロエ・セヴィニー)を伴ってゾンビ退治に乗り出すのだったが…。

…というのがもの凄くざっくりしたあらすじ。
それにしても…ちゃんとゾンビ映画なのに、ちゃんとジム・ジャームッシュの映画になっている。
(あたりまえだけど)
ジャームッシュを語る際によく言われる”オフビート”そのものなゾンビ映画。
間抜けとしか思えない会話。
意味があるのかないのかわからない、執拗に繰り返されるカット。
ほとんど投げっぱなしな展開。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)から40年近く変わらない、いかにもジャームッシュらしい作風。

前半のクリフ・ロバートソンとロニー・ピーターソンの会話を聴いていて、「ひょっとして…?」と思った予感は当たった。
公開から1ヵ月以上とはいえ、まだ観ていない人もいるだろうから、とりあえずネタバレを回避すべく詳細は伏せるが、”メタ映画”になっている。
アダム・ドライヴァーがいわゆる”スター・ウォーズ俳優”であることをネタにするあたり、思わず笑ってしまった。
日本刀を振り回す妖しい葬儀屋ゼルダ・ウィンストン(ティルダ・スウィントン:名前からしても完全に彼女をキャスティングすることを想定した当て書きだろう。それにしても撮影当時60歳近かったとは信じられない)は、ジム・ジャームッシュ曰く『大菩薩峠』(1966年)の影響とのことだが、いや…コレ『キル・ビル』(2003年)のパロディじゃないの?
(あと、彼女の妙に几帳面な言い回しに00年の『悪魔の毒々モンスター 新世紀絶叫バトル』を思い出したのは多分俺だけだろう)
とにかく途中から「く、くっだらねー!」と思いながら観ていた。

一方、先述した通りちゃんとゾンビ映画になっている。
(コメディではあるが)
特にジョージ・A・ロメロ作品へのリスペクトに満ちた引用に溢れる。
『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968年)や『ゾンビ』(78年)に顕著だった文明批評の視点を、この『デッド・ドント・ダイ』はしっかり受け継ぎ、発展させていると言ってイイ。
もっとも、それとてもここでいきなり出てきたモノではなく。
スピリチュアルな異形の西部劇とも言うべき『デッドマン』(95年:俺の大好きな1本)あたりから一貫した思想を感じずにいられない。

そして豪華な配役。
『ゴーストバスターズ』(1984年)や『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)などで有名なビル・マーレイ。
先述の通りスター・ウォーズ俳優(カイロ・レン役)として人気のアダム・ドライヴァー。
デレク・ジャーマンの諸作で頭角を現したティルダ・スウィントン。
(90年の『ザ・ガーデン』の時点でもう30歳だったのか。ちなみに『デッド・ドント・ダイ』では彼女の存在が斜め上過ぎてほとんど全部持って行く)
『レザボア・ドッグス』(91年)や『パルプ・フィクション』(94年)といったクエンティン・タランティーノ作品でも知られるスティーヴ・ブシェミ。
(以上は全員ジム・ジャームッシュ作品の常連。オールスター・システムというやつか)
『スリー・ビルボード』(17年)で名を上げたケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。
ゾンビに惨殺されるダイナーの経営者ファーンを演じたのが『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のヒロインだったエスター・バリントというのにはびっくり。
(映画を観た後にパンフレットを読んで初めて知った。全く気付かなかった)
あと、ジム・ジャームッシュの映画では御馴染みのミュージシャンたち(+新顔1名)。
最初に登場するゾンビを(多分ノリノリで)演じたイギー・ポップ(画像)、物語の狂言回し的存在である”世捨て人のボブ”ことトム・ウェイツ、運送屋ディーン役のRZA(WU-TANG CLAN)、それにセレーナ・ゴメス(かわいい)。

映画を観終わった後にまず思ったのは「くだらなかったー!」ということだったが(笑)、それでいて後味はけっこう重い。
これまでに観たどんなゾンビ映画よりも、ゾンビというのが物質文明に浸かり切った現代人そのもののメタファーだというのが嫌というほどわかる映画だから。
でも基本的にはくだらなくて楽しいコメディ、しかもしっかりジム・ジャームッシュ印。
まだ観てない方にはお勧めです。


(2026.1.2.改訂)


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