映画『狂猿』

狂猿.jpgプロレスラー・葛西純を追ったドキュメンタリー映画。
監督は『kocorono』『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』などの音楽ドキュメンタリーで知られる川口潤。
奇しくも監督と被写体がどちらも”ジュン”だ。

1998年にデビューし、”デスマッチのカリスマ”として活躍してきた”クレイジー・モンキー”葛西純。
しかし20年以上デスマッチに明け暮れた葛西の肉体は、限界に近づいていた。
腰と首の両方にヘルニアを発症した葛西は、2019年のクリスマスを最後に、長期の欠場に追い込まれる。
デビュー以来の葛西の軌跡を交えながら、彼の復帰までを追ったのがこの映画。

しかし、2020年に入るとコロナ禍が全世界を襲う。
当然ながら葛西純の復帰にも黄信号が灯ることとなった。
試合に出られなくなるまでにダメージを負った葛西の体はその間に癒えつつあったが、思うような興業が出来ない状況は、40代半ばとなった彼のモチベーションを削っていく…。

もっぱら昭和のプロレスを懐かしんでばかりいる俺も、もちろん葛西純のことは知っていた。
しかし試合を観に行ったことがあるでもなく、雑誌などで写真を見ては「すげーなあ」などと言っていた程度。
そんな俺が改めて葛西の動く姿をこの映画で嫌というほど(?)見せられ。
「すげーなあ」どころか言葉を失うほどでありました。
(あと、FREEDOMSのリングアナウンサーが赤ちゃんを抱っこした女の人なのにびっくり)

本間朋晃、藤田ミノル、伊東竜二、松永光弘といった、葛西純の上や下の世代に当たるレスラーたちも登場して、それぞれに葛西を語るのだが。
特に、松永や本間といった上の世代の発言からは、デスマッチで頭角を現した若き日の葛西がどれほどとんでもなかったかがよくわかる。
とりわけ本間との立ち位置の違いは鮮明だ。
あくまで”プロレスの一環としてのデスマッチ”を闘っていた本間に対して、葛西は”新たな別の格闘技としてのデスマッチ”を志向していたのか、と思わされる。
(そして本間はデスマッチの世界から離れたワケで)

40年ほど前、”プロレスの味方”村松友視はジャイアント馬場のプロレスを”プロレス内プロレス”、アントニオ猪木のプロレスを”過激なプロレス”と規定した。
それに倣えば、本間朋晃のデスマッチは”プロレス内デスマッチ”、葛西純のデスマッチは”振り切れたデスマッチ”とでも言うべきか。
とにかく数々の試合映像が本当にとんでもない。
まったくもって、振り切れている。
それだけに、世間一般どころかプロレスマスコミからさえまともに評価されなかったのだが。

一方で、家族とのオフ(葛西純は子煩悩でも知られる)やジムでのトレーニング風景などを含め、リングを降りた葛西が見せる表情や放つ言葉からわかるのは、この人相当頭いいぞ、ということ。
その頭の良さで創意工夫し、そしてアイディアを実現に移していく度胸や実行力が伴っていたからこその”デスマッチのカリスマ”だったのだなあ、と改めて思わされる。

それにしても、その狂気じみているほどの”デスマッチ愛”はいったい何処から来ているのだろうか。
コロナ禍で試合が出来なくなってモチベーションが下がってしまった自分を”デスマッチED”と自嘲する葛西だが、一方蛍光管をはじめとするありとあらゆる凶器で血まみれになりながら(対戦相手の佐久田俊行や杉浦透もだけど)心底楽しそうに笑う葛西の姿には、むしろ”デスマッチ・ジャンキー”と言いたくなる。

全身に無数の傷を刻みながら、葛西純が何故デスマッチに向かい続けるのか…本人は”生きている実感”と語るが。
是非この映画を観ながらそれぞれに考えていただきたいところ。
単に好きだからとかの話じゃなく。
それは、何故金にもならないバンドを続けているのかとか、何故満員電車で好きでもない仕事に向かうのかとか、結局あらゆる人につながるはず。
ってか、あれだけ血まみれになった後に、毎回自分で運転して帰宅するんだ…?

ともあれ、葛西純のデスマッチを”芸術点が高い”と評した藤田ミノルの言葉にうなずきたくなるほどに、血まみれの葛西の姿の美しいことよ。
(藤田は他にも名言多し)


あと、作中の各所でCOPASS GRINDERZやGEZANなんかの楽曲を織り交ぜていく川口潤。
川口監督のこれまでの作品が好きな人は、当然コレも観るべきでしょう。


『狂猿』、5月28日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にてロードショー、以下順次公開。


(C)2021 Jun Kasai Movie Project.

この記事へのコメント

  • 今日は、OUTの岡田です。何と言うのか…葛西選手の凄さって(無茶の美学)なんだと思います。「んな、わざわざコーナーポストからダイブせんでも…」って、思っててもやってくれる。その辺のサービス精神と言うのか、心意気と言うのか…。サヴゥー選手も近い所あります。コロナ堝大変だと思いますが、頑張って欲しい選手です。
    2021年04月27日 09:35
  • 大越よしはる

    コメントありがとうございます。
    ”無茶の美学”…まさに言い得て妙ですね。
    コーナーポストどころか、「なんでそこから飛ぶ!」「なんでそこからわざわざ投げ落とされる!」というシーン満載の映画です。
    札幌でも公開されたら是非観てください。
    あっ、28日発売のEL ZINEに(小さい枠ですが)OUTのレヴュー載ってます!
    2021年04月27日 23:26
  • ありがとうございます。2冊注文しました(笑)楽しみにしてます♪
    2021年04月27日 23:42
  • 大越よしはる

    更に攻めて参ります。
    今日はYouTubeで駅裏8号倉庫「RUST NEVER SLEEPS」の動画を観直してました。
    2021年04月28日 22:21
  • あはは♪あの時は(ダンス)ってバンドで出てます。大越さんのよく書いてる南郷の店、良く行ってましたよ。昔、白石中学のグランド真向かいに住んでましたからの。文教堂にX-ONEでしたっけ?X-ONEはブートとかかなり面白いモノありましたよね〜♪
    2021年04月29日 22:42
  • 大越よしはる

    あら、文教堂書店でニアミスしてたかも知れないのですねえ!
    HENRY COWやTHE RESIDENTSなんかを買ってました。
    白石中学校…略してハクチュー!
    僕は日章でした。
    2021年04月30日 12:05

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