一方の俺ときたら金も時間もまったくありゃしませんでね。
(今の俺の銀行口座の残高を見たら間違いなく全米が泣くぞ)
で、KING CRIMSON70年代の発掘音源。
(このタイミングでコレになったのは別にわざとじゃなくて偶然なんだが)
”THE KING CRIMSON COLLECTORS' CLUB”からは続々と音源が出続け、コレは第48弾。
コレの何が凄かったかって、それまでほとんどタマがなかったジェイミー・ミューア在籍時の5人編成KING CRIMSONのサウンドボード音源…が72分も収録されていたという。
ロバート・フリップ(ギター、メロトロン)、ジョン・ウェットン(ベース、ヴォーカル)、デイヴィッド・クロス(ヴァイオリン、キーボード)、ビル・ブルーフォード(ドラム)、ジェイミー・ミューア(パーカッション)…という、アルバム『LARKS' TONGUES IN ASPIC』(1973年)当時の編成によるライヴ、というのに、あの有名な『BEAT CLUB』のVHSで初めて接した、という人は多かったはずだ。
俺もそうだった。
ミューアのキテレツなパフォーマンス(”パフッパフッ”っていうアレね)にぶったまげた。
しかしブートを集めまくったりするようなKING CRIMSONマニアなどではなかった俺は、それ以外の5人編成ライヴに触れる機会は全然なかった。
この編成のKING CRIMSONが1972年に行なったライヴは、10月の単発ウォームアップ・ライヴと11月10日から12月15日までの全英ツアーを合わせたたったの31公演、あとは例の『BEAT CLUB』でのスタジオ・ライヴだけで、この頃のまともなライヴ音源はほとんど出ていなかった。
そこにいきなり登場したのがコレ。
しかもオーディエンス録音とかじゃなく、ステレオ・サウンドボード音源。
まあ分離は良くなくて、ほとんどモノラルみたいに聴こえるが。
(残っていた音源はカセットテープで、それを手を尽くしてデジタル変換&マスタリングしたという)
本編ラストの「Lark's Tongues In Aspic Part 2」が4分弱でフェイドアウトしてしまい、アンコールの「21st Century Schizoid Man」も収録されていないものの、サウンドボード音源、しかも72分収録。
コレ以前に11月13日のギルフォードでのライヴ音源も出ていたとはいえ、そっちより30分も長い。
(残念ながらそれでも完全収録ではなかったんだけど)
大事件でありました。
1972年12月8日、72年のツアーも終盤のステージ。
ライヴ本編は、『ISLANDS』(71年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_788.html)までの楽曲など一切演奏されず、当時まだ存在しなかった『LARK'S TONGUES IN ASPIC』からの全曲(しかもこの時点でアルバムの曲順通り)にインプロヴィゼーションという、オーディエンスをいきなり未知の世界に叩き落す内容。
(お客さんどう思ったかな…)
ロバート・フリップにとっては、バンド名こそ同じでアンコールでは「21st Century Schizoid Man」も演っているものの、自身以外のメンバーが全員入れ替わった新たなバンドを世に問う、という確固たる決意があったはず。
そして、YESの超絶ドラマーだったビル・ブルーフォード以外は(ジョン・ウェットンでさえも)当時限りなく無名に近かったメンバーたちも、フリップの決意を支えるに余りある、凄まじいプレイを聴かせる。
ジェイミー・ミューア脱退後の4人編成でのライヴ音源ならけっこうたくさん出回っているし、俺もそれらの幾つかは聴いている。
このブログでも随分前にブートCD『AMERICANS' LAMENT』を紹介したことがあった。
(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1818.html)
しかし当然ながら、5人編成の音は多少なりとも感触が違う。
打楽器奏者が二人。
その後の4人編成に較べると、これまた当然ながらパーカッシヴな要素が強く。
あちこちでミューアがバッシャンバッシャンやっている。
もちろん”パフッパフ~♪”も存分に(?)炸裂している。
ジェイミー・ミューアがパフパフやる「Lark's Tongues In Aspic Part 1」をはじめ、アルバム『LARK'S TONGUES IN ASPIC』収録曲のアレンジはこの時点でほぼ完成。
(俺はギルフォードの音源を聴いていないんだけど、そっちは1ヵ月近く前のライヴとあって、まだ未完成な部分があるそうで)
一方で二度にわたるインプロヴィゼーションでは、アルバムに収録されなかった不定形なバンド演奏の神髄をも聴くことが出来る。
特に「Improvisation 2」が凄い。
手練れのまともな(?)演奏家たちに何故か(??)混じってしまった異物(???)・野人ミューアが叫ぶわうなるわ。
『RED』前後の頃にもアルバム収録曲の前後にインプロヴィゼーションのパートがあったとはいえ、1972年冬の時点では即興パートの割合はより大きい。
この編成でのオリジナル曲が少なかった時期だから当たり前とも言えるが、そもそもロバート・フリップはインプロヴィゼーション主体の音楽を演ろうと言ってビル・ブルーフォードを誘ったとも言われているから、この72年当時の演奏の方が、”新生”KING CRIMSONが最初に目指していた方向性により近かったのでは、とも言える。
そんなワケで、スタジオ・アルバムに近い完成度の『LARKS' TONGUES IN ASPIC』楽曲群、そしてミューアがもっと野放図に(?)暴れ回るインプロヴィゼーション、どちらも興味深く聴ける。
その一方で。
ジェイミー・ミューアがバンドを離脱したのは『LARK'S TONGUES IN ASPIC』リリース直前の1973年2月のライヴ中に負傷したのが原因で、音楽的方向性の相違などではなかった様子ながら。
KING CRIMSONが初期から演奏し続けてきた、英国的な情緒を多分にはらんだバラード…『LARK'S TONGUES IN ASPIC』では「Book Of Saturday」と「Exiles」がそうなのだが、そのような楽曲では即興パートで謎の奇声を発するミューアにふさわしい出番はそれほど見当たらない。
ミューアが負傷しなかったとしても、当時の5人編成は結局長続きしなかったのでは、という気がしなくもない。
とはいえ、ここでの「Book Of Saturday」を聴くと、ミューアが様々な打楽器他でいろいろな装飾音を奏でて貢献しているのもよくわかるし、そこから続く「Improvisation 1」の前半は各人大暴れなどではなく、リリカルでさえあるんだけど。
(ただし5分過ぎたあたりからどんどん怪しげになっていく)
あと、改めて思ったのだが。
”トーキング・ドラム”というのが世に知られるようになったのは、80年代以降のワールド・ミュージックのブームでナイジェリアのジュジュ・ミュージック(というかキング・サニー・アデ)が有名になった時、と思う。
1972年の時点で「The Talking Drum」って…ロバート・フリップ(あるいはビル・ブルーフォード)はこの頃ジュジュを知っていたのだろうか?
ジュジュ自体は20世紀初頭に生まれた音楽ながら、サニー・アデ以前にジュジュで有名だったエベネザー・オベイがイギリスで知られるようになったのはどうも70年代後半以降らしいので、KING CRIMSONが72年に「The Talking Drum」という曲を演っていたのはあくまで偶然かも知れないけどね。
(KING CRIMSONに詳しい人ならそのへんよく御存知なのかも? 俺は正直そんなに詳しくないので)
もうひとつ、1974年頃の演奏と較べると、この頃はベースが爆音過ぎず、各楽器のバランスが良い。
いや、末期のライヴはあの爆音がイイんだ、とも思うんだけど、ジョン・ウェットンがどんどん音量を上げ、ビル・ブルーフォードが負けじと叩きまくった結果、デイヴィッド・クロスのヴァイオリンが力負けし、クロスの脱退の原因のひとつにもなったワケで。
それに対し、ここでのサウンドはクロスもジェイミー・ミューアも埋もれず、聴きやすい。
しかし…爆音過ぎないとか言いながら、72年冬のこの時点で、同時代のそこらへんのどんなハード・ロック・バンドよりもヘヴィで凶悪な音を出しているなあ、この人たち。
原初的な、字義通りの”ヘヴィ・メタル”のひとつの形が、ここにあったのだ。
ともあれ「Larks' Tongues In Aspic Part 2」がいよいよ盛り上がってまいりましたよ…というところで、CDはいきなりブツッと終わってしまう。
あともうちょっとだけテープがあれば、アンコールは別として本編を完全収録出来たのにね。
まあ仕方ない。
そしてKING CRIMSONは、翌1973年3月に名作『LARK'S TONGUES IN ASPIC』をリリースする。
しかしその時点で、既にジェイミー・ミューアはいなかった。
4人編成となったバンドは更にツアーを重ねながらアルバム制作も行なっていくが、73年以降のライヴ音源を聴くと、爆音化がどんどん進行し、音量面でハンデのあったデイヴィッド・クロスのスペースがどんどん狭まっていることがよくわかる。
結局74年に『RED』が出た時点では、ジャケットにクロスの姿はなかった…。
ところでこのCDでは、ロバート・フリップの1分ほどあるMCに、曲と同じように独立してチャプターを振ってある。
Newcastleは”ニューキャッスル”ではなく”ニューカッスル”とカタカナ表記されることが多く、実際このCDでもそうなんだけど、フリップのMCを聴くと、どうも”ニューキャッスル”に聴こえるんだが…。
(2025.1.10.全面改訂)
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