映画『ZAPPA』

ZAPPA.jpg膨大な作品を残しながら、現世をたった52年で駆け抜けて去って行った、音楽史上に残る巨大な多面体、フランク・ザッパ。
そのザッパの、まさに多面体としての魅力に、様々な角度から迫ったドキュメンタリー。

先日紹介した『ダイナソーJr./フリークシーン』(https://lsdblog.seesaa.net/article/202202article_9.html)が82分で簡潔にまとめられていたのに対して、『ZAPPA』は実に128分。
もの凄い情報量。
しかし、制作陣にしてみればこれでも圧縮に圧縮を重ねた結果としての128分だったことは容易に想像出来る。
何しろ、素材となるアーカイヴ映像は1000時間分以上もあったというのだから。

監督はアレックス・ウィンター。
『ビルとテッドの大冒険』シリーズでキアヌ・リーブスと主役を張っていた彼が、こんな映画を撮るとは。
プロデューサーにはフランク・ザッパの次男アーメット・ザッパの名が。

で、アーカイヴ映像が1000時間以上もあったのも納得で。
何しろあのフランク・ザッパだ。
若い頃に映像制作の仕事もやっていた彼は、ミュージシャンとしてデビューするはるか以前の少年時代からカメラを手にして膨大な映像を撮り続けていた。
もちろん音源も膨大。
問題は、それら映像をはじめとするアーカイヴ素材の大半が劣化の危機にさらされていたことで。
そのためアレックス・ウィンターたちはまずクラウドファンディングで資金を募り、集めた資金でアーカイヴ素材を保存することから取り組まなければならなかったという。
それらに2年かかったのだそうで。

…というワケで、まだプロにもなっていなかったフランク・ザッパ青年がドラムを叩いたりギターを弾いたりする映像が次々に登場するのはもちろんのこと。
キャプテン・ビーフハートとしてデビューする以前の若きドン・ブリートや、初期THE MOTHERS OF INVENTIONのメンバーたちやGTO'Sなんかの動く姿をはじめとする、およそ見たこともないような映像がどんどん出てきて鼻血が出そうになる。
そして髪やヒゲがすっかり白くなった晩年のザッパの姿も。

音楽ドキュメンタリーによくある、いろいろなミュージシャンが出てきて主役について語る…という部分もあるにはあるが。
アレックス・ウィンター曰く、それらは”最小限の追加”にとどめたという。
(そりゃそうだ、何しろフランク・ザッパ自身が残した映像が何よりも雄弁にすべてを物語っているのだから)
新たにインタヴューを受けているのはザッパの妻ゲイル・ザッパ(彼女も既に故人だ)をはじめ、バンク・ガードナー、イアン・アンダーウッド、ルース・アンダーウッド、マイク・ケネリー、スティーヴ・ヴァイなどザッパのバンドの元メンバーたちや、GTO'Sのパメラ・デ・バレスなど。
アリス・クーパーが登場するのは意外なようでいて、彼がそもそもザッパのレーベルからデビューしたのを知る人には驚くに当たらないだろう。

フランク・ザッパ自身が残した映像が何より雄弁に…とは言ったが、周囲の人々の言葉によって、ザッパ自身によっては語られないザッパの姿もまた浮き彫りになり、作品に重層的な視点がもたらされている。
それら、本人と周囲の言葉から浮き上がるザッパの姿とは…常に曲を書き続け、しかもその楽曲群はどれも並ならぬ高度な演奏力を要求し。
自身の望む音楽を作り上げるために数多のミュージシャンを道具のように駆使し(人間に演奏出来ないような曲さえ作ったザッパが、80年代にシンクラヴィアの使用に向かったのは当然であった)。
バンドのメンバーを含む他人を容易に寄せ付けず、友人はいないと語る一方でキャプテン・ビーフハートらに対する友情を決して忘れず。
家族を大事に思う一方で自宅にいる時も一人スタジオにこもりがちで。
レコード会社の搾取を断固として拒絶し、ミュージシャンとして独立・自立した存在であろうとする一方で、ヒット曲を書こうという商業的な野心は一切なく。
(「音楽はビジネスではない」と断言したイギー・ポップを思い出した)
政治に物申し続ける一方で、願うことはただ自分が作った曲のいい演奏・いい録音を家で聴くことという。
いろいろと矛盾しているようで結局見事に一貫しているのは、自分の思い通りに創作し、自分らしく生きるということ。
それを実現するために強い意志と旺盛な行動力をキープし続けたのがザッパでありました。
この映画には、そんなあれこれが余さず捉えられている。

アレックス・ウィンターには、30年近く前に亡くなった昔の有名ミュージシャンを回顧/懐古する映画を作る気など毛頭なかったようで。
彼はこの映画について、”その世界観、芸術、政治が時代をはるかに超えていた、私たちの生きる困難な時代にも深く関連している一人の男の完全に現代的な探求”であると語っている。
実際、この映画の中でフランク・ザッパは”メディアや政治を支配する人たちは普通の人にいいことを何もしない。普通の人になんて興味がないからだ”みたいな発言をしていて、「うわあ、今の日本の政府のことみたい」と思ってしまった。

自分らしく生きる…という、言うのは簡単だが実現するのは意外と困難な道を究めるために、鋼の意志と溢れる行動力で挑んだ愉快な男(まぎれもなく天才、そしてかなりの変人)の物語。
尺は長いが、満足度も高かった。
フランク・ザッパのファンだけでなく、広くロックのファンに、そして音楽ファンに限らない多くの人に観てほしい1本。


『ZAPPA』、4月22日(金)より、シネマート新宿他にて全国順次公開。
https://zappamovie.jp/


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