IGGY POP/EVERY LOSER

IGGY POP EVERY LOSER.jpg前作『FREE』(2019年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201910article_6.html)から3年ちょっとを経た、イギー・ポップの新作。
輸入盤は6日に出ていたが、国内盤は本日リリース。
俺は昨日フライングで入手。
11曲37分と短いので、今日はもう何度も繰り返し聴いている。

今回のプロデュースは、ジャスティン・ビーバーからオジー・オズボーンまで手掛けている当代一の売れっ子、アンドリュー・ワット。
演奏陣はアンドリュー(ギター、ベース、キーボード、ドラム・シークェンス、パーカッション、バッキング・ヴォーカル)、GUNS N' ROSESのダフ・マッケイガン(ベース)、RED HOT CHILLI PEPPERSのチャド・スミス(ドラム)、元RED HOT CHILLI PEPPERSのジョシュ・クリングホッファー(ギター、キーボード、ベース、シンセサイザー)が中心。
あと、曲によりPEARL JAMのストーン・ゴッサード(ギター)、JANE'S ADDICTIONのデイヴ・ナヴァロ(ギター)とクリス・チェイニー(ベース)、元JANE'S ADDICTIONのエリック・エイヴァリー(ベース)、FOO FIGHTERSの故テイラー・ホーキンス(ドラム)、BLINK 182のトラヴィス・パーカー(ドラム)が参加。
もの凄く豪華。
ダフとチャドはオジー・オズボーンの『PATIENT NUMBER 9』(2022年)にも参加していたし、ワット組という感じなのか。
そしてジョシュの鍵盤類が随所でよいアクセントになっている。
(なんだか、過去のイギー・ポップのアルバムで聴けたキーボード・サウンドとは違った音…があちこちで聴ける)
ほとんどの曲でリード・ギターを弾くアンドリューのプレイは、手堅い。

ポエトリー・リーディングもフィーチュアした静謐で内省的な要素が前に出ていた『FREE』とは、予想通り全然違うアルバムになっている。
しかし、コマーシャルな『BLAH-BLAH-BLAH』(1986年)の後にハードな『INSTINCT』(88年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_375.html)があったとか、ジャジーで陰欝な『AVENUE B』(99年)の後にパンクでやかましい『BEAT EM UP』(2001年)があった…みたいな、イギー・ポップのキャリアによくある前作への反動的な作風、とは一味も二味も違う気がする。
強いて言えば、ポップな『BRICK BY BRICK』(90年)から重厚でディープな『AMERICAN CAESAR』(93年)に行った時を思わせる。
1曲目「Frenzy」や7曲目「Neo Punk」のように、パンクのゴッドファーザー的なパブリック・イメージのままに突っ走る曲もある一方で、『AMERICAN CAESAR』がそうだったように硬軟自在な感触。
パンクな曲でも、『BEAT EM UP』にあった、ちょっと無理矢理っぽい感じがないし、一方で魅惑の低音を活かした重心低い曲も多い。
”違う畑”の先鋭二人、レロン・トーマスとノヴェラーの音作りに見事に乗っかってみせた『FREE』同様に、今度はメインストリームのトップ・プロデューサーの最新の音作りに乗っかって自由に遊んでみせた、というか。
「オジーが組んでた奴だろ? 面白そうじゃないか」とかいって。

いや、売れっ子の若いプロデューサーに「お手並み拝見」とか言いつつ、豪華な参加ミュージシャンに”仕事”をしてもらった…というだけのアルバムにはなっていないのだった。
驚いたのが、全曲がイギー・ポップとアンドリュー・ワット、そしてダフ・マッケイガンやチャド・スミスなど録音に参加した各メンバーの共作になっていること。
アンドリューがこしらえた楽曲に他のミュージシャンがリモートで参加してデータのやり取りで仕上げた…みたいな今風の作り方じゃなくて、みんなでスタジオに入ってジャムりながら作ったと思われる。
全員ガチだ。
(結果、曲毎の版権のクレジットが長い…)

それにしても、歌い出しから"Got a dick on 2 balls…”という「Frenzy」は下品にして超強力で、この上ないツカミの1曲となっている。
”コレがイマドキのやらずぶったくりさ”と歌われる「Modern Day Rip-Off」での猿のような(?)シャウトも痛快。
パンクの祖たるイギー・ポップが実は現代のパンクを皮肉っているのでは?…とも思わされる「Neo Punk」もユニーク。
(イントロから”パンク! パンク! パンク!”と叫ぶ)

一方で、しんどいけど朝の番組に出なくちゃ…みたいな、キャスターかタレントの憂鬱を歌にしたような「Morning Show」や、精神科医療機関のCMの文句を読み上げているみたいな「The News For Andy」では、実に渋い声を聴かせる。
現在の居住地であるマイアミへのちょっとねじれた愛情を歌うような「New Atlantis」もナイス。
ジャンキーのジョニー(あれ? どのジョニー?)を歌った「Strung Out Johhny」のイントロはちょっとNIRVANAっぽかったりも。

ちょっと抽象的な歌詞に、”色”のイメージが頻出するのも興味深い。
”My insides have turned red”(「Morning Show」)、”My hair is blue and my prescription, too”(「Neo Punk」)、”The gods in heaven have gold”(「All The Way Down」)とか。
一昔前のイギー・ポップだったら、「俺はこんな歌詞は書かないぜ?」と言ったのでは、という気がするような歌詞。
どのような心境だったのか、と思わされる。
(対訳と同時に英詞も読みながら聴いていたんだけど、イギー自身の手書きと思われる英詞のまあ読みづらいこと…)

”全ての負け犬”というタイトルも、いかにもイギー・ポップらしい、というか。
ジャケットのアートワークはBLACK FLAGで御馴染みレイモンド・ペティボン(!)、写真のメインはミック・ロック…と、装丁も完璧。
ブックレットにある、度の強そうな老眼鏡を掛けて何か書いているイギーの写真(やっぱり上半身裸)がグッとクる。

”パンクのゴッドファーザー”イギー・ポップ…じゃない、冠のないただのイギー・ポップが全方位で全開になった1枚。
うちの母親と3歳しか違わないイギー、この春で76歳となる。
この後期高齢者の新作、早くも2023年のベスト・アルバム候補となった。

この記事へのコメント