俺はこの映画を観るまで彼のことを知らなかったのだが、アメリカ黒人として初めて「VOGUE」誌のクリエイティヴ・ディレクターとなり、白人が大半を占めていた欧米のファッション業界において、非白人のモデルやデザイナーの進出に多大な貢献を果たした人物なのだという。
そんなレオンを追ったドキュメンタリー映画。
巨大な体躯に貴族や聖職者のようなケープをまとったアンドレ・レオン・タリーのルックスがまずインパクト強い。
そして、人種差別が激しかった時代にアメリカ南部で育ち、やがてニューヨークに出てアンディ・ウォーホルのファクトリーで働いたり(!)、カール・ラガーフェルドと仲良くなったり、VOGUEのスタッフになったり、そして遂には本場フランスのファッション業界でも知らぬ者のない大物となった、その数奇な人生。
(かのディヴァインと一緒に写っている写真も出てくる)
本人の口からはかつての苦労や黒人の置かれた立場をことさらに強調するような言葉はあまり出てこないが、南部出身のゲイの黒人(おお、リトル・リチャードに重なる…)がニューヨークやパリのファッション業界で認められるまでには、それはもう筆舌に尽くしがたい苦労や葛藤があったモノと想像させられる。
ナイトクラビングの日々の中でもセックス&ドラッグとは無縁、長い人生の中で一度も恋愛経験がない(!)というアンドレ・レオン・タリーの語り口からは、南部の田舎でVOGUEのファッション・モデルにときめいた黒人青年が、モデルたちが着ている服を世に出したデザイナーたちの存在を知り、自身もその世界に入っていく、そしてその間ひたすらファッション/スタイルの道にだけ入れ込み続けた彼の一途に過ぎる歩みが透けて見える。
(フランス語も堪能だったという)
それにしてもアンドレ・レオン・タリー本人はもちろんのこと、画面に登場してアンドレについて語る友人たち(マーク・ジェイコブス、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ、ウーピー・ゴールドバーグ、イザベラ・ロッセリーニなど多数)の、誰もかれもがおしゃれなこと。
更に、資料映像として登場する、日曜日に黒人教会に集まる人々を映した50~60年代と思われる映像、そこで見ることの出来る黒人たちがまた、老若男女を問わずスタイリッシュなのには、思わず目を見張る。
(日曜日以外の日々を制服や仕事着で過ごしたそれらの人々は、日曜日になると精いっぱいのおしゃれをして神のもとに集ったのだという)
実に、目に楽しい映画。
(音楽の使い方もセンスが良い)
何よりアンドレ・レオン・タリー自身のスタイリッシュでエレガントなたたずまい。
(彼の独特な口調をよく再現した日本語字幕も素晴らしい)
派手なルックスに情熱的な態度、一方でスタイルの徒として自身の美学に何処までも真摯かつ一途に向き合い続けたその生きざま。
(民主党を熱烈に支持し、ドナルド・トランプの当選に大きく落胆しながら、大統領就任式に出席したメラニア・トランプのファッションをアンドレがどう評したかは、ひとつの見モノだ)
アンドレを知らなくてもファッションに興味がなくても、彼のパーソナリティに魅了される人は多いはず。
今週末公開です。
『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』、2023年3月17日(金)、 Bunkamura ル・シネマ にて公開。
https://andremovie.com/
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