映画『アイアム・ア・コメディアン』

アイアムアコメディアン.jpg”TVから消えた芸人”ウーマンラッシュアワー・村本大輔の3年間を追ったドキュメンタリー。

監督は日向史有。
彼はドキュメンタリージャパンの社員であり、会社は主にTV番組のドキュメンタリー制作を手掛けている。
今回の企画も元々はTV番組向けに構想されたモノだったそうだが、その企画に乗るTV局はなく、結局ドキュメンタリージャパンによる自主制作のような形になったという。

我が家にはTVがないので、ウーマンラッシュアワーのことも村本大輔のこともよく知らなかった。
政治的なネタで炎上してTVで見かけなくなった芸人、という程度のことしか知らずにいた。
この映画では、その”政治的”な漫才や漫談の一端を見ることができる。
(日頃TVを観ている人は、2020年にTVの仕事がほとんどゼロになるまでのウーマンラッシュアワーのネタを観たことも多いのかも知れないが)
マイクスタンドに体を預けるようにして、もの凄い早口で政権批判や原発問題や大麻解禁や沖縄の米軍基地問題などのネタをまくしたてる村本は、ほとんどパンク・ロッカーのように見えたりも。
はー、こういう芸風だったんだ。
(本人はエミネムのファンみたいだけど)

TV業界に居場所がなくなった村本大輔はライヴに活路を見出し、スタンダップコメディの道を追及してアメリカを目指し、実際にアメリカでステージに立ち、拙い英語で笑いをとったりもする。
しかし映画『狂猿』(https://lsdblog.seesaa.net/article/202104article_26.html)の主人公・葛西純の前に立ちふさがったコロナ禍が、村本の前にも立ちはだかり…。

自分たち以外のお笑い芸人のことを、お笑いではなく単なるタレントと切って捨てる村本大輔、「THE MANZI 2013」優勝などの華々しい経歴からしても、政治的ではないネタで十分に人気を得られるはず。
しかし、何故このようなスタイルを…という問いは、どうやら彼には無意味のように思われる。
自分が向き合うべき”お笑い”自体がそもそもこのようなモノ、というのが、原発のある町で生まれ育った村本には、多分問うべくもなく自明のことなのだろう。
自分にとって世の中を変革する手段がお笑いであり、お笑いが政治と不可分であることを自明とする村本には、「漫才師じゃなくて活動家」「世の中を変えたいのなら政治をやれ」という世間の声(それは家族からさえ向けられる)も意味を持つまい。
『アイアム・ア・コメディアン』というタイトルのロゴは、”アイアム”が白、”・ア・コ”が赤、”メディア”が白、”ン”が赤…と色分けされている。
白いところだけを読むと…”アイアムメディア”。

とにかく”アンチ”が多い人らしいね。
そして日本のTVで実現しなかった企画に発するこの映画が、日本のメディアでどれだけ注目されるかも若干怪しい。
そのためか、この映画は全編に英語の字幕が付いている。
最初から世界を相手にする前提になっているワケだ。
面白いことには、早口過ぎて時に聴き取りづらかったりする村本大輔の喋りを理解するのに、英語字幕が役立つことがあるという(笑)。
単純に「へえ、ここは英語だとそういう表現なのか」と興味深く見られるところも多い。

しかしアンチは基本的に、PCやスマホの画面にしかいない人たちだ。
匿名の彼らが実際に”叩いて”いるのは村本大輔自身ではなく、結局PCのキーやスマホの画面に過ぎない。
一方現場での村本は、間違いなく顔の見えるファンとつながり、ファンに支えられている。
そのことにグッとクるシーンも。

非常に興味深い1本です。
ただ、ちょっと心配になるのは、全編通じて酒瓶片手のことが非常に多い村本大輔、撮影期間の3年の間にどんどん太っていることだ…。


『アイアム・ア・コメディアン』、7月6日(土)よりユーロスペース他にて全国順次公開。


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