このブログを御覧の皆様で、MC5大好きという人はかなり多いのではと思う。
しかしウェイン・クレイマーのソロ作まで追っかけている人となると、かなり絞られるのでは、
そしてこのアルバムを持っているとか、まして好きだという人になると、いったい何人いるのやら。
…と思う理由は主に二つある。
ひとつは、エピタフ・レコーズからリリースされた次作『THE HARD STUFF』(1995年)以降の作品と違い、このアルバムがマイナー・レーベルからひっそり出たモノだったからで。
そしてもうひとつは、このアルバムの音楽性も『THE HARD STUFF』以降とは大きく違い、正直言って元MC5という肩書に対するファンの期待をかなり裏切る出来だからだ。
このアルバムが出た時は、かなりびっくりした。
西新宿の何処かで見つけたのだと思うが、THE DEVIANTS再編ライヴ盤『HUMAN GARBAGE』(1984年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201610article_21.html)以降、ウェイン・クレイマーに関する情報はまるでなかったところに、いきなりコレを見つけて、しかもジャケットにはミック・ファレン(元DEVIANTS)の姿まであったのだから。
しかし、インターネットの恩恵などなかった当時でも、必死に探ってみればそれなりに情報は入った。
ウェイン・クレイマーが地道に(?)活動を続けていたということも。
『HUMAN GARBAGE』参加の後、ウェインは1987年にはミック・ファレンとの連名EP「Who Shot You Dutch?」(タイトル曲のプロデュースはドン・ウォズ)を、88年にはWAYNE KRAMER'S DEATH TONGUE名義でシングル「Spike Heels」をリリースしていた。
そしてそのバンド名をタイトルにした『DEATH TONGUE』がリリースされたというワケだ。
このアルバムには、EPのタイトル曲「Who Shot You Dutch?」、シングルA・B面「Spike Heels」「Take Your Clothes Off」が収録されている。
ジャケットにはWAYNE KRAMER'S DEATH TONGUEのメンバー二人、ミック・ファレンとジョン・コリンズが、ウェイン・クレイマーと同じ大きさの写真でフィーチュアされている。
ただし、(演奏者のクレジットが皆無なのではっきりしないのだが)ミックとジョンはソングライティングとバッキング・ヴォーカルとプロデュースの担当で、打ち込みのドラムに乗せたヴォーカルやギターはすべてウェインによるのではと思われる。
多分ベースも。
(「Who Shot You Dutch?」では、以前ルー・リードのバンドにいたエラード・ジェイムズ”ムース”ボールズがベースを弾いている)
当時、「ジョン・コリンズって誰?」と思ったんだけど、アレだ、オムニバス『1976 MAX'S KANSAS CITY』に収録されているJOHN COLLINS BANDの人じゃないですか。
ソングライティングでは他に、その後ミックとTIJUANA BIBLEで活動するヘンリー・ベックの名もあり、ウェインが単独で書いた曲は「Negative Girls」1曲しかない。
一方でミックとジョンの二人が書いた曲が2曲。
このアルバムを聴いたことがない人でも、ウェイン・クレイマーの単独作が1曲しかなくてドラムが打ち込みと聞いたら、「え…?」となるのでは。
実際、先に書いた通り、このアルバムの音楽性はグランジ以後を見据えたようなヘヴィ・ロックだった『THE HARD STUFF』以後のウェインのソロ・アルバムとは大きく違っている。
えらくチープに聴こえる打ち込みドラムに乗せた、デジタルな”ハード・ロック”とでもいうか。
ファンキーな曲もあり。
ドン・ウォズがプロデュースした「Who Shot You Dutch?」に至ってはほとんどWAS(NOT WAS)みたい。
しかし、随所でうなりを上げるウェイン・クレイマーのギターはやっぱりカッコいい。
そして、唯一のウェイン単独作「Negative Girls」がバラードというのに驚く。
いや、驚くにはあたらないのかも知れない。
その後のアルバムでもウェインは「Junkie Romance」のようなイカすバラードを書いているのだから。
「Negative Girls」もとても良い。
バラードと言えばミック・ファレンとジョン・コリンズが書いてウェインが歌う「The Scars Never Show」も凄く良い。
(クレジットのないサックスは誰だろう)
このアルバム、ドラムが打ち込みじゃなかったらなあ。
ただしその打ち込みドラムも、MC5とは違う80年代後半~90年代初頭ならではの新しいアプローチを狙ってのことだったのかも知れないが。
(BIG BLACKが打ち込みドラムだったことを思い出せ)
実際、当時のウェイン・クレイマーはそれまでに演ってきたやかましいロックよりもジャズやワールド・ミュージックなどに関心があったらしい。
しかし『DEATH TONGUE』がほとんど話題にならなかったことに懲りたのか、『THE HARD STUFF』以降のウェインは元MC5という肩書から想像しやすいバンド編成のヘヴィ・ロックをプレイすることになる。
では『DEATH TONGUE』が単なる実験作、あるいは黒歴史(?)だったのかと言うとそうではなく。
その後のライヴ・アルバム『LLMF』(1998年:https://lsdblog.seesaa.net/article/500095417.html)でも、『DEATH TONGUE』からの「Take Your Clothes Off」を演奏している。
(確か95年の来日ライヴでも演ったのでは)
あと、全10曲中唯一のカヴァー「MacArthur Park」もイイんだよ。
リチャード・ハリスとドナ・サマーで有名なやつ。
打ち込みを用いたウェイン・クレイマーのヴァージョンは、ドナのディスコ・ヴァージョンを意識していたのかどうか知らないけど。
アルバムとしての出来というか完成度自体で言えば、『THE HARD STUFF』以降のアルバムには遠く及ばない。
しかしウェイン・クレイマーのソロ作の中で俺が一番よく聴いたのは、実はこのアルバムだ。
何しろ1992年(33年前!)に俺がファンジンでMC5の特集をやった時点で、既にフレッド”ソニック”スミスもロブ・タイナーも世を去っていて、元MC5のメンバーでアクティヴだったのはウェインしかいなかったんで。
いや、単なる思い入れだけじゃなく、曲自体イイよ。
MC5/ウェインのファンでコレ聴いたことがないという人は、良かったら探してみてください。
今でも中古盤で出回っているはず。
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