今月入手。
THE PRETTY THINGSの変名バンドとして知られるTHE ELECTRIC BANANA。
編集盤が何種類かリリースされていたが、遂に登場した全曲集がコレ。
これまでELECTRIC BANANAの全貌を把握するにはレアなアナログ盤を探すしかなかったので、実にありがたいリリースだ。
(俺はもちろん?ELECTRIC BANANAのアナログ盤なんて持ってないから、この全曲集で初めて全体像がわかった)
1967年の3rdアルバム『EMOTIONS』を最後にフォンタナ・レコーズとの契約を切られてしまったTHE PRETTY THINGSメンバーが、当座の小金を手っ取り早く稼ぐための‟仕事”として取り組んだのがTHE ELECTRIC BANANAの始まり。
ELECTRIC BANANAのレコードを制作したミュージック・デ・ウルフというレーベルは通常のレコード・レーベルではなく、‟ライブラリー・ミュージック”を手掛けるレーベルだった。
ライブラリー・ミュージックというのはTVや映画のテーマやBGMなどのために制作・使用される音楽のこと。
イギリスやヨーロッパでは、ひとつのTV番組や映画のためにわざわざ音楽を制作したり既存の楽曲を使用したりすると制作費や版権料で経費がかさんだりするため、番組や映画に使用するための雑多な音楽をあらかじめライブラリーとして制作しておき、それを提供する専門のレーベルというのがあるのだそうで。
デ・ウルフはそのようなレーベルのひとつだった。
そういう性格の音源なので、THE ELECTRIC BANANAの‟オリジナル・アルバム”は市販されることがなく、レアになったワケだ。
ともあれTHE PRETTY THINGSのメンバーはTHE ELECTRIC BANANAを名乗り、1967年半ばに1stアルバム『ELECTRIC BANANA』を録音する。
変名バンドということで、当然ながらレコードに参加メンバーのクレジットはなかったものの(ソングライティングのクレジットはアリ)、この時のメンバーはフィル・メイ(ヴォーカル)、ディック・テイラー(ギター)、ウォリー・ウォラーことウォリー・アレン(ベース)、ジョン・ポヴィ(ドラム、キーボード)の4人。
当時のPRETTY THINGSにはスキップ・アラン(ドラム)が在籍していたはずだが、何故かこのアルバムの録音には参加しておらず、PRETTY THINGSにキーボーディストとして加入する以前はTHE FENMENでドラマーだったジョンが叩いている。
『ELECTRIC BANANA』のジャケットにはアレンジャーとして、デ・ウルフと契約していた作曲家・編曲家であるレジナルド・ティルズレーの名前が表記され、彼はTHE ELECTRIC BANANAの演奏にホーンズなどを加えている。
レグ・ティルズレーはTHE PRETTY THINGSの『EMOTIONS』でもホーンズやストリングスのアレンジを担当した人。
『EMOTIONS』でのホーンズなどのオーヴァーダビングはフォンタナが勝手に指示したことで、メンバーは不満だったというが、一方バンドがデ・ウルフでの仕事を得たのはティルズレーの紹介だったのかも知れない。
アルバムはA面がヴォーカル入りの5曲、B面が同じ曲のインストゥルメンタルという構成。
収録曲中の2曲はこれまたデ・ウルフの専属作曲家だったピーター・レノが書いていて、それ以外の曲も『EMOTIONS』以上にポップ。
元々PRETTY THINGSが演っていたようなロックよりも、むしろポップスやソフト・ロックに近いスタイル。
しかし1曲目「Walking Down The Street」をはじめ、楽曲の出来はとても良い。
レノが作曲した「'Cause I'm A Man」は後にジョージ・A・ロメロの映画『ゾンビ』(DAWN OF THE DEAD)に使用されたという。
(全然覚えてない…)
続いて1967年末には2ndアルバムが録音され、68年に『MORE ELECTRIC BANANA』としてプレスされた。
メンバーは前作と同じ4人。
録音時にはまだTHE PRETTY THINGSに在籍していたはずのスキップ・アランはやはり参加しておらず、彼は68年3月にバンドを脱退している。
ここでもA面がヴォーカル入りの6曲、B面がインストゥルメンタルで、ピーター・レノが2曲を作曲。
しかしこのアルバムではホーンズは入っておらず、バンドのメンバーだけによる演奏は前作よりもかなりヘヴィ、かつサイケデリック。
1曲目の「I See You」はPRETTY THINGSの名作4thアルバム『S.F.SORROW』(68年)で再録されることに。
レノが書いた「Street Girl」(ヴォーカルはフィル・メイではなくウォリー・ウォラー)はベルギーでシングルとして発売され(つまりTHE ELECTRIC BANANのレコードはまったくレコード店に出回らなかったとかではないワケだ)、その後76年には『SNAKE DANCER』というポルノ映画(?)で使用されたという。
1969年には3rdアルバム『EVEN MORE ELECTRIC BANANA』が制作される。
同じようなアルバム・タイトルを引っ張るだけでなく、ここまでの3作のジャケット・デザインはほぼ同じ。
ひょっとしてデ・ウルフの製作陣にポップ・アート的なセンスを持つ人がいたのかも知れない。
このアルバムは使途がはっきりしていなかったライブラリー・ミュージックの前2作と違い、『WHAT'S GOOD FOR THE GOOSE』という映画のサントラ盤として制作され、THE ELECTRIC BANANAはその映画に出演も果たしている。
(何それ観たい)
この時点ではジョン・ポヴィがキーボードに専念し、ドラマーはあのトゥインク。
1曲目「Alexander」(超名曲!)からトゥインクのワイルドなドラムが炸裂。
このアルバムだけは歌入りとインストゥルメンタル半々ではなく、ヴォーカル曲の方が多い。
ソングライティングも1曲を除いてメンバーの手になるモノで、ハードにして絢爛たるサイケデリック・サウンドはもう1枚の『S.F.SORROW』といった趣。
ELECTRIC BANANAの全作品中でも最高の1枚だと思う。
ちなみに俺が初めてELECTRIC BANANAを聴いたのはこのアルバムに収録された「Blow Your Mind」で、80年代にFMでかかったのを聴いたのだった。
その後THE PRETTY THINGSはメンバー交代と5thアルバム『PARACHUTE』(1970年)のリリースを経て71年半ばに解散するが、半年ほどで復活、72年12月には6thアルバム『FREEWAY MADNESS』をリリースしていた。
復活したPRETTY THINGSが初のアメリカ・ツアーを経験するなど地道に活動していた73年、『EVEN MORE ELECTRIC BANANA』収録の「It'll Never Be Me」がBBCのTV番組「Dr.Who」で使用される。
デ・ウルフはTHE ELECTRIC BANANAの音楽にまだ需要があると見込み、新しいアルバムの制作を持ち掛けるのだった。
この時のメンバーはフィル・メイ(ヴォーカル)、ピーター・トルソン(ギター:元EIRE APPARENT)、ステュアート・ブルックス(ベース:元BLACK CAT BONES~LEAF HOUND)、ジョン・ポヴィ(キーボード、ヴォーカル)、ゴードン・エドワーズ(キーボード他:元SUNSHINE)、スキップ・アラン(ドラム)の6人。
そしてアルバム『HOT LICKS』が制作された。
今回はまた歌入りとインストゥルメンタル半々に戻ったが、全曲をメンバーが自分たちで書いている。
ところでこのアルバムには何処にもELECTRIC BANANAの名前がない。
どうやらバンドの名義自体がHOT LICKSだったようだ。
時代は73年…流石にもうELECTRIC BANANAでもないだろう、ということか。
ともあれポップなハード・ロックあり、スワンプ/パブ・ロック風ありと、同時期のPRETTY THINGSに近い多彩な楽曲が聴ける。
オリジナルLPの裏ジャケットには各楽曲の曲調が簡潔に書いてあって、「ああ、本当にTVや映画で使うためのカタログみたいなもんだったんだなあ」と納得。
その後THE PRETTY THINGSは7thアルバム『SILK TORPEDO』(1974年)、8th『SAVAGE EYE』(76年)を経て再び解散。
THE ELECTRIC BANANAは78年に通算5作目となる『THE RETURN OF THE ELECTRIC BANANA』を制作しているが、この時のバンドはPRETTY THINGSの変名ではなく、その正体はPRETTY THINGS解散後にフィル・メイが結成したPHIL MAY & THE FALLEN ANGELSだった。
当時のメンバーはフィル・メイ(ヴォーカル)、ミッキー・フィン(ギター:元STEVE MARRIOTT'S ALL STARS)、ビル・ラヴレディ(ギター)、ウォリー・ウォラー(ベース、ヴォーカル、ギター)、チコ・グリーンウッド(ドラム:元MOONRIDER)、ブライアン・ジョンソン(キーボード)の6人。
今回も歌入りとインストゥルメンタル半々で、全曲をウォリーとエレクトラ・ステュアート(フィルの妻)が共作し、THE FALLEN ANGELSと同じような方向性のポップなロックを演っている。
「James Marshall」はもちろんジミ・ヘンドリックス(ジェイムズ・マーシャル・ヘンドリックス)に捧げられた曲。
『THE RETURN OF THE ELECTRIC BANANA』が制作された1978年にはまたしてもTHE PRETTY THINGSが復活。
以後のバンドはTHE ELECTRIC BANANAとして活動することはなかったが、ウォリー・ウォラーは自身のバンドを率いてデ・ウルフで2枚のアルバムを制作したという。
その後84年には『THE RETURN OF THE ELECTRIC BANANA』収録の「Take Me Home」と「James Marshall」がZAC ZOLAR & ELECTRIC BANANA名義でシングルとしてリリースされたとのこと。
(ザック・ゾーラーって誰や)
そしてELECTRIC BANANAの楽曲は21世紀に入っても映画で使われているのだそうで。
そんなTHE ELECTRIC BANANAの音楽。
今回はCD3枚組のBOXセットで、ディスク1には『ELECTRIC BANANA』と『MORE ELECTRIC BANANA』が、ディスク2に『EVEN MORE ELECTRIC BANANA』と『HOT LICKS』が、そしてディスク3には『THE RETURN OF THE ELECTRIC BANANA』と、収録時間の関係でディスク2から漏れた『EVEN MORE ELECTRIC BANANA』の1曲が収録されている。
(ちょっと苦しい構成)
ELECTRIC BANANAの音楽が使用された映画のスチール写真をふんだんにあしらったブックレット付き。
ただ、本文中の随所に様々なバンド名やアルバム名や曲名などを混ぜ込んだライナーノーツはえらく装飾的というか詩的(?)な文体で、ぶっちゃけかなり読みづらい。
(‟the soft white underbelly of 1960s British pop…”とか言われても、BLUE OYSTER CULTの前身バンドであるSOFT WHITE UNDERBELLYのことを知らなければ「は?」ってなもんだろう)
正直言ってマニア向けな箱。
しかし、長い歴史の中でメンバーも音楽性も変化させてきたTHE PRETTY THINGSの全貌を知るうえで、ファンには興味深いセット。
『EVEN MORE ELECTRIC BANANA』の全曲が聴けるというだけでも、PRETTY THINGSマニア以外にも聴く価値があると思う。
(2025.12.8.全面改訂)

