HERE/電撃

HERE 電撃.jpg7日からレコ発ツアーを開始したHEREが、その7日にリリースした7thアルバム。

近年は初期に較べてかなりポップ化が進んだな、と思っていたHEREだったが、今回はタイトルから想像出来る通り、かなりガツンとロックした1枚になっている。
性急に突っ走っていきなり終わってしまう冒頭の「電撃KISS」とラストの「青年よ、電撃を抱け。」に挟まれて、「すべてぶつけて愛し合おうか、猛烈に。」とか「大丈夫、永遠じゃない。」とか「詩になる」とか「鋭く尖る」とか「どれほど僕が君のことを愛してるとかどうだっていい」とか「今ここがポイントだ」とか「ギリギリで鳴らす」とか、曲名を見るだけで「ああ、HEREだなあ」となる。

そして「電撃KISS」に続く「BANG-BANG-ZAI」から、”祝え 普通の日々を”と、コロナ禍がようやく落ち着きを見せ(…ているように見える。実は”ように見える”だけで全然落ち着いてないが…)、戻ってきた日常を全力で寿ぐ。
…ようでいて、”こんがらがった論争””微妙に狂った日本”といった歌詞に見られるように、手放しで「さあ皆さんご陽気に!」とはなっていない。
”右や左も 真ん中とかもない””勝敗も今は関係なく”という歌詞にも、今の世相が反映している…と思うのは決してうがった見方ではないはず。

そう、尾形回帰の歌詞には、どんづまりな極限状況を経験しながらそれでも遮二無二前を向こうとする、開き直ったポジティヴさが感じられる。
”明日はないかもしれない/そう思ったあの日から 今を全力で生きると誓った/バイバイ 自分を愛せない日々/いつも世界は変わらない だから俺自身変わるんだ”(「Sing!! Sing!! Sing!!」)
”絶望なんかしていないことに/僕らはやっと気がついたんだ”(「詩になる」)
あと”気づけばもう40代さ”(「すべてぶつけて愛し合おうか、猛烈に。」)とか、本来年齢不詳を標榜しそうなロック・スターらしからぬ歌詞…も尾形ならではというか。

特に心に響いたのは「大丈夫、永遠じゃない。」で。
”大丈夫、永遠じゃない。 大丈夫、終わりは来るよ”…終わりがないと思われるような苦しみに直面している人(例えばいじめに遭っていたりとか、離婚や失恋で回復不可能なほど落ちてる人とか)に届いてほしい歌だ。

ガツンとロック、と言いながら、当然ながら非常に多彩な曲があり、新機軸も。
特に注目すべきは「どれほど僕が君のことを愛してるとかどうだっていい」と「複雑な熱帯夜」の2曲だろう。
とりわけ「複雑な熱帯夜」。
歪まない流麗なギター・リフに導かれる、シティ・ポップ風(?)な横ノリのグルーヴ。
これまでのHEREになかったタイプの曲。
もちろん、終盤の超速い三々七拍子で盛り上がる「BANG-BANG-ZAI」みたいな曲があってこその対比。

非常に出来の良いアルバムだが。
一般の流通には乗せず、ライヴ会場での手売りとネット通販のみでの販売になるのだそうで。
メガヒットとそれ以外…という二極分化、あるいは多極分化の現状では賢明な選択、というべきなのか。
ともあれ活動15年となるHERE、まだまだこれからだ。

D・O・T/BOKU NO TOMODACHI

DOT 4th.jpg唯一無二のアラビック・パンク・バンドD・O・Tが、前作『BIRDS EYE VIEW』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201707article_5.html)から6年ぶりに完成させた4thアルバム。
本日リリース。

リリースに伴うインタヴューは、以下を御覧ください。

前編:https://www.oto-tsu.jp/interview/archives/11884
後編:https://www.oto-tsu.jp/interview/archives/11912

7分とか10分とかの長い曲が多くなり、その結果全11曲で65分と、これまでで最もヴォリュームのある1枚になっている。
一方で速い曲/速いパートは激減し、いわゆるハードコアには分類出来ない音楽になった。
そして、今までのアルバムでも平和への祈りなどを前面に出してきたD・O・Tが、ここでは共生・包摂をアルバム全体のコンセプトにまで拡大し。
「FACE TO FACE」ではネグレクト/児童虐待の、「TIC TIC TIC」「LIAR」「I'M NOT FALLEN ANGEL」などではさまざまな障害の、それぞれ当事者の目線に立った歌詞を投げかけてくる。

そうしたメッセージ性の強さを以て、D・O・Tを”社会派”などと呼ぶのはやめておきたい。
そもそもパンクって、社会に物申してナンボでしょう。
パンクに限らず、日々の生活はそのまま政治とも直結しているのだから。
(そのことを考えようともしない人が多過ぎるだけで)

何より今作のD・O・Tは、そのメッセージをこれまでで一番明快かつキャッチーなメロディに乗せている。
全曲を作曲したHIROSHI(ベース)は、曲の速い遅いにこだわることなく、自分たちなりのキャッチーさにこだわり抜いたのだという。
かつては勢い任せに投げつけるような歌唱を聴かせていたNEKO(ヴォーカル)…ここに来て、歌が上手くなっている?
更に、かつてになく前面にフィーチュアされた、HIROSHIとMARU(ドラム)のコーラスとヴォーカル。
diskunion向けの特典音源では、HIROSHIが初めて全編リード・ヴォーカルを担当する曲も聴くことが出来る。

そして3人のヴォーカルの土台となる、HIROSHIのベースとMARUのドラムだけによる演奏。
速い曲/速いパートはない、と書いたが、「I'M FROM ANCIENT」や「HEART OF GOLD」なんかの速いパートでの二人の疾走感はまた格別だ。
これまで以上に立体感のようなモノを感じさせる音作りになっていて、ギターがないことは欠落でもなんでもない。
ベースもドラムも、実によく歌っている。

D・O・T初の見開き紙ジャケット。
表と裏のイラストは、HIROSHI自身が手掛けている。
ポスターになっている歌詞カードも同様。
コレがまた何とも言えない味わい。

残念ながらHIROSHIが病に倒れたことで、レコ初ライヴその他の予定はまったく立たないままだが。
NEKOとMARUはHIROSHIの復帰を待ちながら二人で活動を継続するという。
どんな形であれ、D・O・Tのステージを再び観られる日を待ちたいと思う。

The Skarlets/hug

Skarlets.png1980年にリリースされ、2020年にまさかのCD化が果たされるまで、40年に渡って幻の作品とされてきた東京ポスト・パンク・シーンのオムニバス『都市通信』。
https://lsdblog.seesaa.net/article/202002article_15.html
その『都市通信』のトップを飾っていたSynchronize…の後身バンド・The Skarletsが、なんと新作音源を完成させた。

Synchronize/The Skarletsの音源は、2020年にCD3枚組の編集盤『An Afterimage』としてリリースされているが。
純然たる新作はSkarletsの1989年のカセット『Liverpool』以来34年ぶりのはず。
45回転4曲入り12inch。
(同内容のCD付き)

1979年に結成されたSynchronizeがThe Skarletsと改名したのは87年。
90年に活動休止。
2020年に活動再開。
現在のメンバーは白石未来夫(ヴォーカル)、野本健司(ギター、シンセサイザー:元NON BAND他)、小暮義雄(ドラム)、橋本由香里(ベース)、久野(横田)尚美(キーボード)の5人。
白石、小暮、久野が『都市通信』当時のメンバー、野本、橋本が活動休止当時のメンバー。
活動休止したのが今から33年前ということを考えると、よくこのメンツがそろったなと思わずにいられない。
メンバー5人はこの3月現在70歳~59歳という。

「少年画報」「Off World」「黄昏まで」「抱擁」の4曲。
シンセサイザーを前面に出したポップなサウンドに白石未来夫の無機質な感じのヴォーカルが乗っていた『都市通信』当時のSynchronizeから43年。
当然ながらサウンドは変化している。
ピアノの音色も多用され、年輪を刻んだ白石の歌唱も含め、昔に較べるとかなりオーガニック。
それでもコレはやっぱりニュー・ウェイヴ/ポスト・パンク由来の音楽で、間違いなく当時のSynchronizeからつながった音、とも感じさせる。
少年画報どころか少年キングも存在しない21世紀に”この世界はSEXYじゃないのか/SEXYの意味を知りたい”と歌われる「少年画報」…半世紀前に青少年だった白石の中に、今でも70年代の少年の面影が感じられる、気がする。


『都市通信』CD再発の立役者だったイノウエU氏は昨年夏に亡くなってしまった。
彼が生きていたら、メールやツイッターのDMでこの12inchの感想を話し合ったはず。
もうちょっと生きていて欲しかったんだが。


ともあれThe Skarlets「hug」、25日リリース。

OLEDICKFOGGY/残夜の汀線 -ZANYA NO TEISENー

OLEDICKFOGGY 残夜の汀線.jpg紹介が遅れてしまった。
OLEDICKFOGGY、フルアルバムとしては2018年の前作『Gerato』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201803article_7.html)から実に5年ぶりとなる7thアルバム。
21年のミニアルバム「夜明け来ず跪く頃に」からでも2年ぶりとなる。
15日にリリースされているので、聴きまくっている人も多いのでは。

で、メンバーが交代しているので、ジャケットに見たことない人が写っているのは当然なのだが。
真ん中に映っている人からいきなり「誰だコレ」となってしまった。
他でもない伊藤雄和(ヴォーカル、マンドリン)でありました…。
髪が短くなっているうえに、ヒゲもない。
誰かと思った。
(しかしこの人やっぱり団時朗系の顔だな…)
右端に写っているTHE TOURISTSのエディ・チン(誰も覚えてないか…)みたいな人は大川順堂(ドラム)だった。

いきなり”うぉっうぉっうおっお”という超キャッチーなコーラスから始まる「消えて行く前に」から、コロナ禍の鬱屈を反映していたような「夜明け来ず跪く頃に」と雰囲気が違う。
そして”だから今を生きるんだ/誰にも気付かれず消えて行く前に”という、なけなしの前向きさ。
それは”悲しみや孤独痛みも昨日に置いて来た/摩天楼を越えて夜の彼方へ旅立て”と歌われる「夜光虫」にも引き継がれる。
”生きてる間に生きようぜ””終わりが来たら 始まりの歌を 唄えよ”という「また今日が終わる」にもグッとクる。

一方『Gerato』のタイトルが”Jアラート”から来ていたというOLEDICKFOGGY。
新作のタイトル曲「残夜の汀線」は…やはりというか、直接的にそれ風な言葉を一切使わずに、ロシアのウクライナ侵攻後の不穏な世界を反映している、ように聴こえる。

「少し飲んで帰ろう」「仄灯 -HONOAKARI-」などにちらつく孤独の影も伊藤雄和節というか。
そして「さよならセニョリータ」や「デリバリーヘルスィング」に顕著な、特有のユーモア。
特に歌詞カードを見たら確かに日本語なのに、聴いてみるとスペイン語みたいに響く「さよならセニョリータ」にはびっくり。
(愛知のLIPSTICK KILLERSの名曲「Dance On/No Vision~男装の美女」を思い出した…って誰も知らねえか)
あと、『Gerato』の「薄荷煙草とギムレット」に出てきた”陪堂(ほいと)”にも驚いたけど、今回も「満月とポイズン」の”躄(いざり)”とか…何処からそんな言葉や字が出てくるんだろう、と。

ラストに収められているのは「デリバリーヘルスィング」だが、前作のラスト曲「ベターエンド」に対応するような形になるのは「デリバリーヘルスィング」の前に入っている「エンドロール」だろう。
ただし「エンドロール」でアルバムが終わってしまうと、締めの雰囲気が前作と似通ってしまうし、「デリバリーヘルスィング」から謎の実況録音(?)で終わるのが今回のアルバムらしい幕切れということか。

外野(?)からは「ラスティックの楽器編成の必然性がない」みたいに言われたりもする近年のOLEDICKFOGGYだが。
彼らの曲名を引き合いに出せば「いいえ、その逆です。」といったところだろうか。
バンジョーやアコーディオンやマンドリンを前面に出した編成で、ポップかつ幅広い楽曲を演ってみせ、ジャンルを押し広げていくことこそ、OLEDICKFOGGY流のラスティックの行き方なのだと思う。
その点、エレキ・ベース(「満月とポイズン」のイントロのカッコいいこと)を導入し、相変わらずシンセ・ソロが鳴らされたりする新作の方向性は、まったく奇を衒った印象なくナチュラルに響く。
前任のyossuxiとはまったく違う声質の三隅朋子のヴォーカルをフィーチュアした「ゆらゆら」もとても良い。

今回も、紛れもない傑作。
我が家ではヘヴィ・ローテーション中です。

LOVEBITES/JUDGEMENT DAY

LOVEBITES.jpg弱冠20歳の新ベーシスト・famiを迎えて活動を再開したLOVEBITES、前作から3年ぶりとなる4thアルバム。
って、初めて聴いたんだけどさLOVEBITES。

バンド創設メンバーのmihoを欠く新作。
コレが、凄くイイんです。
なるほど、このバンドがBURRN!で大きく取り上げられたりオリコンチャートの常連なのも理解出来た。

全10曲がおおむね速い。
いわゆるメロディック・スピード・メタルということになるのかな…と思ったんだけど、ザクザクとヘヴィな刻みや怒濤のツーバスが随所で炸裂するのには、いやコレほとんどスラッシュ・メタルじゃん、と思った。
もちろんasamiのクリアで伸びやかなヴォーカルは全然スラッシュっぽくないんだけど。
それにしても、メンバー写真では一番身長が低く見えるharuna(かわいい…)の、ルックスからは想像もつかないドカドカ・ドラム…こりゃすげえ。

アルバムに先行して12月にシングルとしてリリースされたタイトル曲も良い。
それ以上に驚かされたのが、続いて先月リリースされたシングル曲「Stand And Deliver(Shoot 'em Down)」。
イントロにフィーチュアされた新加入のfamiによる、「レミーか!」と思うような極悪なベースときたら。
同じくイントロ、ソロでもリフでもなく”ギョイーン!”と鳴り響くギター音なんて、ほとんどSLAYERみたい。
そしてギャング・コーラスに導かれるスラッシュ的なサウンド。

「Stand And Deliver(Shoot 'em Down)」と並ぶ個人的なお気に入りは、3曲目「The Spirit Lives On」。
ジャーマン・メタル風なメロディを歌いながら、サビに向かって限りなく音程を上昇させていくasami。
そもそもクリアなハイトーンが尊しとされてきたヘヴィ・メタル…考えてみると、女性シンガーって昔からもっと参入しても良かったんだよな、とか改めて思った。

全曲中で最もキャッチーではと思われる速めのミドル「My Orion」もナイス。
なんかコード進行やサビメロがJOURNEY「Separate Ways」メタル版、みたいな感じ。

いや、コレは実に素晴らしい。
SNSで、メタルとか聴かなそうな知人たちがLOVEBITESをやたら褒めてるのがよくわかった。
恐れ入りました。
本日リリース、今日はずっとコレばかり繰り返し聴いている。

SUASION/THE INFINITE

SUASION.jpgベルギー(!)の”シネマティック/メタルコア/エレクトロニック/ロック・バンド”の2ndアルバム。
ベルギーゆうたらAKSAK MABOULとかUNIVERS ZEROとかX-LEGGED SALLYとかPRESENTとか、あとTELEXとかいうイメージだったけど、こんなバンドもいるのねえ。

メンバーはスティーヴン・ラサー(ヴォーカル)、ニコラス・ピアレ(ギター)、ジュリエン・デジャス(ベース)、ヴィアジル・ディージェン(ドラム)の4人。
2013年に結成され、17年までにシングルを6枚リリースしているというが、全部ネット配信だったらしい。
17年に初めてツアーを行ない、19年に1stアルバム『STARDUST』をリリース。
アルバム・デビューに伴って、20年には1ヵ月のヨーロッパ/UKツアーを予定していたというが、コロナ禍で全部キャンセルになったとのこと。
21年にアトミック・ファイアと契約し、新たに制作されたのが『THE INFINITE』。

バンドが標榜する通りの音…というか、メタルコアというよりはメタリックなギターをフィーチュアしたエレクトロニックでダンサブルなロック、といった感じ。
メンバーにキーボーディスト/シンセサイザー奏者はいないが、ギターよりかはむしろビヨビヨの電子音の方が前面に出ている。
それに乗る、渋い中音域からエモいハイトーン、スクリーム、更にラップも披露と変幻自在なスティーヴン・ラサーのヴォーカル。
”オーオーオ”というキャッチーなコーラス。
シネマティックというだけあって重厚かつドラマティックな展開の多さも特徴的。
レーベル・オーナーのマルクス・シュタイガー(ニュークリア・ブラストの創設者)肝煎りというのもうなずけるクォリティ。

メタルコア、というカテゴライズだけで耳をふさぎそうなオールドスクール・メタルのファンにはお勧め出来ない音だが、現代のヘヴィ・メタルが持つ雑食性を体現するようなバンド。
(上述の通り、実際にはメタルコアでさえないような気がする)
そんなバンドがベルギーから出てくるというのも面白い。
27日リリース。

KATATONIA/SKY VOID OF STARS

KATATONIA.jpgスウェーデンが世界に誇るメランコリック・メタルの雄、前作『CITY BURIALS』(2020年)から3年ぶりとなる12thアルバム。
ナパーム・レコーズ移籍第1弾。
昨日リリース。

1991年の結成から今年でもう32年。
現在の編成、ヨナス・レンクス(ヴォーカル)、アンダース・ニーストロム(ギター)、ロジャー・オイエルソン(ギター)、ニクラス・サンディン(ベース)、ダニエル・モイラネン(ドラム)の5人は2016年から。

『SKY VOID OF STARS』…つまりは”Starless”ということですね。
そのタイトル通り、陰欝にして美しく、ゴシックにして叙情的な、メロウかつリリカルなメタル・サウンドが展開する。
ドゥーミーなデス・メタルだったデビュー当時はもちろんのこと、叙情派メロディック・デス・メタルで鳴らしたその後の時期も既に遠い昔。
グロウルを完全に排したヨナス・レンクスの哀感に満ち満ちたヴォーカルと、端正でメロディアスなアンダース・ニーストロムのギターを前面に出した、メランコリックにもほどがある哀愁のメタル…という路線は完全に確立され。
その方向性を更に突き詰めた音が詰め込まれている。

アンダース・ニーストロム曰く、「失われ、二度と見つからないもの、決して手が届かない領域への憧れから生まれたものを凝縮し、KATATONIAらしいサウンド、言葉で提示した」とのこと。
ああ、ブラジル音楽の”サウダーヂ”に近い領域まで来ているのだな。

イギリスのPARADISE LOSTほどにはゴシック色は強くなく。
(もちろん充分にゴスいが)
アメリカのCYNICほどにはテクニカルでもなく。
(もちろん充分に上手いが)
一方で北欧ならではの美旋律。
実にナイスな1枚。
雨の降りしきる退廃した街の路地にカラスが乱舞するジャケットもとても良い。

IGGY POP/EVERY LOSER

IGGY POP EVERY LOSER.jpg前作『FREE』(2019年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201910article_6.html)から3年ちょっとを経た、イギー・ポップの新作。
輸入盤は6日に出ていたが、国内盤は本日リリース。
俺は昨日フライングで入手。
11曲37分と短いので、今日はもう何度も繰り返し聴いている。

今回のプロデュースは、ジャスティン・ビーバーからオジー・オズボーンまで手掛けている当代一の売れっ子、アンドリュー・ワット。
演奏陣はアンドリュー(ギター、ベース、キーボード、ドラム・シークェンス、パーカッション、バッキング・ヴォーカル)、GUNS N' ROSESのダフ・マッケイガン(ベース)、RED HOT CHILLI PEPPERSのチャド・スミス(ドラム)、元RED HOT CHILLI PEPPERSのジョシュ・クリングホッファー(ギター、キーボード、ベース、シンセサイザー)が中心。
あと、曲によりPEARL JAMのストーン・ゴッサード(ギター)、JANE'S ADDICTIONのデイヴ・ナヴァロ(ギター)とクリス・チェイニー(ベース)、元JANE'S ADDICTIONのエリック・エイヴァリー(ベース)、FOO FIGHTERSの故テイラー・ホーキンス(ドラム)、BLINK 182のトラヴィス・パーカー(ドラム)が参加。
もの凄く豪華。
ダフとチャドはオジー・オズボーンの『PATIENT NUMBER 9』(2022年)にも参加していたし、ワット組という感じなのか。
そしてジョシュの鍵盤類が随所でよいアクセントになっている。
(なんだか、過去のイギー・ポップのアルバムで聴けたキーボード・サウンドとは違った音…があちこちで聴ける)
ほとんどの曲でリード・ギターを弾くアンドリューのプレイは、手堅い。

ポエトリー・リーディングもフィーチュアした静謐で内省的な要素が前に出ていた『FREE』とは、予想通り全然違うアルバムになっている。
しかし、コマーシャルな『BLAH-BLAH-BLAH』(1986年)の後にハードな『INSTINCT』(88年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_375.html)があったとか、ジャジーで陰欝な『AVENUE B』(99年)の後にパンクでやかましい『BEAT EM UP』(2001年)があった…みたいな、イギー・ポップのキャリアによくある前作への反動的な作風、とは一味も二味も違う気がする。
強いて言えば、ポップな『BRICK BY BRICK』(90年)から重厚でディープな『AMERICAN CAESAR』(93年)に行った時を思わせる。
1曲目「Frenzy」や7曲目「Neo Punk」のように、パンクのゴッドファーザー的なパブリック・イメージのままに突っ走る曲もある一方で、『AMERICAN CAESAR』がそうだったように硬軟自在な感触。
パンクな曲でも、『BEAT EM UP』にあった、ちょっと無理矢理っぽい感じがないし、一方で魅惑の低音を活かした重心低い曲も多い。
”違う畑”の先鋭二人、レロン・トーマスとノヴェラーの音作りに見事に乗っかってみせた『FREE』同様に、今度はメインストリームのトップ・プロデューサーの最新の音作りに乗っかって自由に遊んでみせた、というか。
「オジーが組んでた奴だろ? 面白そうじゃないか」とかいって。

いや、売れっ子の若いプロデューサーに「お手並み拝見」とか言いつつ、豪華な参加ミュージシャンに”仕事”をしてもらった…というだけのアルバムにはなっていないのだった。
驚いたのが、全曲がイギー・ポップとアンドリュー・ワット、そしてダフ・マッケイガンやチャド・スミスなど録音に参加した各メンバーの共作になっていること。
アンドリューがこしらえた楽曲に他のミュージシャンがリモートで参加してデータのやり取りで仕上げた…みたいな今風の作り方じゃなくて、みんなでスタジオに入ってジャムりながら作ったと思われる。
全員ガチだ。
(結果、曲毎の版権のクレジットが長い…)

それにしても、歌い出しから"Got a dick on 2 balls…”という「Frenzy」は下品にして超強力で、この上ないツカミの1曲となっている。
”コレがイマドキのやらずぶったくりさ”と歌われる「Modern Day Rip-Off」での猿のような(?)シャウトも痛快。
パンクの祖たるイギー・ポップが実は現代のパンクを皮肉っているのでは?…とも思わされる「Neo Punk」もユニーク。
(イントロから”パンク! パンク! パンク!”と叫ぶ)

一方で、しんどいけど朝の番組に出なくちゃ…みたいな、キャスターかタレントの憂鬱を歌にしたような「Morning Show」や、精神科医療機関のCMの文句を読み上げているみたいな「The News For Andy」では、実に渋い声を聴かせる。
現在の居住地であるマイアミへのちょっとねじれた愛情を歌うような「New Atlantis」もナイス。
ジャンキーのジョニー(あれ? どのジョニー?)を歌った「Strung Out Johhny」のイントロはちょっとNIRVANAっぽかったりも。

ちょっと抽象的な歌詞に、”色”のイメージが頻出するのも興味深い。
”My insides have turned red”(「Morning Show」)、”My hair is blue and my prescription, too”(「Neo Punk」)、”The gods in heaven have gold”(「All The Way Down」)とか。
一昔前のイギー・ポップだったら、「俺はこんな歌詞は書かないぜ?」と言ったのでは、という気がするような歌詞。
どのような心境だったのか、と思わされる。
(対訳と同時に英詞も読みながら聴いていたんだけど、イギー自身の手書きと思われる英詞のまあ読みづらいこと…)

”全ての負け犬”というタイトルも、いかにもイギー・ポップらしい、というか。
ジャケットのアートワークはBLACK FLAGで御馴染みレイモンド・ペティボン(!)、写真のメインはミック・ロック…と、装丁も完璧。
ブックレットにある、度の強そうな老眼鏡を掛けて何か書いているイギーの写真(やっぱり上半身裸)がグッとクる。

”パンクのゴッドファーザー”イギー・ポップ…じゃない、冠のないただのイギー・ポップが全方位で全開になった1枚。
うちの母親と3歳しか違わないイギー、この春で76歳となる。
この後期高齢者の新作、早くも2023年のベスト・アルバム候補となった。

IMPERIAL TRIUMPHANT/SPIRIT OF ECSTASY

IMPERIAL TRIUMPHANT.jpg12月2日のリリース。
最近まで聴けず。
1ヵ月遅れの紹介となってしまった。

ニューヨークのアヴァンギャルド・メタル・トリオ、5thアルバムにして初の国内リリース。
2005年結成、7年後の12年にアルバム・デビューしてから既に10年。
メンバーはザッカリー・エズリン(ヴォーカル、ギター、バラライカ)、スティーヴ・ブランコ(ベース、キーボード、ヴォーカル、クラシック・ギター)、そしてジョン・ゾーンやBRAND Xのアルバムでも叩いているケニー・グロハウスキー(ドラム、アコースティック・ギター)の3人。

全8曲、5分台から7分台まで、テクニカル・デス・メタルにノイズとプログレとジャズとグラインド・コアを容赦なくぶち込んだような音楽性。
ヴォーカルが一番フツーにデス・メタルで、他はもう変態の極み。
で、ゲストがまた豪華。
「In The Pleasure Of Their Company」では、パーシー・ジョーンズ(ベース:BRAND X)、アレックス・スコルニック(ギター:TESTAMENT)、トレイ・スプルーアンス(ギター:Mr.BUNGLE他)といった無茶苦茶なようでいて納得なゲスト陣が暴れまわっている。
(トレイはアルバムのマスタリングとストリング・アレンジも担当)
「Maximalist Scream」ではVOIVODのスネイク(ヴォーカル)がゲスト参加しているが、IMPERIAL TRIUMPHANTが前作でVOIVODをカヴァーしていたことを思えば納得。

…一番びっくりしたのが、「Merkurius Gilded」でソプラノ・サックスを吹いている、ケニー・G(!)。
マジで、あのケニー・Gですよ。
イージーリスニング風の”スムーズ・ジャズ”で一世を風靡した、あの。
恐る恐る「Merkurius Gilded」を聴いてみる。
ストリングスのイントロから、「ずどどどどど」という怒濤の、かつ恐ろしくテクニカルな演奏が炸裂する。
えっ、何処でケニー・G出てくんの?…と思いながら聴いていると、曲が半分ほど進んだところで、あのスムーズな音色…なのに思いっきりフリーキーに吹きまくるサックス・ソロが展開して慄く。
本人も楽しんで吹いたんじゃないかなあ。
(ケニー・GのバンドにはISLAND~AMBITIOUS LOVERSのピーター・シェラーもいたことがあるというので、スムーズ一辺倒の人ではないのかも、とは思っていたが)

いろいろ面白い1枚。

THE ERINYES/THE ERINYES

ERINYES.jpg12月16日のリリース。
最近まで聴けず。

バンド名は”ジ・エリニェズ”ではなく”ジ・エリニュス”と読みます。
トリプル女性ヴォーカル(!)の新バンド、1stアルバム。

エリニュスというのはギリシャ神話に登場する3人の”復讐の女神たち”のことなんだそうで。
で、3人の女性ヴォーカルをフィーチュアした多国籍なバンド。
メンバーはフランス人のジュスティーヌ・ダーエ(ELYOSE)、イタリア人のニコレッタ・ロセッリーニ(KALIDIA他)、ブラジル人のミズホ・リン(SEMBLANT)という女性ヴォーカル3人に、演奏陣はアルド・ロノビレ(ギター:SECRET SPHERE、TIMO TOLKKI'S AVALON)、アンドレア・ブラット(ベース:SECRET SPHERE、TIMO TOLKKI'S AVALON)、ミケーレ・サナ(ドラム:COMA他)、アントニオ・アガテ(キーボード、オーケストレーション:元SECRET SPHER、TIMO TOLKKI'S AVALON)というイタリア勢。
ミズホは日系ブラジル人なのかと思ったら、父親は台湾人、母親はポーランド系ブラジル人とのこと。
(ちなみに喫茶店を経営する実業家でもあるという)
バンド・コンセプトや作曲、プロデュースを手掛けるのはアルド。
(TIMO TOLKKI'S AVALONに参加して、自分でも多国籍なプロジェクトやってみたくなったか)

3人のアマゾネスが、恋の相手を巡って争いを繰り広げる…という、まさにこの編成でなければ出来ないコンセプト・アルバム。
シンフォニック・メタル、パワー・メタル、ゴシック・メタルなどの要素をミックスしつつ、エレクトロっぽい部分もあり、何よりキャッチー。
「My Kiss Goodbye」のサビメロなんて、JOURNEY「Separate Ways」みたい。
で、女性3人がそれぞれ一歩も引かずパワフルに歌い上げる。
(ジャケットの並びとか、誰がセンターかでもめなかったのだろうか…)

以前紹介したオーストリアのVISIONS OF ATLANTIS(https://lsdblog.seesaa.net/article/202205article_11.html)とか、あとドイツのBEYOND THE BLACKとか、ヨーロッパの女性ヴォーカルのシンフォニック・メタル・バンドのファンにはお勧め。
ボーナス・トラック入りの国内盤推奨。