DAYMAREの2枚(SOFT KILL + SLEEP)

画像デイメア・レコーディングスより、本日リリースの新作2枚を紹介。
音楽性もキャリアも全然違う二組、どちらもお勧めのアルバム。













SOFT KILL『SAVIOR』

オレゴン州ポートランドで2010年に結成されたポスト・パンク/ダーク・ウェイヴ・バンド。
11年に1stアルバムをリリースして以降、途中に1年以上の活動休止期間を挟みつつ、アルバム4枚リリース。
前作から1年半ぶりとなる5thアルバム。
現在のメンバーはトビアス・グレイヴことトビアス・シンクレア(ヴォーカル、ギター、シンセサイザー:元BLESSURE GRAVE)、コンラッド・ヴォルマー(ギター)、オーウェン・グレンドワー(ベース、ピアノ)、アダム・バルガセム(ドラム)の4人。
THE CHAMELEONSの多大な影響を受けているそうで、他にもTHE CUREとかECHO & THE BUNNYMENとかTHE PSYCHEDELIC FURSとか。
実際そんな感じの音。
時につぶやいたり時に叫んだりするトビアスの低音ヴォーカルは、イアン・カーティス(JOY DIVISION)を思わせたりも。
音楽的にはJOY DIVISIONみたいに鬱々とはしていなくて、速い曲も遅い曲もスカッとしてる。
メランコリックで時にノイジーなギター、低く地を這うベース、トライバルになったりもするドラム。
びっくりするくらい80年代っぽい。
「Dancing On Glass」とか「Do You Feeling Nothing」とか、「おお、まさに!」と思うような曲多し。
しかしあくまで現代のバンドであるのは、90年代以降のエクストリームな音楽を通過しているのが明白な、ソリッドでダイナミックな演奏に現れている。
「Missing」とか、けっこうキャッチーな感じの曲も。


SLEEP『THE SCIENCE』(画像)

2009年に再結成したSLEEP、待望のアルバム。
『DOPESMOKER』(2003年)を独立したオリジナル・アルバムではなく『JERUSALEM』(1999年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201612article_18.html)の改訂版とすれば、『JERUSALEM』以来実に19年ぶりのオリジナル・アルバムとなる。
残念ながらクリス・ハキアス(ドラム)は不参加で、再結成後のSLEEPはアル・シスネロス(ベース、ヴォーカル)、マット・パイク(ギター)、そしてNEUROSISから客演のジェイソン・ローダー(ドラム)という3人。
この1月に初来日を果たしているが、俺は行けなかった。
原盤はジャック・ホワイトのサード・マン・レコーズからで、海外では4月にリリースされて、10000枚限定のLPが数時間で完売したんだとか。
それだけ渇望されていた新作。
(「Sonic Titan」は『DOPESMOKER』にも収録されていたものの)
ジャケットからして「SLEEPがスペース・ロック化?」とか思うけど、多少スペーシーなテイストも、程度。
見事にSLEEP節。
冒頭のタイトル曲からいきなりギター・ノイズが唸りを上げ、「おおお」となる。
あとは例の重剛引きずりリフが存分に味わえます。
ただ、もちろん昔のSLEEPそのままではない。
アルのお経ヴォーカルは90年代よりも随分クリアに聴こえて、SLEEPよりもOMを思わせたり。
「Giza Butler」あたりでは、かつてのSLEEPでもOMでも聴けなかったような、微妙にキャッチー(?)とも言える歌メロも顔を出す。
その「Giza Butler」、もちろんBLACK SABBATHのギーザー・バトラーにひっかけた曲名で、これまたかつてなかったユーモアのセンスを感じたりも。
ジェイソンのドラムは、クリスとかなりノリが違う。
ここは好みの分かれるところだろう。
あと、SLEEPとしては聴きやす過ぎる、というある意味屈折した(?)違和感を持つ人も多いかも知れない。
まあ14分半ある「Antarcticans Thawed」とか聴いて「昔よりも聴きやすい」とか思ってしまう俺みたいなのの方が病んでるんだと思う(笑)。
「コレじゃない」とかまで思う人はまあ少ないだろう。
初めてSLEEP聴く人にも安心して(?)お勧め出来るというか。
コレ聴いて気に入った初心者は是非『JERUSALEM』または『DOPESMOKER』も。


『SAVIOR』『THE SCIENCES』、共に本日リリース。


(2025.5.9.改訂)

DAYMAREの2枚(BAPTISTS + SPLIT CRANIUM)

画像デイメア・レコーディングスが放つラウドな2作。


BAPTISTS『BEACON OF FAITH』(画像)

FOO FIGHTERSのデイヴ・グロールが「久々に現れたパーフェクト・ハードコア・ドラマー」と絶賛するニック・ヤキシン。
このブログではSUMACのドラマーとして紹介してきたけど、そのニックが元々カナダはヴァンクーヴァーでやっていたのがBAPTISTS。
2010年結成。
13年に1stアルバム『BUSHCRAFT』、14年に2ndアルバム『BLOODMINES』をリリースした後は無期限活動休止状態となっていたが、堂々の復活。
俺は今回の3rdアルバムで初めて音を聴いた。
メンバーはアンドリュー・ドゥルーリー(ヴォーカル)、ダニー・マーシャル(ギター)、ショーン・ヘイリラック(ベース:ファミリーネームのHAWRYLUKって正直発音がよくわからない。フレンチ・カナディアンだと“アウリリク”とか読むのかも?)、ニック・ヤキシン(ドラム)の4人。
エンジニアは御馴染みCONVERGEのカート・バルー。
重く激しいビートに乗る絶叫。
“Dビート・モンスター”とか呼ばれつつ、それだけではない多彩な曲調で、時にニックのとんでもないフィルインが叩き込まれるスラッシュ・ハードコア。
ギターは意外にメロディアスで、メタリック・ハードコア風味だけじゃなく6分半に及ぶ「Eulogy Template」ではドゥーミーなテイストも。
(一方で全13曲中8曲が1~2分台)
SUMACだけじゃなくこのバンドも是非続けていただきたい。


SPLIT CRANIUM『I'M THE DEVIL AND I'M OK』

で、ニック・ヤキシンとSUMACをやってるアーロン・ターナー(元ISIS)。
他にもOLD MAN GLOOMとかMAMIFFERとかいろいろやりまくってる内のひとつ、SPLIT CRANIUM。
2ndアルバム。
(1stは聴いてない)
本作でのパーソネルはアーロン・ターナー(ギター、ヴォーカル)、ユッシ・レーティサロ(ギター)、フェイス・コロッチャ(ギター、“サウンズ”)、ネイト・ニュートン(ベース)、トミ・レッパネン(ドラム)の5人。
ユッシとトミはフィンランドの謎バンド、CIRCLEのメンバー。
フェイスはアーロンのパートナーで、アーロンとMAMIFFERをやってる。
今作から参加のネイトはもちろんCONVERGEでOLD MAN GROOM。
つまりここでのSPLIT CRANIUMはOLD MAN GLOOM+CIRCLE+MAMIFFERという…。
とんでもなく謎な編成。
音楽的にはアーロン流のストレートな(?)パンク・ロック(??)と呼べるモノで、BAPTISTSがDビート云々と言われながらけっこう多彩な曲調を披露しているのに対して、こっちは基本どれも同じようなリズム・パターンのパンキッシュなR&Rにアーロンのグロウルが乗る、というスタイル。
ところが、そこにフェイスによるアンビエント風(???)なシンセ・サウンドが大々的にフィーチュアされているのである。
結果的に、ジャンル分け不能な謎のパンク/R&Rとなっている。
「Pain Of Innocence」はほぼノイズだし、ラストのタイトル曲はいきなりピアノと語りがフィーチュアされたり。
一筋縄では行かない。
…というかアーロンのワーカホリックぶりには呆れるばかりだ。


『BEACON OF FAITH』『I'M THE DEVIL AND I'M OK』、どちらも本日リリース。


(2025.5.6.改訂)

THE 5.6.7.8's 30th Anniversary Series 45s

画像THE 5.6.7.8'sの結成30周年(!)を記念する7inch、2枚同時リリース。
どちらも限定300枚・ナンバリング入り。
いやー、30年かあ。
内容の方もそれぞれ興味深いモノになっております。









「I Walk Like Jayne Mansfield / Battle Without Honor Or Humanity」(画像)

第1弾。
A面は、以前にもシングルとしてリリースされていた「I Walk Like Jayne Mansfield」。
1994年の1stアルバム『THE 5.6.7.8's』に収録されているのと同一のテイクだが。
現在では、ジェーン・マンスフィールドのドキュメンタリー映画『MANSFIELD 66/67』のサウンドトラック収録曲、という新たな肩書きを得てもいる。
驚かされたのはB面で、THE 5.6.7.8'sも出演した映画『KILL BILL』のテーマ…というか、『新・仁義なき戦い』のテーマ曲である布袋寅泰「Battle Without Honor Or Humanity」のカヴァー。
しかも新録!
(2014年のアルバム『TANUKIGOTEN』以来か?)
コレがリンク・レイ風にアレンジされた、実にRAWでトラッシーなヴァージョンに仕上がっていて。
痛快。
エンディングに聴こえる「ヤッチマイナ!」という叫びも超ナイス。
ガレージ好きなら、オリジナルよりカッコよく聴こえるだろう。
それにしても、5.6.7.8'sのレコードに[Hotei]というクレジットを見る日が来るとは…。


「The Barracuda / Movin'」

第2弾。
こちらのA面は、これまたシングルやEPでお馴染み「The Barracuda」…と思ったら。
RUDE BONESのHIROSHI(トロンボーン)、MABO(ピアノ)、うつみようこ(コーラス)他参加による、2005年録音の未発表テイク。
既発表テイクよりも賑やか、とても楽しい1曲に仕上がっている。
こんなのが録音から12年も埋もれていたとは。
そしてB面は、「Movin'」(というか“太陽の彼方”)、2016年スペインでのライヴ・ヴァージョン。
ライヴをそのまま切り取ったようなラフなサウンド、オーディエンスの熱狂ぶりも生々しく伝わるテイクとなっている。
もちろん日本語詞で歌われています。


1994年、2005年、16年、17年のTHE 5.6.7.8's(基本的には全然変わってない)が楽しめる好リリース。
全国流通はなくて、TIME BOMB店頭と通販、そしてバンドの物販でしか扱われないようなので、興味持った人は入手急がれたし。
2枚とも25日リリース。


(2025.3.10.改訂)

DAYMAREの2枚(NEPENTHES + ALL PIGS MUST DIE)

画像デイメア・レコーディングスから、日本が世界に誇るへヴィ・ロックとニューイングランドが世界に誇るハードコアの新作が同時リリース。
どちらもキてます。










NEPENTHES『CONFUSION』(画像)

1stアルバム『scent』(2015年)から2年を経て、NEPENTHESが放つ堂々の2ndアルバム。
前作リリース後に5人編成から4人編成へとシフトしているが、ギター1本の4人でのライヴが5人時代にまったく引けを取らない強力なモノだったのは、このブログでも書いた通り。
この春には西海岸ツアーも敢行し、大好評だったという。
で、新作も強力だ。
1stアルバムも1曲目から17分という無駄に攻めた(?)作りだったけど、今回は1曲目とラストに12分半と11分弱の曲を配した全6曲。
一方で突進するシャッフルや疾走するハード・ロック・ナンバーも。
楽曲自体は5人時代から演奏されていたモノがほとんどのようでありつつ、4人になってアレンジを徹底的に見直して、ライヴで磨き上げてきたという。
プロデュースとエンジニアリングは前作同様に岡崎幸人(ETERNAL ELYSIUM)が担当。

BLACK SABBATHばりのダークでドゥーミーでヘヴィなリフと、時にうねり、時に斬り込み、時に思い切りノイジーなソロを叩き込むSUTOのギター。
ギター1本ということで、アレンジはもっとシンプルにしてくるかと思っていたが、スタジオ作ではけっこう重ねて来た。
そこは分けて考えているのだろうし、ライヴではギター1本であることを絶対ハンディにしないはず。

そして、あの極悪なすり潰しヴォイスなのに、前作以上にメロディアスかつ日本語の歌詞がはっきり聴き取れるNEGGYのヴォーカル。
随所で入る「ウッ!」とか「ハイ!」という叫びがまたカッコいい。
ラスト曲「World Deceased」で聴かせる絶叫は鳥肌モノ。

隙あらばドカドカ叩き込むIWAMOTORのドラミングも素晴らしい。
そしてアンサンブルを下支えしながら、時に絶妙なオブリガードを挿入するMossa Hiroのベース。
またライヴ観たい、と思わずにいられない快作。


ALL PIGS MUST DIE『HOSTAGE ANIMAL』

ケヴィン・ベイカー(ヴォーカル:THE HOPE CONSPIRACY)とベン・コラー(ドラム:CONVERGE)を中心とするボストン界隈のスーパー・グループ、約4年ぶりとなる3rdアルバム。
NEPENTHESとは逆に、今作からブライアン・イジー(ギター:TRAP THEM)が新加入し、4人から5人編成となっている。
録音はお馴染みカート・バルー(CONVERGE)。

冒頭のタイトル曲からいきなりすっ飛ばすメタリック・ハードコア。
ギターが2本になったせいもあるのか、メタル色が増したように思う。
一方で、よりダークで残虐な音像。
ベン・コラーはDビートとブラストを使い分けながら突進し。
一方で二人のギタリストは適宜アコースティックを交えて叙情的なプレイも聴かせる。
そしてケヴィン・ベイカーの咆哮。

突進するハードコア・ナンバーあり、スローでドゥーミーな部分もあり。
「Blood Wet Teeth」ではスラッシュ・メタル風のリフも。
BLACK SABBATH風(?)のスロー&ヘヴィなリフにアコギが絡む…と思ったらどんどんラウドになり、一転して突進と絶叫、再びスローに戻る「Cruelty Incarnate」をはじめ、展開も凝っている。
全10曲中、1分以下の曲が1曲、1分台の曲が2曲ある一方で、5分以上の曲も3曲。
ラスト「Heathen Reign」は6分半…各楽器が荒れ狂った後に転調してテンポを落とし、ケヴィン・ベイカーが叫ぶ。
徹底的にアグレッシヴながら暗い叙情も挟まれる、懐深い1枚。


『CONFUSION』『HOSTAGE ANIMAL』、どちらも本日リリース。


(2025.3.3.改訂)

KOGA RECORDSの2枚(piggies + NUDGE' EM ALL)

画像日本のポップ・パンク系の総本山とも言うべきレーベル、KOGA RECORDS。
その黎明期に人気を誇り、その後片や解散、片やリリース・ペースが鈍化…した2バンドが、そろって新作をリリース。
往年のKOGAメロディ愛好家にも若いファンにも、コレは事件と言えましょう。





piggies『LONG VACATION』(画像)

piggies。
1996年1月結成。
99年にミニアルバム『Mrs.Dunn』で音源デビュー。
2000年にアルバム『piggies』をリリース。
しかし翌01年に解散。
その後Miki(ベース)を除くメンバーたちはfabulousplanesとTHE SQUEAKSでそれぞれ05年にアルバムをリリースしたものの、ニュースは途絶え。
…と思ったら、15年にpiggies復活してたんですってよ。
解散から16年、復活から2年を経て、満を持して登場した音源がコレ。
Tetsu(ギター、ヴォーカル)、Kitamun(ギター、ヴォーカル)、Miki(ベース、ヴォーカル)、Acchan(ドラム、ヴォーカル)のオリジナル・メンバー4人が再び集まった。
タイトル通りの“LONG VACATION”…しかしキャッチーでキュートにしてガッツある男女混成ヴォーカルのポップ・パンクは不変。
強いて挙げればfabulousplanesの流れを感じさせるギターポップ成分が少し入ってきたか。
それにしても17年ぶりの新作…メンバー40代ですってよ。
そうは思えん出来です。


NUDGE' EM ALL『GO』

一方のNUDGE' EM ALL、5thアルバム。
1994年の結成から23年、その間にアルバム5枚。
このブログで前作『SEE』を紹介したのがもう6年前。
(このブログも、もう随分長いことやってるってこった)
活動休止期間もあったけど、それにしても寡作。
で、6年の間にメンバーが交代し、現在は坂木誠(ギター、ヴォーカル)、斉藤純也(ベース)、真田太洋(ドラム)、塩野海(キーボード)の4人編成となっている。
このアルバムでは坂木が作曲を、真田が作詞を担当する分業体制となり、更には真田も歌うようになった。
前作での洗練を更に進め、THE BEATLESや渋谷系や70年代シティ・ポップなんかを思わせるポップでキャッチーで都会的で洒落たサウンドを展開。
なんか、凄くメジャーな感じ。
もちろんR&Rなビートも健在。
(ドラマーが歌詞を書くって、どうしてもはっぴいえんどを思い出すじゃないか)
アレンジ面で、キーボーディストの正式加入は大きかったと思う。
一方、前作でも感じたNUDGE' EM ALLのNUDGE' EM ALLたる、明るくなり切らないビターな感覚は変わらず。
いいアルバムです。


どちらも4日リリース。
そしてどちらのバンドも現在配布中のFOLLOW-UPにインタヴュー載ってます。


(2025.2.26.改訂)

DAYMAREの2枚(WOLVES IN THE THRONE ROOM and CHELSEA WOLFE)

画像相変わらず旺盛なリリースを続けるデイメア・レコーディングス。
本日リリースの2枚。













WOLVES IN THE THRONE ROOM『THRICE WOVEN』(画像)

音楽自体はトレモロリフとシャーシャーいうヴォーカルでブラック・メタルそのものなのに、悪魔崇拝を歌わず、自然に対する畏敬や物質文明への警鐘を歌い続けるWOLVES IN THE THRONE ROOM。
前作『CELESTITE』(2014年)から3年ぶりとなる6thアルバム。

『CELESTITE』ではウィーヴァー兄弟によるユニットとなり、オール・インストゥルメンタルのダーク・アンビエントと化していたWOLVES IN THE THRONE ROOM。
ほとんど一時期のTANGERINE DREAMみたいな音になってた。
某誌でレヴューした時、“カスカディアン・ブラックもここまで来たか”みたいなことを書いたんだけど。
一方で、次は新展開があるのでは、とも思った。

予想通り、バンド・サウンドに回帰してきた。
本作のパーソネルはネイサン・ウィーヴァー(ヴォーカル、ギター)、アーロン・ウィーヴァー(ドラム、シンセサイザー)、コディ・キーワース(ヴォーカル、ギター)というベースレスのトリオに、ゲスト陣。
(NEUROSISのスティーヴ・ヴォン・ティルも参加)
プロデュースはSUNN O)))他で知られるランドール・ダン、エンジニアはDEAFHEAVEN他で有名なジャック・シャーリーと、スタッフも完璧。

相変わらず8~11分の大曲を中心に、神秘的かつドラマティックな世界を紡ぎ出す。
前作と違って、メタリックな部分は王道メタリックに疾走する。
一方でゲストの女性ヴォーカルをフィーチュアしてワビサビと叙情性もマックス。
水音や波の音、風の音などの自然音もたっぷり使い、アニミズム的な世界観に揺るぎはない。


CHELSEA WOLFE『HISS SPUN』

そして現代のアメリカを代表する“ゴシック・クイーン”の新作。
こちらもバンド・サウンドによるへヴィ・ロックに回帰した感があり。
本人にとってナチュラルな方向性が今作の音らしい。

QUEENS OF THE STONE AGEのトロイ・ヴァン・リーウェンがセカンド・ギタリストとして参加。
エンジニアはCONVERGEのカート・バルーと、こちらも完璧な布陣。

随所にインダストリアルやエレクトロな感じをフィーチュアしつつ、基本はバンドによるヘヴィ・サウンド。
アコースティックで叙情的なムードもあちこちにまぶしつつ。
そこにシャーマニックかつエモーショナルに歌い上げたり、ダークでセクシーなウィスパーだったりするチェルシー・ウルフのヴォーカルが乗る。
ゆったりと立ち上がり、徐々に盛り上がって壮大かつ荘厳なムードになって行くのはいつもの通り。
そこに「Vex」であのアーロン・ターナーの咆哮が華を(?)添える。

何よりチェルシー・ウルフのヴォーカルがインパクト大なのは相変わらず。
スージー・スー以降のゴシックの系譜を21世紀のアメリカで継承し続けるが如く。
どんよりしつつ、後味が必ずしもどんよりしてないのは、やはりアメリカのミュージシャンならでなのか。


『THRICE WOVEN』、『HISS SPUN』、どちらも20日リリース。


(2025.2.24.改訂)

dim upの新人2組(unizzz...+ペドラザ)

画像先月出たFOLLOW-UPでインタヴューしてるけど。
DISK UNION主催の新人発掘企画“DIVE INTO MUSIC.オーディション”の最終合格アーティストとなった2組の新人バンドが、新レーベルdim upからリリースする/したデビュー・アルバム。







unizzz...『hello』(画像)

こちらは6月21日にリリース済み。
京都で2016年に結成された4人組。
(まだ結成から1年しか経ってない!)
メンバーはkyohei(ギター、シンセ、ヴォーカル)、KOME(ギター、シンセ、ヴォーカル)、kamata(ベース)、MAO(ドラム)。
STEREOLABの影響大とのことだが、一方で日本の80年代ニュー・ウェイヴやJ-POPの影響もアリ。
結果として、シンセサイザーをフィーチュアしたストレンジで実験的なサウンドと、柔らかいヴォーカルを前面に出したポップな楽曲が併存するというかなり独特な音楽性になっている。
音響派+エレクトロニカみたいな楽曲と、KOMEのかわいらしいヴォーカルが乗るJ-POP的な楽曲では、別のバンドみたいな分裂具合。
曲によっては1曲の中でそれらの要素が融合していたりもして。
小田和正(!)とかに影響されたというkyoheiの中性的なハイトーン・ヴォイスも特徴的。
尖ったギター・サウンドや変拍子なんかも聴かせつつ、全体の感触はポップ。


ペドラザ『アイホープ アイシンク アイノウ』

こちらは7月5日リリース。
前身バンドでの活動を経て、2015年にペドラザとしてスタート。
メンバーはアダチサマーソニック(ギター、ヴォーカル)、吉水アンリ(ギター)、シホちゃん(ベース)、ぬちんちん(ドラム)の4人。
アダチサマーソニックって…メジャーデビューとかしたら改名を余儀なくされそうだな(笑)。
(あと、ぬちんちんってなんだよ!)
くるり、ナンバーガール、OASISなんかの影響下に、90年代オルターナティヴ的なギター・バンドとしてのアプローチ。
このアルバムではそれほどギターが前面に出ていないんだけど、個人的にはもっとラウドな音作りにしても良かったと思う。
それにしてもドラムがもの凄く変わったオカズを入れるバンドで、居心地の悪さ転じて耳にひっかかる要素となっている。
そしてアダチサマーソニックによる、ちょっとナンセンスにしてやるせなさを感じさせる歌詞と、放り出したような歌。
ギターは丁寧に重ねられている感があるが、ギター2本だけでやる生演奏はかなりノイジーじゃないかと随所で想像させてくれる。


unizzz...は「D.R.H.F.」、ペドラザは「幽体離脱」と、それぞれアナログ7inchもリリース。
DIM.オーディションは第2回が8月20日締め切りだそうで。
今後新人バンドの新たな登竜門となるか。


(2025.1.31.改訂)

DAYMAREの2枚(FRIENDSHIP + MUTOID MAN)

画像相変わらず精力的なリリースを続けるデイメア・レコーディングス。
6月の新譜2枚。
日本の新鋭とアメリカの気鋭。










FRIENDSHIP『HATRED』

東京近郊で活動中のグラインド/パワー・ヴァイオレンス/ハードコア新鋭バンドによる1stアルバム。
これまでにリリースした2枚のEPは即完売とのこと。
ステージではアンプの壁から爆音をぶっ放すそうだけど、このアルバムもかなり凄い。
のっけから突進する怒涛のブラスト・ビートと絶叫。
時にフリーキーなノイズをまき散らすギター。
転調してのビートダウンやドゥーミーでヘヴィなスロー・ビート&スロー・リフもありつつ、一方でDISCHARGE直系みたいな部分も。
ドラマーはかなりの凄腕。
日本人離れというか、ところにより人間離れという感じさえ。
野獣のようなヴォーカルの咆哮も強烈。
とにかく漆黒のジャケットが象徴するように、ダークなテンションに満ち溢れている。
そして最後は轟然たるフィードバック・ノイズで終わる。
ライヴ凄そうねー。
マスタリングはCONVERGEやSUNN O)))、SLEEPなんかも手掛けたブラッド・ボートライトが担当している。
それにしても、バンド名が“友情”か…。


MUTOID MAN『WAR MOANS』(画像)

CAVE-INのスティーヴン・ブロッズキー(ギター、ヴォーカル)とCONVERGEのベン・コラー(ドラム)が立ち上げた別バンドの3rdアルバム。
1stアルバム『HELIUM HEADS』(2013年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1428.html)ではベースもスティーヴンが担当して、このブログで“最小編成のCAVE-IN”とか書いたけど。
2ndアルバム(聴いてない)からニック・カジャーオ(ベース)が加入してトリオ編成になっていて。
1stアルバムではスピードとアグレッションが前面に出ていたが…というか、この3rdアルバムでもスピードとアグレッションは存分にありまくりではあれど。
随分歌モノっぽさが増したというか、キャッチーになった感がある。
スティーヴンのヴォーカルも随分メロディアスに聴かせるように。
1曲目「Melt Your Mind」なんて、楽曲自体はほとんどスラッシュ・メタルな一方、歌メロはメロコアっぽいとさえ言える感じ。
「Headrush」「Open Flame」あたりでの哀愁メロディも印象的。
一方で「Kiss Of Death」のストーナーっぽいリフとか、後半がドゥーミーでスローな「Irons In The Fire」とか。
カート・バルー(CONVERGE)とかチェルシー・ウルフとかゲストも豪華で。
タイトル曲では何とマーティ・フリードマン(!)がギター・ソロを弾きまくる。
マーティは推薦コメントも寄せてます。
そしてラストはチェルシーを迎えてスティーヴンが切々と歌い上げるヘヴィにしてムーディーなバラード。
随分幅を広げたなあ。
ベン・コラーは相変わらず叩きまくってます。
国内盤はボーナス・トラックとして2曲のライヴを追加。


『HATRED』『WAR MOANS』、どちらも7日リリース。


(2025.1.22.改訂)

DAYMAREの4枚(DARKEST HOUR、PALLBEARER、heaven in her arms、HANGMAN'S CHAIR、GREENMACHiNE)

画像デイメア・レコーディングスより昨日リリースされたアルバム4枚、まとめて紹介。










DARKEST HOUR『GODLESS PROPHETS & THE MIGRANT FLORA』(画像)

ワシントンDC発、結成から21年というメタルコアのヴェテラン、9thアルバム。
メンバーはジョン・ヘンリー(ヴォーカル)、マイケル・シュレイバウム(ギター)、マイケル“ローンスター”キャリガン(ギター)、アーロン・ディール(ベース)、トラヴィス・オービン(ドラム)の5人。
いきなりズドンと重いイントロから、突っ走るスラッシュ/ハードコア。
エンジニアはお馴染みカート・バルーで、生々しくアグレッシヴなサウンド。
突進と転調を繰り返す複雑な曲構成の一方で、New Wave Of British Heavy Metalを思わせるリフ押しあり、二人のマイケルによる美しいギター・ソロあり。
デス声一歩手前の濁声吐き捨て(曲によってはほぼグロウルと言ってイイ)と妙にメランコリックなところも聴かせるギターの対比が見事。
貫禄の1枚。
国内盤ボーナス・トラックがMINOR THREAT「I Don't Want To Hear It」とJUDAS PRIEST「Painkiller」と両極端なのも納得。
まさにメタルコア。


PALLBEARER『HERATLESS』

ブルータルなDARKEST HOURから一転、こちらはアーカンソー州リトルロック出身で2012年にデビューした、哀愁のへヴィ・ロックを聴かせる4人組。
2年半ぶりとなる3rdアルバム。
2015年には来日も果たしている。
メンバーはブレット・キャンベル(ヴォーカル、ギター)、デヴィン・ホルト(ギター、ヴォーカル)、ジョセフ・D・ロウランド(ベース、ピアノ、ローズ、シンセサイザー、ヴォーカル)、マーク・ライアリー(ドラム)。
完全アナログ・レコーディングで、ミックスはMELVINS、SOUNDGARDEN、TOOL、ISISなどとの仕事で知られるジョー・バレーシが手がけている。
オーガニックにしてスケール感のあるプロダクション。
基本的にゆったりしたノリを持ちつつもダイナミックな演奏に、哀感溢れるヴォーカルが乗る。
ジョセフが随所で聴かせるアナログ・シンセがいいアクセントになっている。
国内盤はアナログと配信のみでリリースされていたEP「Fear & Fury」をボーナス・ディスクとした2枚組で、EP3曲のうち2曲はBLACK SABBATH「Over & Over」にTYPE O NEGATIVE「Love You To Death」という、わかるようなわからないような(笑)カヴァー。


heaven in her arms『白暈』

これまたPALLBEARERから一転、フル・アルバムとしては前作『幻月』以来実に7年ぶりとなる3rdアルバム。
以前このブログで紹介したCOHOLとのスプリットEP「刻光」(2013年:https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1360.html)からでも4年経つ。
Kent(ヴォーカル、ギター)、Takayuki(ギター)、Katsuta(ギター)、Kentaro(ベース)、Hiroki(ドラム)の5人。
「刻光」に収録されていた「終焉の眩しさ」が本作にも収録されていて、音楽性の基本は不変。
3本のギターが時に壁のようにそそり立ち、時に螺旋状に絡み合い。
前ノリのドラムがドカドカ突進し。
ブラック・メタル風のスクリームと訥々とした語りの間を行き来するヴォーカル。
2分弱のインストゥルメンタルから11分近いドラマティックな大曲まで自在な曲作りとアレンジ。
特にラストを飾る「幻霧」は、テクノのようなイントロからシューゲイザー風のリフと絶叫が炸裂し、四つ打ちドラムにリリカルなギターが絡むという、新機軸とも言えるアレンジと劇的な構成を持つ1曲。


HANGMAN'S CHAIR + GREENMACHiNE『split』

金沢が世界に誇るGREENMACHiNEがフランスのへヴィ・ロック・バンドとスプリット。
HANGMAN'S CHAIRは全然知らなかったが、既に10年以上活動していてアルバム4枚出してるんだそうで。
日本のへヴィ・ロックから影響を受けたとのことで、今回のスプリットはHANGMAN'S CHAIR側の希望で実現したという。
HANGMAN'S CHAIRは7分半と4分半の2曲。
PALLBEARERにもやや近い、叙情的なへヴィ・ロック。
重く引きずるリフは時にドゥーム・ロックそのものながら、ヴォーカルはソフトでメロディアス。
一方のGREENMACHiNEは既発のシリーズ曲(?)「Red Eye Pt.1~4」に、新たに「Red Eye Pt.5」を加えて新たに録音したメドレー11分。
(曲順は流れを考えてか、1・2・4・3・5となっている)
地を這うようなへヴィネスと独特のメロディを堪能。
それにしても1stから各アルバム毎に入ってた「Red Eye」、つなげると組曲になるのね…。
(元々そのつもりで?)
海外ではアナログ12inch EPとしてのリリースで、国内盤のみ紙ジャケCD。
ってかGREENMACHiNEは新作フル・アルバムが待たれるところ。


5バンドによる4作、いずれも22日より絶賛発売中。


(2025.1.6.全面改訂)

THE ALLIGATOR BLUESのシングル2枚

画像“今月の新譜”というか、“先月の新譜”になっちゃったけど。
(先月入手していたのに…)

…というワケで、THE ALLIGATOR BLUESが先月相次いでリリースした4th&5thシングル(CD-R)。
掲載の画像は4thシングル「tit/Love you tender」の、ジャケット…というかフォトカードみたいなの。
(裏面に歌詞やクレジットがある)
2ndアルバムから3年近く。
2nd&3rdシングルからは既に4年半経っている。

THE ALLIGATOR BLUES。
wanny(ヴォーカル、ギター)とbenny(ドラム、ヴォーカル)。
遂に何処にも“小池孝典”って書いてなくて“wanny”になっちゃった(笑)。

4thシングルが「tit/Love you tender」。
5thシングルが「LOCO/coaster trip day」。
いずれも1曲目がスタジオ録音で、2曲目がライヴ録音。
で、どっちもライヴが凄い。
スタジオ録音もイイんだけど、ライヴ凄過ぎ。

ライヴは2曲とも7月18日、名古屋ell.SIZEでの録音。
ギターとドラムの二人で、基本ブルーズ/ブギーで、この荒々しくもパンキッシュ、ラウドにしてスピーディーなノリときたら。
特に約10分に及ぶ「Love you tender」(ここで紹介しないうちに、5日のDJで回した)の暴走機関車ぶりはとんでもない。
構造的にはジョン・リー・フッカー風のブギー…をこの勢いと疾走感で演られたら、名古屋のオーディエンスも度肝抜かれたことだろう。

スタジオ録音よりライヴ録音の方が断然ベター。
ならばライヴ録音よりライヴそのものの方が絶対最高。
そしてTHE ALLIGATOR BLUESは今日、新宿red clothでライヴ。
行きたかったのにいいいいいいいい。


「tit/Love you tender」は10月2日、「LOCO/coaster trip day」は26日から、それぞれリリース中。
スタジオ録音の2曲もライヴ感があって良いです。


追記:
そして「Love you tender」はその後俺のDJの定番化した。

(2024.12.16.)