映画『バースデイ・パーティ/天国の暴動』

BIRTHDAY PARTY.jpgオーストラリアのポスト・パンク・シーンの至宝・THE BOYS NEXT DOOR~THE BIRTHDAY PARTYのドキュメンタリー映画。

元々はローランド・S・ハワード自身がスタートさせた企画だったというが、当のローランドが2009年に癌で亡くなり。
バンドはそれ以外にもドキュメンタリーのオファーを受けていたが、すべて断っていたとのこと。
結局、あのヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を務め、メルボルンで初期のTHE BOYS NEXT DOOR/THE BIRTHDAY PARTYのライヴを観たことがあるというイアン・ホワイトが監督を担当して、ローランドのプロジェクトを引き継ぐ形で完成させたのがこの映画。

で、非常にストレートでシンプルな作りのドキュメンタリー。
バンド解散後、早くに亡くなったトレイシー・ピューを除くメンバーが登場し(生前のローランド・S・ハワードの発言も十分にフィーチュアされている)、かつての日々を語る。
ただし、現在のおじさんになったメンバーの姿はちょっとしか映されず、ほとんど声ばかり。
アイヴォ・ワッツ=ラッセル(4AD)やリディア・ランチ、サーストン・ムーアのコメントもあるが、やはり声だけ。
いろいろな人が登場してドキュメンタリーの主役について語る、よくある音楽ドキュメンタリーに較べると、ミニマリスティックとも言える作りになっている。

半面、残された映像と音が存分にすべてを語る。
俺は、実は動くTHE BIRTHDAY PARTYを初めて観たのだが。
(そもそもNICK CAVE & THE BAD SEEDSから聴き始めて、BIRTHDAY PARTYは後追いだった)
コレは凄い…強烈なパフォーマンスだなあ。
アルバムの比じゃない。
あとTHE BOYS NEXT DOOR初期の4人時代のライヴ映像とかも、よく残ってたな。
(70年代末の画像でも、モノクロのが多い)

学校の友人だったニック・ケイヴ(ヴォーカル)、ミック・ハーヴェイ(ギター、パーカッション他)、トレイシー・ピュー(ベース)、フィル・カルヴァート(ドラム)の4人で、THE BOYS NEXT DOORを結成。
わりと単純なパンク・ロックだったのが、ローランド・S・ハワード(ギター)が加入して一気に化ける。
渡英してTHE BIRTHDAY PARTYとなるも、当初は音楽活動以前に飢えと戦うような日々。
やがて成功を手にするも、待っていたのは分裂だった。
(金銭的には最後まで苦しいままだったという)

…といったバンドの物語自体は、時系列に淡々と語られて終わる。
(当時のエピソードを再現するアニメも入る)
これまでにこのブログでドキュメンタリー映画を紹介したa-haやDESCENDENTSみたいに再結成するワケでもないし、特にまとめがあるワケでもない。
ただ、若かったメンバーたちの、THE STOOGESもかくやという破滅的な生き様と激しいパフォーマンスが、余すところなくぶちまけられる。
(パフォーマンスがそのまま彼らの精神の現れだったという。まさに生き様としか言いようがない)

それにしても。
THE BIRTHDAY PARTYというと、やっぱりニック・ケイヴ、次にローランド・S・ハワードという人がほとんどだと思うんだけど。
この映画で俺が惹きつけられたのは、ニックやローランドはもちろんではありつつ…トレイシー・ピュー!
ウエスタン・ハットにヒゲの、他のメンバー(みんなヒョロヒョロ)と違ってガタイのいいトレイシーが、フリフリのドレスシャツやメッシュのTシャツに革パン、というハード・ゲイ風の(?)いでたちで、腰を振りながらベースを弾く、その姿。
かなりのインパクトです。

今の日本に、THE BIRTHDAY PARTYのドキュメンタリーを観る層というのがどれぐらいいるのか想像が付かないんだけど。
(同じオーストラリア出身のRADIO BIRDMANのドキュメンタリー映画は興行的にかなり苦しかったらしい)
おススメです。
是非観てください。


『バースデイ・パーティ/天国の暴動』
監督:イアン・ホワイト|製作総指揮:ヴィム・ヴェンダース
出演:ニック・ケイヴ、ローランド・S・ハワード、ミック・ハーヴェイ、トレイシー・ピュー、フィル・カルヴァート
2023年|オーストラリア|98分|原題:Mutiny in Heaven: The Birthday Party

© Beyond TNC Ltd and BMG Rights Management (UK) Ltd, 2023. All Rights Reserved.

キングレコード提供 フリークスムービー配給
4/25(金)よりシネマート新宿ほかにて公開

https://thebirthdayparty.jp/

映画『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』

HEAVY TRIP 2.jpg2019年に意外な(?)大ヒットを記録したヘヴィ・メタル・コメディ映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』。
https://lsdblog.seesaa.net/article/201910article_20.html
コロナ禍を経て、実に5年ぶりの続編が登場。


フィンランドの”終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”バンド・IMPALED REKTUM(直腸陥没)のメンバー4人は、前作でのあれやこれやの結果として刑務所に収監されていた。
そこにメタル業界の大物・フィストが現れ、バンドに「WACKEN OPEN AIR」への出演をオファーする。
一度は断ったメンバーたちだったが、いつも新しいソロを試しては失敗しているロットヴォネン(ギター)の実家のトナカイ解体処理場が金銭トラブルで消滅の危機に瀕していることを知り、脱獄して「WACKEN OPEN AIR」に出演し、5万ユーロのギャラで処理場を救うことを決意する。
まんまと脱獄に成功したIMPALED REKTUMの4人は、デス・メタルの伝説的バンド・BLOODMOTORに同行し、一路ヴァッケンを目指す。
しかし彼らを憎悪し、愛車「アルマンド」を何よりも愛する看守・ドッケン(!)が執拗に追いかけてくるのだった。
その上、BLOODMOTORをも意のままに操る金の亡者・フィストの企みが元で、トゥロ(ヴォーカル)と他の3人との間に亀裂が発生。
バラバラになったIMPALED REKTUMは栄光とカネを手に出来るのか…?


…というのがおおまかなあらすじ。

前作以上の荒唐無稽・御都合主義なストーリーは更にパワーアップ。
何しろ「WACKEN OPEN AIR」の運営サイドが全面協力。
しかもその「WACKEN OPEN AIR」、劇中では妥協を知らない厳格なメタル原理主義者・クシュトラックスことパシ(ベース)に”商業主義”とボロクソに言われているんだから、シャレが効いている…。
平和主義者を標榜しながらキレると手が付けられないオウラ(ドラム)の暴れっぷりもパワーアップ。

一方で前作同様、やはりフィンランド映画らしいじんわりした哀感が随所に。
そして最後はちょっと泣かされたりも。

あと、コレも前作同様、『ブルース・ブラザース』と『スパイナル・タップ』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201806article_10.html)に対するオマージュがかなりあるね。
バンドがライヴで金を得ようとする動機は、『ブルース・ブラザース』とかなり近い。
ズバリ『スパイナル・タップ』に登場するアレ(実際に観て確認してください)が出てきたのにも「おお~」と思った。
他にも『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』や『スティル・クレイジー』なんかのバンドをネタにした映画が好きな人には、今回もおススメです。

それと、BLOODMOTORのシンガー、ロブ役の俳優が、ヒゲがなかった時期のレミーにけっこう似てるのよ…。

BABYMETALのファンは全員観に行くだろうから、前作以上の大ヒットかも知れない、と思ったり。
ところで、IMPALED REKTUMのメンバー間ではフィンランド語、外部の人間との会話では英語、という細かなリアルさが興味深かったりもする。
BABYMETALの3人も流暢な英語を話している。
彼女たちが物語にどのように関わるのかも、観てのお楽しみ。


『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』、2024年12月20 日(金)よりシネマート新宿ほかにて屈辱のロードショー!


(C)2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia, Soul Food

映画『アクション・ミュタンテ 4K』

アクションミュタンテ.jpgスペインの異才アレックス・デ・ラ・イグレシアが、ペドロ・アルモドバルの製作で1993年に撮った長編デビュー作。
90年代に『未来世紀ミュータント』『ハイル・ミュタンテ! 電撃XX作戦』という邦題で上映/公開されたことがあったそうだが、今回4K版で『アクション・ミュタンテ』という邦題で、30年ぶりの日本公開。
俺は初めて観た。

美しさや健康が何より優先される未来社会。
障害や醜悪な容姿のために差別・迫害・虐待を受けてきた7人の”フリークス”はテロ組織”アクション・ミュタンテ”として、美や健康や富裕を憎み、誘拐や殺人を繰り返していた。
出所してきたリーダー、ラモンを中心に、製パン業で財を成した大富豪・オルホの娘パトリシアの結婚パーティーを襲い、客を皆殺しにしてパトリシアを拉致する。
そして身代金の受け渡し場所である惑星アクステュリアに向かうのだったが…。

…というのが前半のあらすじ。
まあ、ストーリーはあってないようなもんです。
『マッド・マックス』シリーズと『フロム・ダスク・ティル・ドーン』と『金持を喰いちぎれ』(https://lsdblog.seesaa.net/article/499441498.html)に、『未来世紀ブラジル』とか『時計仕掛けのオレンジ』とか『不思議惑星キン・ザ・ザ』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_2207.html)とか『フリークス』とかその他いろいろをちょっとずつ混ぜてミキサーにかけてぐちゃぐちゃにしたところに汚水をまぶしたみたいな感じ(笑)。
(アクステュリアのイカレた一家には『悪魔のいけにえ』テイストも)

服役中のラモン不在の間にもテロリスト仕事を遂行しようとするものの失敗続き、そしてラモンが出所してきてからもやっぱり失敗続き…な手下たちのポンコツぶりがまず笑える。
そして全編をヴァイオレンスやゴア描写が覆っているのに、何故かあんまり凄惨に見えず、オフビートな笑いに転じていく。
あと途中まで観ていると、ヒロインの名前が何故パトリシアなのかもすぐわかる。
(後半変貌するパトリシアがまたおかしい)

油や埃にまみれた街や宇宙船、砂に覆われたアクステュリアのうらぶれた感じ、薄汚れたコスチュームなんかのセンスも非常にナイス。
そして世間の規格からはみ出した連中へのシンパシーと、エスタブリッシュメントに対する反骨精神。
上に挙げたような映画(あっ、あと『荒野の千鳥足』とかも)がひとつでも好きな人は、見て損なしの怪作/快作です。


8月23日(金)より新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー。

https://x.com/accionmutantejp


(C)EL DESEO, S.A. - CIBY 2000 - 1992

映画『エンドレス・サマー デジタルリマスター版』

ENDLESS SUMMER.jpg1966年に公開されて以降、伝説的に語り継がれるサーフィン映画の、デジタルリマスター版。

完璧な波を求めて、終わりのない夏を過ごし続けるには、北半球が冬の時期に南半球へ行けばよい…。
繁栄を謳歌していた60年代のアメリカ合衆国とはいえ、ネット全盛で世界がすっかり狭くなった現在とは何もかもが違う。
そんな時代に、当時26歳の映画監督ブルース・ブラウンが、21歳のマイク・ヒンソン、18歳のロバート・オーガストと共に波を求めて世界を巡る、ドキュメンタリーでありロードムーヴィー。

一行はまずアメリカ大陸を横断し、東海岸から空路でセネガルへ。
更にガーナ、ナイジェリア、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、タヒチ、ハワイ…と、旅が続く。
サーフィンをやりに行くというのに、飛行機に乗る時にはマイクとロバートがビシッと黒いスーツに身を固めているのは、世界の盟主を気取っていた(?)当時のアメリカ合衆国といえど、アフリカなどを気軽に訪れるような人はまだまだ少なかったであろう時代を想像させる。

それにしても…現在のドキュメンタリー映画に較べると、何もかもが素朴だ。
多分1台きりのカメラで撮影されたであろう映像が様々な出来事を克明に記録しているとはいえ、現場での生の音声は一切入っておらず。
THE SANDALSによるユル~いサーフ・インストゥルメンタルをバックに、ブルース・ブラウン自身によるナレーションがほとんど切れ目なく入ることで、状況を説明している。
何だか、子供の頃によくTVで観た、アメリカ製の世界紀行番組の類を思い出したり。

一方、サーフボードにカメラを固定したとしか思えないような、当時のテクノロジーでどうやって撮影したのだろうと思ってしまうシーンも随所に。
俯瞰やロングショットでの撮影を見ても、単なるドキュメンタリーではなく、ある程度の演出があったことが窺われる。


全体を通して、アメリカの古き良き時代が感じられる。
そして一方で、今改めて観ると、その古き良き時代の終焉の予感、をも意識させられる1本。
…というのは、俺たちがこの当時及びその後の歴史を知ってしまっているからなのだが。
(公開当時にそんなことを感じた人は皆無だったろう)
この映画が公開された1966年は、アメリカ軍がヴェトナムで「サーチ・アンド・デストロイ作戦」を開始した時期に当たる。
そして68年には、米軍兵士のヴェトナム派遣が約55万人と、ピークを迎える。
つまり映画の中でサーフィンを楽しんでいる若者たちも、2~3年後には多くが地獄の戦場にいたかも知れないワケで。

また、南アフリカの場面で黒人が一人も出て来ないことも、時代を感じずにはいられない。
(コレが80年代に作られた映画だったら、登場人物たちがアパルトヘイトの南アフリカへは行かないと決めるシーンが出てきたかも知れない)


閑話休題。
ともあれ、何となく想像しそうなワイルドさとかスピード感とかはあまりなくて、本当に牧歌的で平和な映画だ。
むしろそれゆえに、60年代のユース・カルチャーの一部を誇張なく切り取った一編として、評価されたのでは。
この映画が米国議会図書館とニューヨーク近代美術館に所蔵されているというのも納得な気がする。

ディック・デイルが大好きな人にはあまり響かなくても、ケネス・アンガーのファンとかにはある意味逆説的に楽しめそうな1本です。
12日(金)より新宿ピカデリー他で公開中。


https://endless-summer.jp


『エンドレス・サマー デジタルリマスター版』
製作・監督・撮影・編集・ナレーション:ブルース・ブラウン
音楽:ザ・サンダルズ
キャスト:マイク・ヒンソン、ロバート・オーガスト 
1964年|アメリカ|カラー|DCP|5.1ch|90分|原題:THE ENDLESS SUMMER|字幕翻訳:小泉真祐|G
鈴正・フラッグ共同配給 宣伝:フリークスムービー
© Bruce Brown Films, LLC

映画『アイアム・ア・コメディアン』

アイアムアコメディアン.jpg”TVから消えた芸人”ウーマンラッシュアワー・村本大輔の3年間を追ったドキュメンタリー。

監督は日向史有。
彼はドキュメンタリージャパンの社員であり、会社は主にTV番組のドキュメンタリー制作を手掛けている。
今回の企画も元々はTV番組向けに構想されたモノだったそうだが、その企画に乗るTV局はなく、結局ドキュメンタリージャパンによる自主制作のような形になったという。

我が家にはTVがないので、ウーマンラッシュアワーのことも村本大輔のこともよく知らなかった。
政治的なネタで炎上してTVで見かけなくなった芸人、という程度のことしか知らずにいた。
この映画では、その”政治的”な漫才や漫談の一端を見ることができる。
(日頃TVを観ている人は、2020年にTVの仕事がほとんどゼロになるまでのウーマンラッシュアワーのネタを観たことも多いのかも知れないが)
マイクスタンドに体を預けるようにして、もの凄い早口で政権批判や原発問題や大麻解禁や沖縄の米軍基地問題などのネタをまくしたてる村本は、ほとんどパンク・ロッカーのように見えたりも。
はー、こういう芸風だったんだ。
(本人はエミネムのファンみたいだけど)

TV業界に居場所がなくなった村本大輔はライヴに活路を見出し、スタンダップコメディの道を追及してアメリカを目指し、実際にアメリカでステージに立ち、拙い英語で笑いをとったりもする。
しかし映画『狂猿』(https://lsdblog.seesaa.net/article/202104article_26.html)の主人公・葛西純の前に立ちふさがったコロナ禍が、村本の前にも立ちはだかり…。

自分たち以外のお笑い芸人のことを、お笑いではなく単なるタレントと切って捨てる村本大輔、「THE MANZI 2013」優勝などの華々しい経歴からしても、政治的ではないネタで十分に人気を得られるはず。
しかし、何故このようなスタイルを…という問いは、どうやら彼には無意味のように思われる。
自分が向き合うべき”お笑い”自体がそもそもこのようなモノ、というのが、原発のある町で生まれ育った村本には、多分問うべくもなく自明のことなのだろう。
自分にとって世の中を変革する手段がお笑いであり、お笑いが政治と不可分であることを自明とする村本には、「漫才師じゃなくて活動家」「世の中を変えたいのなら政治をやれ」という世間の声(それは家族からさえ向けられる)も意味を持つまい。
『アイアム・ア・コメディアン』というタイトルのロゴは、”アイアム”が白、”・ア・コ”が赤、”メディア”が白、”ン”が赤…と色分けされている。
白いところだけを読むと…”アイアムメディア”。

とにかく”アンチ”が多い人らしいね。
そして日本のTVで実現しなかった企画に発するこの映画が、日本のメディアでどれだけ注目されるかも若干怪しい。
そのためか、この映画は全編に英語の字幕が付いている。
最初から世界を相手にする前提になっているワケだ。
面白いことには、早口過ぎて時に聴き取りづらかったりする村本大輔の喋りを理解するのに、英語字幕が役立つことがあるという(笑)。
単純に「へえ、ここは英語だとそういう表現なのか」と興味深く見られるところも多い。

しかしアンチは基本的に、PCやスマホの画面にしかいない人たちだ。
匿名の彼らが実際に”叩いて”いるのは村本大輔自身ではなく、結局PCのキーやスマホの画面に過ぎない。
一方現場での村本は、間違いなく顔の見えるファンとつながり、ファンに支えられている。
そのことにグッとクるシーンも。

非常に興味深い1本です。
ただ、ちょっと心配になるのは、全編通じて酒瓶片手のことが非常に多い村本大輔、撮影期間の3年の間にどんどん太っていることだ…。


『アイアム・ア・コメディアン』、7月6日(土)よりユーロスペース他にて全国順次公開。


(C)2022 DOCUMENTARY JAPAN INC.

映画『男女残酷物語/サソリ決戦』

男女残酷物語.jpgイタリアで1969年に制作された映画だが、日本で公開されたことは一度もなかったという、”55年前の新作映画”。
配給元のコピーは”イタリア製ウルトラ・ポップ・アヴァンギャルド・セックス・スリラー”。

慈善財団の若き理事長・セイヤー(フィリップ・ルロワ:当時39歳。役の上でもそれぐらいの設定だっただろう)は、一方で極度に歪んだ性的嗜好の持ち主だった。
財団の報道課で働き始めて間もないスウェーデン系のメリー・エルストロム(ダグマー・ラッサンダー)を拉致して、ハイテク装備満載な秘密のアジトに監禁したセイヤーは、メリーに様々な責め苦を与える。
果たしてメリーは生きて戻ることが出来るのか…?


…というのが、超ざっくりな前半のあらすじ。
監督・脚本はピエロ・スキバザッパ。
主演のフィリップ・ルロワは、『穴』や『黄金の七人』『愛の嵐』『ニキータ』などで知られるフランス人俳優。
ヒロインを演じたダグマー・ラッサンダーはチェコスロヴァキア生まれのドイツ人で、『ザ・ショック』などで知られるマリオ・バーヴァの監督作『クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉』など、イタリア映画にも出ていた人。
当時26歳、かなりの美人。

で、セイヤーがメリーに与える責め苦や暴虐な扱いの数々が、けっこう意味不明(笑)。
更に、途中から様相が一転し。
観始めて1時間ちょっと過ぎる頃には、先月紹介した『No.10』(https://lsdblog.seesaa.net/article/502932781.html)同様に、「俺は何の話を観ていたんだっけ…?」となった。
しかもそんなもんでは済まない。
ネタバレを避けるためコレ以上は踏み込まないが、最後まで観て「えっ、こういう話だったんだ?」となる人は多いはず。
ぶっちゃけ設定面ではあちこちに綻びが見られるものの、「いや~意味わかんねえ」とか言いながら笑って観終えられる1本かも。

やはりというか、60年代末のイタリア映画ならではという感じの映像美はなかなかの見もの。
部屋のデザインとか凄くおしゃれ。
(美術はフランチェスコ・クッピーニ、衣装は『セブン・イヤーズ・イン・チベット』他で世界的に知られるエンリコ・サバティーニ)
あと、途中で出てくる水陸両用車もおしゃれ。
(ドイツのアンフィカー770だと思う)
おしゃれと言えば、ステルヴィオ・チプリアーニによる音楽もとてもおしゃれ。
(もちろんファズの効いたサイケデリックなやつもある)

ウルトラ・ポップ・アヴァンギャルド・セックス・スリラーというからには、もちろんエロ描写も多いんだけど。
けっこうフェティッシュな感じで、直接的なやつより、わりと暗示的なのが目立つ。
フェラチオとか手コキとか足コキとかを、それとなく匂わせるような。
そのへん好きな人はたまらんかもよ。

カルトな1本かも知れないけど、このブログ御覧の皆様はそういうのお好きでしょう(笑)。
6月7日(金)より新宿武蔵野館・渋谷ホワイトシネクイントにて公開。


フィリップ・ルロワはこの1日に93歳で亡くなったとのこと。
今回の日本公開、追悼上映にもなるね。


(C)1969 - Cemo Film (Italia) - Surf Film All Rights Reserved -

映画『No.10』

No10_SUB6.jpg『ボーグマン』(2013年)で知られるオランダの映画監督アレックス・ファン・ヴァーメルダムによる、長編10作目となる最新作。
コレがまあ…見事に狂った映画だった。

幼少時に森で発見され、孤児として育ったギュンター(トム・デュイスペレール)は、舞台俳優として暮らしていた。
ある時、ギュンターの一人娘リジー(フリーダ・バーンハード)に肺が1個しかないという事実が明らかになる。
一方、共演の女優であり、演出家カール(ハンス・ケスティング)の妻でもあるイサベル(アニエック・フェイファー)と不倫していたギュンターは、そのことを知ったカールから酷な目に遭わされる。
不倫をチクった共演者やカールに対する復讐を企てるギュンターだったが。
それらの一部始終を、謎の男ライヒェンバッハ(ジーン・ベルヴォーツ)が監視していた…。


…というのが前半のあらすじ。
しかし、物語が進むうちに「俺は何の話を観ていたんだっけ…」となり。
エンドロールが始まった瞬間「えええええ~っ?!」となった。
コレ以上は何を書いてもネタバレになりそうなので、言えません。

ってかいったいコレは何だ。
どうかしている…。
この映画についての海外の評の中に「映画自体が地獄のように分裂する」というのがあったけど、まさにそんな感じ。
ともあれ1時間40分かたずをのんで観続け、飽きる暇など一瞬たりともなかったですよ。
しかも印象的な音楽もアレックス・ファン・ヴァーメルダム自身の手になるという。

とりあえず、ジム・ジャームッシュ『デッド・ドント・ダイ』(https://lsdblog.seesaa.net/article/202007article_6.html)とかが好きな人は気に入るのではと。
この映画にも、やはり文明批評を感じる。

あと、舞台がオランダとドイツ(とそれ以外)にまたがっていて。
字幕は全部、単に日本語なんだけど、当然ながらオランダ人の間ではオランダ語、ドイツ人の間ではドイツ語が話されていて、オランダ人とドイツ人は英語で会話している、というのに気が付いた。
そして、陸続きになっているEU圏内では、道路を走っていて世田谷区から目黒区に入るみたいに「ここからドイツ」とかそういう感じなんだなあ。


『No.10』
監督:アレックス・ファン・ヴァーメルダム
2021年|オランダ=ベルギー合作|101分|カラー|ビスタ|原題:Nr.10
© 2021 GRANIET FILM CZAR FILM BNNVARA
提供:キングレコード 配給:フリークスムービー

4月12日(金)より新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほかにて全国順次公開

公式サイト
https://no10movie.com/

公式X
@No10movie
https://twitter.com/No10movie

映画『レザボア・ドッグス デジタルリマスター版』

RESERVOIR DOGS.jpgクエンティン・タランティーノ(当時28歳)の初長編作『レザボア・ドッグス』(1992年)が、93年の日本初公開から31年ぶりにデジタルリマスター版で再公開。

裏社会の大物ジョー(ローレンス・ティアニー)に集められた、6人の職業犯罪者。
お互いの本名も素性も知らず、ジョーに割り当てられたコードネームで呼び合っている。
準備は万端、ダイナーで与太話に興じた後、黒いスーツに身を固めて宝飾店を襲った6人だった。
しかし何故か店には既に警察の手が回っていて。
どうにか集合場所の倉庫にたどり着いた”ミスター・ホワイト”ことラリー(ハーヴェイ・カイテル)と”ミスター・オレンジ”ことフレディ(ティム・ロス)だったが、オレンジは逃走中に腹を撃たれて瀕死の重傷を負っていた。
そこに合流した”ミスター・ピンク”(スティーヴ・ブシェミ)は、一味の中に裏切り者がいると言い出し…。

…というあらすじは、ほとんど説明不要だろう。
このブログを御覧の皆様には、この映画を以前観ている人が多いのでは。

制作費90万ドルという低予算映画は、全世界の度肝を抜いた。
改めて観直すと、その後のクエンティン・タランティーノ作品が持つテイストはここでほとんど出そろっていることがよくわかる。
凄惨な暴力描写、キャラの立った登場人物たちによる軽妙な(?)会話劇、そしてここぞというところで効果的に用いられる音楽の使い方など。
ここで特異なのは、与太話や雑談や小話の多さ・長さだろうか。
「99分しかないのにそのエピソードそんなに長くやる必要ある?」みたいな。
それこそがこの映画をこの映画たらしめる奇妙なエッセンスなのだが。
(しかしまあ言葉遣いの汚いこと)

ツボを突いた配役がナイス。
ツボを突いた…というか、”冷や飯食い”の時期が長かったヴェテラン、ハーヴェイ・カイテル(彼がクエンティン・タランティーノの自主制作による短編を気に入って助力を申し出たのがこの映画の始まり)を別とすると、この時点ではあまり有名ではなかった若手や中堅どころが生き生きと動き回る。
ミスター・オレンジはその後『海の上のピアニスト』に主演するティム・ロス。
お店でチップを払いたがらないミスター・ピンクは、『ハードロック・ハイジャック』(レミー出演)で主役の一人・レックスを演じ、ジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』(https://lsdblog.seesaa.net/article/202007article_6.html)にも出演していたスティーヴ・ブシェミ。
サイコ野郎”ミスター・ブロンド”ことヴィックは、タランティーノの『キル・ビル』にも出演するマイケル・マドセン。
ジョーの息子ナイスガイ・エディは、ショーン・ペンの弟として知られたクリス・ペン(故人)。
そしてタランティーノ本人がしれっと出演していたり。
(たちまち死ぬが)

観たことない人はこの機会に是非。
観たことある人もリマスター版でもう一度。
『レザボア・ドッグス デジタルリマスター版』、2024年1月5日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開。


(C)1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.

映画『ヘル・レイザー〈4K〉』

HELLRAISER.jpg1987年の公開以来36年、今も愛され続けるホラーの名作が、4Kデジタル・リマスターで再公開。

実は…初めて観たのだ。
今まで観たことなかったんですよ。
MOTORHEADがシリーズ3作目『ヘルレイザー3』の主題歌を手掛けていたというのに…。


大枚をはたいて謎のパズル・ボックスを手に入れたフランク(ショーン・チャップマン)。
彼がパズルを組み換えると、その瞬間に怪異が。
セノバイト(魔道士)が現れ、フランクの肉体はバラバラの肉片と化す。
…数年後、生家に戻ってきたフランクの弟・ラリー(アンドリュー・ロビンソン)と後妻・ジュリア(クレア・ヒギンズ)。
その家は、兄弟の母親が亡くなった後は空き家で、しばらくはフランクが転がり込んでいたという。
実はジュリアはかつて、ラリーとの新婚早々にフランクとデキてしまっていた。
懐かしき我が家に前妻との娘・カースティ(アシュレイ・ローレンス)とその彼氏・スティーヴ(ロバート・ハインズ)らを招いたラリー夫妻だったが、前後してジュリアの前に変わり果てた姿のフランク(オリヴァー・スミス)が現れ…。


…というあらすじは、今更説明不要だろう。
(このブログを御覧の皆様は、この映画、昔観たという人の方が多いのでは?)

へえ、あんまり怖くないのねえ。
ホラーというか、むしろファンタジーだ。
こりゃ面白いや。

美少女×ゴア描写で基本ファンタジーという…ダリオ・アルジェントの『サスペリア』や『フェノメナ』なんかにも通じるテイスト。
そこに、幻想的で耽美的でゴスでフェティッシュでセクシーな要素も色濃く。
フィメール・セノバイト(グレイス・カービー)の首元が切り開かれているのは、女性器を暗示していたのでは。
フィメールに限らず、ピンヘッド(ダグ・ブラッドレイ)をはじめとするセノバイト4人の造形は、この映画の成功のカギだったね。

セクシーという点では、ヒロインのカースティを演じたアシュレイ・ローレンス(当時21歳ぐらい。かわいい)ではなく、継母ジュリア役のクレア・ヒギンズ(当時32歳ぐらい)がいろいろと体を張って好演。
(英国では現在大女優として知られる)
あと、『ダーティーハリー』のスコーピオ役で有名なアンドリュー・ロビンソンが流石の怪演。
(やっぱり単なる凡人役じゃなかった…)

観たことある人もない人も、4Kでもう一度観直しましょう。
12月8日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開。


© 1987 New World Pictures. All Rights Reserved.

映画『ドキュメント サニーデイ・サービス』

ドキュメント サニーデイサービス.jpgタイトル通り、サニーデイ・サービスのドキュメンタリー映画。
コレが2時間25分もあって、観る前は「うはあ」と思った。
観たらあっという間だったけどね。

監督はこのブログでも紹介したGEZANのドキュメンタリー映画『Tribe Called Dischord~Documentary of GEZAN』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201904article_14.html)のプロデューサーを務めていたカンパニー松尾。
(AVで有名なあの人)
膨大な映像を編集に編集した結果として、それでも2時間25分になってしまったのだろう…というのは、観ればよくわかる。

オリジナル・ドラマー、丸山晴茂急逝のショックを乗り越え、新たに大工原幹雄(…って、元ボロキチのダイクじゃねえか! ダイクがサニーデイ・サービスに入ってたとか全然知らんかったぞ!…という程度に俺はこのバンドに詳しくない)を迎えて活動再開となったサニーデイ・サービス。
しかし、この時期に制作され公開される映画として、やはりというべきなのか…これまた以前紹介した葛西純のドキュメンタリー映画『狂猿』(https://lsdblog.seesaa.net/article/202104article_26.html)同様、立ち込めるコロナ禍の暗雲。
そこから映画はバンド結成にまでさかのぼり、解散も再結成も経験する波乱万丈のバンド史を追っていく。

曽我部恵一、田中貴、大工原幹雄の3人に加え、新井仁(RON RON CLOU他。サニーデイ・サービスのライヴのサポートとしても活躍)、やついいちろう、小宮山雄飛&ワタナベイビー(ホフディラン)他の関係者もサニーデイ・サービスを語る。
ナレーターは小泉今日子(!)。
尺の長さから想像出来ると思うが、演奏シーンもたっぷりフィーチュア。
ハイライトは3時間に及んだという丸山晴茂追悼ライヴでの激演&絶唱だろう。

基本的には時系列で進んで行くので、いわゆる”おマンチェ”やフリッパーズギターあたりの影響が強かった初期から、現メンバーでの太いバンド・サウンドへの変遷もよくわかる。
そして、バンドが解散しても、コロナ禍でライヴ予定が全部飛んで自らが経営するカレー屋の店頭に立つことになっても、やりたいことを諦めずに前に進もうとする曽我部恵一。
その彼が、ラジオ出演の際にファンへのメッセージとしてボソッと口にする「やりたいことやったらいいと思いますねえ」という一言には説得力がある。
(あとアレか、このクラスのバンドでもやっぱりハイエースに機材を積んで自分たちで運転してツアーに出るのか)

サニーデイ・サービスのファンだけじゃなく、バンドのドキュメンタリー全般好きな人にも、あとバンドやってる人とかにもお勧めな映画。


『ドキュメント サニーデイ・サービス』
公式HP:https://films.spaceshower.jp/sunnyday/
2023 年 7 月7 日(金)より渋谷シネクイントほかにてロードショー!

©2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS