
元々はローランド・S・ハワード自身がスタートさせた企画だったというが、当のローランドが2009年に癌で亡くなり。
バンドはそれ以外にもドキュメンタリーのオファーを受けていたが、すべて断っていたとのこと。
結局、あのヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を務め、メルボルンで初期のTHE BOYS NEXT DOOR/THE BIRTHDAY PARTYのライヴを観たことがあるというイアン・ホワイトが監督を担当して、ローランドのプロジェクトを引き継ぐ形で完成させたのがこの映画。
で、非常にストレートでシンプルな作りのドキュメンタリー。
バンド解散後、早くに亡くなったトレイシー・ピューを除くメンバーが登場し(生前のローランド・S・ハワードの発言も十分にフィーチュアされている)、かつての日々を語る。
ただし、現在のおじさんになったメンバーの姿はちょっとしか映されず、ほとんど声ばかり。
アイヴォ・ワッツ=ラッセル(4AD)やリディア・ランチ、サーストン・ムーアのコメントもあるが、やはり声だけ。
いろいろな人が登場してドキュメンタリーの主役について語る、よくある音楽ドキュメンタリーに較べると、ミニマリスティックとも言える作りになっている。
半面、残された映像と音が存分にすべてを語る。
俺は、実は動くTHE BIRTHDAY PARTYを初めて観たのだが。
(そもそもNICK CAVE & THE BAD SEEDSから聴き始めて、BIRTHDAY PARTYは後追いだった)
コレは凄い…強烈なパフォーマンスだなあ。
アルバムの比じゃない。
あとTHE BOYS NEXT DOOR初期の4人時代のライヴ映像とかも、よく残ってたな。
(70年代末の画像でも、モノクロのが多い)
学校の友人だったニック・ケイヴ(ヴォーカル)、ミック・ハーヴェイ(ギター、パーカッション他)、トレイシー・ピュー(ベース)、フィル・カルヴァート(ドラム)の4人で、THE BOYS NEXT DOORを結成。
わりと単純なパンク・ロックだったのが、ローランド・S・ハワード(ギター)が加入して一気に化ける。
渡英してTHE BIRTHDAY PARTYとなるも、当初は音楽活動以前に飢えと戦うような日々。
やがて成功を手にするも、待っていたのは分裂だった。
(金銭的には最後まで苦しいままだったという)
…といったバンドの物語自体は、時系列に淡々と語られて終わる。
(当時のエピソードを再現するアニメも入る)
これまでにこのブログでドキュメンタリー映画を紹介したa-haやDESCENDENTSみたいに再結成するワケでもないし、特にまとめがあるワケでもない。
ただ、若かったメンバーたちの、THE STOOGESもかくやという破滅的な生き様と激しいパフォーマンスが、余すところなくぶちまけられる。
(パフォーマンスがそのまま彼らの精神の現れだったという。まさに生き様としか言いようがない)
それにしても。
THE BIRTHDAY PARTYというと、やっぱりニック・ケイヴ、次にローランド・S・ハワードという人がほとんどだと思うんだけど。
この映画で俺が惹きつけられたのは、ニックやローランドはもちろんではありつつ…トレイシー・ピュー!
ウエスタン・ハットにヒゲの、他のメンバー(みんなヒョロヒョロ)と違ってガタイのいいトレイシーが、フリフリのドレスシャツやメッシュのTシャツに革パン、というハード・ゲイ風の(?)いでたちで、腰を振りながらベースを弾く、その姿。
かなりのインパクトです。
今の日本に、THE BIRTHDAY PARTYのドキュメンタリーを観る層というのがどれぐらいいるのか想像が付かないんだけど。
(同じオーストラリア出身のRADIO BIRDMANのドキュメンタリー映画は興行的にかなり苦しかったらしい)
おススメです。
是非観てください。
『バースデイ・パーティ/天国の暴動』
監督:イアン・ホワイト|製作総指揮:ヴィム・ヴェンダース
出演:ニック・ケイヴ、ローランド・S・ハワード、ミック・ハーヴェイ、トレイシー・ピュー、フィル・カルヴァート
2023年|オーストラリア|98分|原題:Mutiny in Heaven: The Birthday Party
© Beyond TNC Ltd and BMG Rights Management (UK) Ltd, 2023. All Rights Reserved.
キングレコード提供 フリークスムービー配給
4/25(金)よりシネマート新宿ほかにて公開
https://thebirthdayparty.jp/