映画『スパイナル・タップ』

画像34年前の映画が、なんと今になって国内初公開。
知らなかった。
当時公開されてたもんだと思ってた。
俺が初めて観たのは友人がダビングしてくれたVHS。

…というワケで『スパイナル・タップ』。
60年代から音楽性をシフトしながら活動し続けた英国の老舗ロック・バンドが、1982年に行なった6年ぶりの全米ツアーの模様を追ったドキュメンタリー。
…と見せかけて、実は全くのフェイク。
しかし当時はフェイクであることを前面に出さないまま公開したため、本当のドキュメンタリーだと信じた観客が続出したという…。

60年代前半にスキッフル・グループとしてスタートしたバンドが、メンバー交代と改名を繰り返して1967年にSPINAL TAPとなる。
その頃は時代を反映したサイケ・ポップをやっていたが、70年代以降はハード・ロックに転じ。
しかし活動15年を経てメンバーも30代後半、人気にも陰りが見え。
そんな中、バンドは新作を引っさげて6年ぶりの全米ツアーに乗り出す。
そこで、バンドの大ファンである映画監督マーティ・ディ・ベルギーがバンドに密着し、ドキュメンタリー映画を製作。
しかしツアーはとんだ珍道中であった…というのがあらすじ。

監督はのちに『スタンド・バイ・ミー』や『ミザリー』で知られることとなるロブ・ライナー。
ロブは自らマーティ・ディ・ベルギー役を演じ、映画に出演している。
SPINAL TAPのフロントの3人(ヴォーカル、ギター、ベース)は俳優だが、全員が実際にプレイして歌う。
キーボードとドラムは本当にミュージシャン。
キーボーディストのヴィヴ・サヴェージを演じるのは元RARE BIRDのデイヴィッド・カフィネッティ。
ドラマーのミック・シュリンプトンは元ATOMIC ROOSTER他のリック・パーネルが演じている。
リックは1999年にTHE DEVIANTSのドラマーとして来日した時にインタヴューしたけど、まったく面影なかったな…。

他にもカメオ出演多数。
前身バンド・THE THAMESMEN(THE BEATLES風のビート・グループ)時代のベーシストを演じているのは、なんとダニー・コーチマー。
ベーシストのデレク・スモールズ(ハリー・シェアラー)といちゃつくグルーピーは、元THE RUNAWAYSのベーシストだったヴィッキー・ブルーが演じている。
そしてSPINAL TAPのライヴァル(?)であるデューク・フェイム役で出演しているのは…ROUGH CUTTのポール・ショーティノ!

サイケ・ポップからハード・ロックへ…という音楽性の変遷は、ひょっとしてSTATUS QUOを意識しただろうか。
とにかく珍道中、珍エピソードの連発。
マネージャーのモデルの一人は、間違いなくLED ZEPPELINのマネージャーだったピーター・グラントだろう。

ただ、アンプのヴォリュームが11まであるとか、楽屋からのルートで迷ってしまってステージに出られないとか、歴代のドラマーが次々と変死するとか、伝説的な(?)ギャグがいろいろと登場する『スパイナル・タップ』だが…正直言うと大爆笑の連続という感じではない。
(ちなみに、歴代ドラマーの一人であるジョー“ママ”ベッサーを演じたフレッド・アスパラガスはその後実際に亡くなっている)
“ロック・バンドあるある”をフィーチュアしながら、カウリスマキ兄弟の映画にも通じるようなペーソスとくすくす笑いが交錯するという感じ。
実際、『スパイナル・タップ』はカウリスマキ兄弟の『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』や、あるいは『スティル・クレイジー』といった、ユーモアとペーソスを交えた架空ロック・バンド映画に大きな影響を与えたのではと思う。
(いや、LENINGRAD COWBOYSは架空のバンドじゃなかったが…)

ともあれマッチョでおバカなロック・バンドのステレオタイプを、愛情をこめておちょくり倒したこの映画。
メタル・ファンがメタルに命かけてた(?)80年代当時の公開だったら大変なことになってた気もするが(笑)、今なら誰もが笑って楽しめるはず。


6月16日(土)より、新宿武蔵野館はじめ順次公開。


作品タイトル:スパイナル・タップ
公開表記: 6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー
配給:アンプラグド
コピーライト:©1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.


(2025.5.9.改訂)

映画『Kalafina 10th Anniversary Film ~夢が紡ぐ輝きのハーモニー~』

画像アニメ『空の境界』の主題歌「oblivious」で2008年にデビュー後、オリジナル・アルバムが全部オリコンチャート10位以内というヴォーカルユニットKalafina。
“アニソンの人たち”という枠を軽々と越えて、NHK「みんなのうた」「歴史秘話ヒストリア」などでお茶の間にも浸透。
結成10周年を迎えた彼女たちを捉えたドキュメンタリー映画。

Kalafinaの10年間をたどるドキュメンタリーではあるが、初期の映像や写真などはほとんど登場せず。
昨年のアコースティック編成でのツアーや、日光東照宮や奈良興福寺でのライヴなど、基本的には最近の映像を多く用いている。
(海外公演の様子も)
そしてKeiko、Wakana、Hikaruの3人がそれぞれの故郷である東京、福岡、富山の街を歩きながら少女時代を回想するシーンなどを挿みつつ、大団円である今年1月23日の日本武道館での10周年記念公演に向けて収斂していく作り。
デビュー当初のKalafinaがKeikoとWakanaの二人だったことは説明されるものの、2ndシングル当時に4人目のメンバーだったMayaについては一言も言及されない。
もっとも2&4人編成時代はどちらも“一瞬”のことでもあり、活動期間のほとんどを占めるトリオ編成にフォーカスすることで内容がすっきりしているとも言える。
(とはいえ上映時間は97分もあるのだけど)
作品中、メンバー3人以外でインタヴューを受けている関係者は二人のみ(プロデュースと作詞作曲を手掛ける梶浦由記も登場しない)で、この点でもとにかくメンバー3人の個性や魅力を浮き彫りにする作りになっている。

インタヴュー、打ち合わせ、衣装合わせ、リハーサルなどなど、様々な場面で様々な表情を見せる3人。
特にリハーサルは3人で合わせる場面だけでなく個人練習の模様も紹介され、それぞれの取り組みを興味深く見ることが出来る。
個人的にはWakanaが故郷・福岡を歩くシーンで、俺自身もう何年も訪れていない天神の風景が映し出されたのがちょっと嬉しかったりも。

そして綿密な準備を経て実現した10周年記念公演。
ダイジェスト風ではあるが、次々に繰り出されるヒット曲。
ストップウォッチ片手の衣装替え&ヘアメイクなど、舞台裏も余すところなく映し出される。
海外からはるばるやって来たファンたちの姿も。

それにしても、見事なハーモニー。
まるで違う3人の声質を完璧に活かしている。
柔らかく透明感あふれるWakanaの高音。
ストレートかつシャープに斬り込むHikaru。
そしてボトムを支えるKeikoの力強い声。
「3人が出会うことは奇跡という偶然ではなく、運命だったから」というWakanaの言葉にも納得の、完璧なバランス。


ところが。
皆様既に御存知だろう…Kalafinaの分裂が報道されたのはつい先週のこと。
大成功の日本武道館公演から2ヵ月も経っていない。
スクリーンで見た、確かな絆を感じさせる3人の姿…世の無常を思わずにいられない。

映画のスタッフは落胆しただろうか。
それとも、このタイミングで3人の姿を記録に残せたことに安堵しただろうか。
多分両方だろう。
この映画、Kalafinaのファンはもちろん必見。
そうでない人も、多分もう二度と見ることのかなわないこのトリオの記録を見ておいて損はないと思う。


『Kalafina 10th Anniversary Film ~夢が紡ぐ輝きのハーモニー~』、3月30日(金)より、全国18館で2週間限定公開。


(C)2018 「Kalafina 10th Anniversary Film」製作委員会


追記:
結局、Kalafinaはこの1年後の2019年3月に正式に解散。
3人のメンバーはそれぞれソロで活躍している。

(2022.9.21.)


追記2:
解散から5年ほど経って、Kalafinaが梶浦由記と無関係なところで再結成するとか、これまたほとんどの人には予想も付かなかったろう…。

(2025.4.14.)

映画『ゴーストロード』

画像かつて西海岸のカルトなパンク・バンド、THE ROTTERS(『パンク天国3』やシンコーミュージックのディスクガイド本にも載ってる)のシンガーとして活躍し、現在はラジオ・パーソナリティとして知られるマイク・ロジャースが製作・監督・脚本を務めたR&Rムービー。
コレが『ファントム・オブ・パラダイス』と漫画『俺と悪魔のブルーズ』を無理矢理合体させてオフビートな感覚で料理したような怪作(?)に仕上がっている。

バンド・THE SCREAMIN' TELSTARSを率いるトニー(THE NEATBEATSのMr.Panが演じる)はうだつが上がらないまま悶々としつつ活動を続けていた。
かつてライバルだったはずのシンゾー(THE PRIVATESの延原達治!)率いるTHE MAD READERは今や海外ツアーに出るほどの人気バンドになっているというのに、SCREAMIN' TELSTARSは演奏技術も上がらないまま小さなライヴハウスで演奏する日々。
ある日、リハーサル中にトニーのアンプ(VOXの年代物)が煙を吹き、トニーは翌日のライヴに間に合わせるために怪しげな中古楽器屋へと。
そこで見かけたいわくありげな(これまた年代物の)アンプを、店主の忠告も聞かずに入手したトニー。
しかし彼のギター・プレイはその日から別人のように素晴らしいモノとなる。
そう、そのアンプこそがトニーにとって、かのロバート・ジョンソンが立った“クロスロード”に等しいモノだった…。

…というのが前半のあらすじ。
(あとは実際に観て下さい)
人ならぬモノと手を組んだが故に手に入る才能や栄光、そしてその後に待ち受ける代償。
まさに『ファントム・オブ・パラダイス』や『俺と悪魔のブルーズ』の世界じゃないですか。
しかしこの映画、全編がなんとも言えないユルさに貫かれている。
アンプから出現する“亡霊”もそんなに怖いワケじゃないし(しかし、得体の知れない狂気じみた不気味さ)、悲劇的なはずの終幕にも悲壮感はなく。
(しかもオチまで用意されている)
なんとも言えないテンポとリズム感で、物語は淡々と転がって行く。
そこらへん、『パンク天国3』であのTHE GIZMOSとも比較されていたTHE ROTTERS…を率いたマイク・ロジャースの独特なセンスによるモノかも知れない。
人によっていろいろなツッコミどころがあると思うけど、そういうのを含めてトータルに楽しむべき作品だと思う。
あと、トニーと亡霊“ピーナッツ・バター”がそれぞれ日本語と英語でフツーに会話しているのには、スティーヴン・スピルバーグ最大の駄作と言われる『1941』(俺は大好き)を思い出したり。

キャストは豪華。
THE SCREAMIN' TELSTARSはTHE NEATBEATSが、THE MAD READERはTHE PRIVATESが、それぞれ演じている。
他にもザ50回転ズのダニーや、SCOOBIE DO、更には伝説のDJロドニー・ビンゲンハイマーまで。
まあ豪華とは言ってもメイン・キャストは俳優じゃなくてミュージシャン、演技力には期待しちゃいけない。
(一番イイ演技をしているのはダニーか。ひょっとしたら“演技”じゃないのかも知れないが)
しかしかつて映画に出演したリチャード・ヘルやジョニー・サンダースの迷演技(?)を知っている人なら、別に気にしないだろう。
(むしろNEATBEATSの面々はよくやってると思う)
もちろん演奏シーンはたんまり出てくるし、当然ながらお色気も(コレは不可欠だよね)。
あと、ナレーターというか狂言回し的な役どころで登場するミスター・タロヲを演じるラジオDJ・古川タロヲの存在感が抜群。

この映画に推薦コメントを寄せた顔触れは、むしろ出演者以上に豪華。
リッチー・ラモーンにTHE WiLDHEARTSのジンジャー、大貫憲章、SAのTAISEIなどなど。
ここまでに出てきたバンドやミュージシャンの名前にひとつでもひっかかった人は、そりゃ観るしかないでしょう。


『ゴーストロード』、9月30日(土)より渋谷HUMAXシネマを皮切りに全国順次公開。


(C)2017 Mike Rogers / Robot55 LLC.


(2025.2.6.改訂)

映画『MOTHER FUCKER』

画像このブログを御覧の皆様で、Less Than TVのリリース作品を1枚も聴いたことがないという人は、少ないのじゃなかろうか。
(多分)
コレはそのLess Than TVを主宰する谷ぐち順とその周辺を1年に渡って追いかけたドキュメンタリー映画。

当時GOD'S GUTSをやっていた谷ぐち順を中心に、Less Than TVが発足したのが1992年。
SSTやシミー・ディスクを手本にしていたという。
BLACK FLAGを軸としつつ、SONIC YOUTHなんかもリリースしていたSST。
鬼才マーク・クレイマーを中心に何でもアリだったシミー・ディスク。
Less Than TVもなんだかよくわからないまま25年。

俺が最初に聴いたLess Than TVのリリースは、GUITAR WOLFの2ndアルバム『RUN WOLF RUN』だったと思う。
でもこの映画にはGUITAR WOLF出てきません。
その代わりと言ったらアレだけど、プンクボイやらニーハオ!やらジョンのサンやら脳性麻痺号やらトンカツやらMASTERPEACEやらWARHEADやら、次から次へと出てくる楽しかったりキテレツだったりする雑多に過ぎるバンド群。
音楽ドキュメンタリー映画でも、ここまでいろんなバンドがたくさん出てくるのって稀じゃないだろうか。
(俺自身が実際に観たり聴いたりしたことないバンドの方が圧倒的に多い)

そして、谷ぐち順が現在やっている“FUCKER”名義での弾き語り、谷ぐちの妻YUKARIを擁するLimited Express(has gone?)、更には谷ぐち夫妻の息子・谷口共鳴(ともなり:小学生)が結成したハードコア(?)バンド、チーターズマニアまで。
映画は谷ぐち一家の日常やら谷ぐちの仕事である介護やらチーターズマニアのリハーサルからライヴに至るあれこれやらを並列しながら転がって行く。

障害者も健常者もフツーに共生出来る社会が当たり前、という谷ぐち順の考えは、どんなジャンルだろうと楽しければ、アピールするモノがあれば何でもアリだ、というLess Than TVの基本姿勢と通底していると思う。
よって、谷ぐちが目指すすべての人がフツーに共生出来る社会は、どんなジャンルのバンドでも面白ければ分け隔てなく受け入れるLess Than TVと根底では一緒だ。
それが社会全体の話かロック・シーンの話かという違いだけだ。

“なんでもアリ”は、どうかすればカオスだ、闇鍋だ。
しかしこの映画で次々と登場するなんでもアリは、楽しさに満ち満ちている。
この映画のキャッチコピーも“楽しい、ことだけ!! ぶちかませ!!”となっている。
(チーターズマニアの歌詞に由来)

もちろん実際には、楽しいことだけではないだろう。
実務の問題で諸々がとんでもないことになりかけたり実際とんでもないことになったりという話も、映画の中には次々と登場する。
谷ぐち順とYUKARIも喧嘩したりするし(だがその脱力具合!)、谷口共鳴も泣いちゃったりする。
しかし、それもすべて含めてのなんでもアリなのだ。
何しろ、自力でステージに立っていることすら出来ない脳性麻痺の人(谷ぐちが介護する相手)をヴォーカルに立てて、脳性麻痺号なんてバンドを組んじゃったりするんだから。
(バンドやればモテると思ったらしいが、そうでもなかったみたい)

監督はコレがデビュー作となる大石規湖。
カメラは、近い。
谷ぐち一家に限りなく近い。
多くのドキュメンタリーにフツーに見られる客観性やフラットさが感じられない…その分、観客はカメラを通した谷ぐち一家というよりも、自分の目でその場で見ている谷ぐち一家、みたいな錯覚を覚えるかも知れない。
そして、監督と一緒に笑ったりジワったりするかも知れない。

で、衝撃のラスト(笑)。
谷ぐち順さん、昨年秋にお会いしたきりだけど、あの時はまだこの映画の撮影中だったのかな。


『MOTHER FUCKER』、8月26日(土)より渋谷HUMAXシネマを皮切りに全国順次公開。


(C)2017 MFP All Rights Reserved.


追記:
谷ぐち順氏、その後もけっこうあちこちで会っている。

(2025.2.5.)

映画『ギミー・デンジャー』

画像ジム・ジャームッシュによるTHE STOOGES/IGGY AND THE STOOGESのドキュメンタリー映画。
コレはもう、期待するなというのが無理なアレでしょう。

近年大量に生み出されている音楽ドキュメンタリー映画と大きく違うのは、THE STOOGES/IGGY AND THE STOOGESのメンバーと、ごく少数の関係者へのインタヴューのみで作られていること。
この手の映画でお馴染みの(?)デイヴ・グロールもヘンリー・ロリンズも出てこない。
出演はイギー・ポップ(ヴォーカル)、ロン・アシュトン(ギター、ベース)、スコット・アシュトン(ドラム)、ジェイムズ・ウィリアムソン(ギター)、スティーヴ・マッケイ(サックス)、マイク・ワット(ベース)の新旧メンバーに加えて、アシュトン兄弟の妹キャシー、当時のエレクトラ・レコーズのA&Rで一時期バンドのマネージャーでもあったダニー・フィールズのみ。

メンバーたちがTHE STOOGES結成以前にやっていたTHE IGUANAS、THE PRIME MOVERS、CHOSEN FEWといったバンドについても語られる。
ブルーズのドラマーだったイギー・ポップ(ジェイムズ・オスターバーグ)が「黒人の音楽ではなく自分たち自身の音楽を演らなければ」と決意するくだりなんかは、これまでにイギーの伝記本なんかでも紹介されてきたが。
ともあれ故デイヴ・アレキサンダー(ベース)を含むTHE PSYCHEDELIC STOOGES~STOOGES誕生の経緯については丁寧に語られている。

一方で、アルバム『RAW POWER』のリリース後、バンドにライヴ活動を禁じていたメインマン事務所を離れて、ツアーを重ねながら破滅に向かって突き進んで行く1973~74年のIGGY AND THE STOOGESの話は、随分あっさり。
『RAW POWER』からすぐに『KILL CITY』に行っちゃうような印象。
『RAW POWER』制作に関するあれこれも、もっと掘り下げる余地はあったと思うし。
(ロン・アシュトンがベースにコンバートさせられたことなんかによる、諸々あったはずの軋轢も語られていない)
そのあたりは、個人的にちょっと不満。

それにしても、少ない映像や音源などの素材をそれでも掘り起こしに掘り起こしてある。
画像が粗かったり、音質が悪かったり、映像と音楽がシンクロしてなかったりという部分も多いものの、貴重な写真や映像が山盛りなのは間違いない。
アルバムの音源を使って、関係ないはずの映像を上手く組み合わせてあったりもして、かなり工夫して編集されているのはよく伝わる。
DESTROY ALL MONSTERSやSONICS RENDEZVOUS BANDなんかもちょっと登場。
あと、IGGY AND THE STOOGES時代のジェイムズ・ウィリアムソンは、どう見ても魔王だなー。

そしてそれらの映像や音や証言から浮き彫りになる、THE STOOGESの元祖パンクぶり。
一方でその無軌道さゆえ、活動が長続きするはずもなかったのだが。

もちろん2003年以降の再活動についても。
J・マスキスの貢献度が思った以上に高かったというのがわかったり。
(J本人は出演していない)
そして、8年という制作期間の間に、ロン・アシュトンもスコット・アシュトンもスティーヴ・マッケイも世を去り。
この映画の意義は、ジム・ジャームッシュの意図以上に大きくなってしまったと思う。

ともあれイギー・ポップ/THE STOOGESのファンはもちろん、パンクやロックが好きな人は必見の1作なのは間違いない。

『ギミー・デンジャー』、9月2日(土)より新宿シネマカリテにて公開。


(C)2016 Low Films Inc


追記:
そして2025年、イギー・ポップが来日する。
多分最後になるだろう。

(2025.1.24.)

映画『地獄愛』

画像ベルギーのアルデンヌ地方で“狂気の愛”を描くファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督の“ベルギーの闇3部作”。
2004年の『変態村』(観てないけど)に続く第2弾。
(第3弾はこれから撮るそうです)
コレがまあエグい映画なんですわ…。

モチーフになっているのは1970年の『ハネムーン・キラーズ』をはじめとして何度か映画のネタになっている、40年代に実在した連続殺人カップル、マーサ・ベックとレイモンド・フェルナンデス。
ファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督は舞台を現代のベルギーに置き換えて、陰惨な愛の極北を描き出した。

病院の霊安室で働くシングルマザーのグロリア。
映画の冒頭が霊安室で死体をゴシゴシ洗うグロリアの姿…ある意味ツカミはOKというか。
そんなグロリアは、友人マドレーヌの半ば強引な勧めで、出会い系サイトを通じてミシェルという男と会うことになる。
あまり気乗りのしなかったグロリアだったものの、レストランで会ったミシェルは長身のハンサムで、紳士的な態度ながら最初から大胆にグロリアを口説きまくる。
実はミシェルは結婚詐欺師なのだったが、一発でミシェルに恋してしまったグロリアは、早速ミシェルを“お持ち帰り”してしまう。
娘に聴こえないよう気を付けながらも、ケダモノのようにまぐわう二人。

冒頭では表情のないくたびれたおばさんだったグロリアが、ミシェルに出会った翌朝にはキラキラ輝く笑顔になっているあたり、グロリアを演じたロラ・ドゥエニャスの演技の勝利。
しかし、言葉巧みにグロリアから金を引き出したミシェルは、目的達成とばかり音信不通になってしまう。
ミシェルの写真を片手にクラブを転々として彼を探し続けるグロリアの姿。
(このへんからもうジワジワ怖い感じになってくる)
ミシェルを探し当てるのと同時に、彼が結婚詐欺師/ヒモであることを知るグロリアだったが。
しかしミシェルにイカレてしまったグロリアに、後退の二文字はないのだった。
最愛の娘をマドレーヌに預け、ミシェルと共に行くことを選んだグロリア。
ミシェルの妹を名乗り、結婚詐欺の片棒を担ぐことに。

ところがグロリア、結婚詐欺師のパートナーとしては、嫉妬心があまりにも強過ぎ。
目的遂行のためにはミシェルがカモをたらしこむ必要があるのに、それが我慢出来ない。
結局ミシェルが詐欺の相手としていたマルグリットを殺してしまう。
以後はその繰り返し。

ミシェルが詐欺の相手とあんなことやこんなことをしているのを目撃しては、その度にブチ切れるグロリア…というのがあまりにもお約束過ぎて、途中からは笑ってしまった。
(狙ってるんだろうか…)
そのくせ、グロリアがブチ切れた後に繰り返される陰惨なシーンにおぞ気。
そして、明らかにヤバい女であるグロリアを切り捨てることが出来ず、一緒に“地獄愛”の泥沼にハマっていくミシェルも、かなりイカレてる。

いわゆる“共依存”の、一番ダメダメなモデルケースが描かれている映画とも言えるかも知れない。
しかし、次々に登場する胸糞悪い描写に共感さえ覚える人も、一定数いるのではと思う。
そして、中年~高齢期に差し掛かった男女の半ば変態じみた性描写にフル勃起する人も、決して少なくないはずだ。
一方で、断ち切るようなエンディングは、ファンタジックですらある。

どう考えても万人向けではない。
しかし、間違いなく強烈な一撃。
7月1日(土)より、新宿武蔵野館で『ハネムーン・キラーズ』と共に公開。


(C)Panique/Radar Films/Savage Film/Versus Production/One Eyed-2014


(2025.1.21.改訂)

映画『MY FIRST STORY DOCUMENTARY FILM ―全心―』

画像2011年に結成され、結成から5年でメジャー契約もないまま日本武道館公演を果たしたバンドのドキュメンタリー映画。
監督はCARCASSのMVや、ARCH ENEMYやCHURCH OF MISERY(!)のライヴDVDなどを手掛けてきた木村和亮。

MY FIRST STORY。
正直言って、名前しか知らなかった。
更に正直に白状すると、この映画でその音楽に触れたものの、個人的には全然ピンとこない。
「ふーん、今はこういうのが人気あるんだ、ふーん」みたいな。

しかし、この映画には、思わずグッときてしまったのだった。


Nob(ベース)ら3人で結成したバンドに、ヴォーカルとギターが加わり、ギター2本の5人組として2012年4月にデビュー。
以後順調に人気を高めて来たようでいて、好事魔多し。
映画が始まった時点ではオリジナル・メンバーを欠いて活動が曲がり角…というのは、昨年紹介したRADWIMPSのドキュメンタリー映画(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_2110.html)にも似て。
結成当初からバンドを牽引してきたギタリスト、そしてドラマーも脱退。

バンドは新ドラマーを迎える一方で、ギタリストを補充せずギター1本の4人組として再スタートを切る。
そして、47都道府県すべてを廻るツアー、更にはツアー・ファイナルとして日本武道館公演を決定する。
カメラは過酷なツアーを続けながら武道館を目指すバンドの姿を映し出して行く。

メンバー4人のキャラクターが良い。
バンド最年少にして才気と小生意気さ溢れるフロントマン、Hiro(ヴォーカル)。
(単にキレイなハイトーンじゃなくて、なかなかひっかかりのある声質)
繊細でアーティスティックな感じ、ぼんやりしたハンサムのTeru(ギター)。
バンドのボトムを支える最年長、落ち着いた兄貴分のNob(ベース)。
(楽屋で他の3人があーだこーだ言っている時も、Nobはその輪に加わっていない時が多い)
そして、関西弁のムードメイカー、Kid'z(ドラム)。
漫画に出てきそうなくらいのバンドらしいキャラ分け。

Kid'zにとっては、新加入後初のツアーが全国47公演(!)。
しかも加入8ヵ月で日本武道館。
しかし彼がすぐにバンドに馴染んでいたことは、画面から十分に伝わってくる。
Teruにとっては、ギター2本から1本へというのは(特にライヴでは)相当厳しいモノがあったはずだが。
飄々とした風情で乗り切っていく。

とはいえ、蓄積する疲労。
Hiroの喉の不調。
不安要素を抱えたまま、ツアーは転がり続ける。

そして、ツアーの模様を切り取るだけでなく、カメラは各メンバーの内面に踏み込んでいく。
特にピックアップされるのはやはりというか、シンガーであるHiroだ。
音楽一家の三男として生まれ、“親の七光”“兄の二番煎じ”という外野の声に耐えながら自身の歌を磨き続けてきた。
彼の真情吐露はいつしかバンドそのものからも離れ、バラバラになってしまった家族、それが故に形成された、若くして無常観とも言えるような人生観を吐き出して行く。
そして、バンドの名付け親でありながら既にこの世にいない人物についての思慕も。

そうして迎えた日本武道館公演。
それまでのライヴハウス公演とはまるっきり次元の違うステージ・セットがまず素晴らしい。
METALLICAもかくやの円形ステージでメンバーが縦横に舞う。
しかもパイロばんばん!

そんなステージで、Hiroは自身の生い立ちに起因する諸々の想いをさらけ出す。
日本武道館を埋め尽くした12000人のオーディエンスを前に、Hiroの叫びはただ自分の家族4人に向けられる。
最早ライヴのMCとも言い難い、エモーション垂れ流し。
俺はそれを「けっ、自家中毒が」と斬って捨てることは出来なかった。
むしろ、思わずウルッとしてしまった。
今の今までMY FIRST STORYを聴いたことがなかった俺がそんな調子だから、ファンの女の子たちは涙腺決壊間違いなし。
コレは、木村和亮監督の構成の上手さにもよると思う。

東宝さんから怒られそうな勢いで突っ込み気味に書いているが(笑)、コレでもネタバレを避けるためかなりぼかして書いている(つもり)。
当然ながら、MY FIRST STORYのファンはもちろんのこと、このブログを読んで少しでも興味を持った方は観て損なしの映画だと思います。


俺がこの映画の試写会に出かけたのは先週の話だが。
今日は映画の完成披露上映会の、舞台挨拶も見てきましたよ。
メンバーの発言にビシビシ突っ込むHiro。
かなり天然なことが判明したTeru。
やっぱり手堅いNob。
やっぱりお笑い担当の(?)Kid'z。
「今回のツアーを知っている人にとっては、答え合わせになるような映画」というHiroの発言が、すべてを象徴していたと思う。
500席近い場内を埋め尽くした若い女の子中心のお客さんたちが、メンバー登場にキャーキャー声を上げるでもなく、メンバーの一挙手一投足を静かに熱く見つめていたのも印象的。


『MY FIRST STORY DOCUMENT FILM ―全心―』、2月17日(金)~3月2日(木)まで、全国で2週間限定ロードショー。


配給:東宝営業事業部
(c)2017「MFS DOCUMENTARY FILM」製作委員会


追記:
MY FIRST STORYは2022年に再び日本武道館公演。
23年にはONE OK ROCKと東京ドームでのライヴ開催。
24年には『鬼滅の刃』の主題歌を担当。
…と、その後もバリバリ活躍している。
30代になったHiroは父親の若い頃に似てきた気も。

(2024.12.27.)

映画『A FAT WRECK:ア・ファット・レック』

画像いわゆる“メロコア”を代表するレーベル、ファット・レック・コーズの25年間を追ったドキュメンタリー映画。

以前にも書いたが、メロコアでは個人的にはBAD RELIGIONが好きで、NOFXはあんまり。
なので、我が家のCD棚にはファット・レックの作品は数えるほどしかない。
しかし、キャラ立ちまくりのファット・マイクと愉快な仲間たちの物語は文句なしに面白かった。

ファット・マイクがNOFXで活動しながら、(当時の)妻・エリンと自身のレーベルを立ち上げ。
NOFX以外にもマイクが気に入ったバンドをリリースして行くうちに、レーベルはどんどん成長し。
一時は年に100万枚以上のセールスを記録するほど大きくなり。
しかし00年代以降は縮小を余儀なくされ。
マイクとエリンも離婚し。
…といったあれこれが、マイクやエリン、所属バンドのメンバーのインタヴューを挟みながらほぼ時系列で語られる。
登場するバンドはLAGWAGON、NO USE FOR A NAME、PROPAGANDHI、STRUNG OUT、FACE TO FACE、GOOD RIDDANCE、LESS THAN JAKE、SWINGIN UTTERS、Hi-STANDARDetc.…とオールスターの趣。

何より、所属バンドのメンバーたちが異口同音にレーベルの居心地の良さを語り、家族的な結束を強調する。
ちゃらんぽらんそうに見える(?)ファット・マイクが、バンド連中に誠実に向き合いつつ本音で付き合ってきたことが窺われるエピソードの数々。
アルコールとドラッグを堂々と推奨するあたりはちょっとどうかと思うが(笑)。
(あと、初期のHi-STANDARDがチューニングをせずにステージに上がっていたことも明かされる…)
マイクとの離婚後も副社長としてレーベル運営を続け、実務面の多くを担い続けているエリンの貢献も大きくクローズアップされている。

もちろん良いことばかりは続かない。
関わってきたメンバーの幾人かはこの世を去り。
近年のCD売上減少に伴ってレーベル運営も厳しくなり。
そういった側面もきちんと描かれる。
PROPAGANDHIとの確執(?)についても、ファット・マイクとバンドの両者が包み隠さず語っている。

個人的にはファット・レックのバンドってどれも同じに聴こえちゃうんだけど(苦笑)、実際PROPAGANDHIのメンバーも同じような発言をしている。
「ファット・レックにいては個性は伸びない」とも。
一方で、ファット・レックの多くのバンドがスラッシュ・メタルの影響を受けているというのは、意外でもあり興味深くもあった。

ファット・マイクやエリンをはじめとする一部の出演者が、場面によってはマペット(画像参照)で表現されていたりするのは、なかなかユニーク。
過去の再現シーンや、マイクとPROPAGANDHIのメンバーがそれぞれ言いにくいような発言をするシーンでは、効果的に使われていると思う。
あと、登場するバンドを紹介するような場面で、そのバンドの楽曲がゲーム・ミュージック風にアレンジされているのも面白い。
そして、レーベルの25周年についてのとんでもないオチ(笑)。

いわゆるメロコアが好きな人ならマストな映画だと思うし、近年かなりの数が作られているロック・ドキュメンタリー映画の中でもレーベルに光を当てたユニークな作品として、特にNOFXやファット・レックのファンではない人も、面白く観られるのではないかと。

『A FAT WRECK:ア・ファット・レック』、2月4日(土)より渋谷HUMAXシネマにて公開。


(c)2016[open-ended]films. All Rights Reserved.


(2024.12.25.改訂)

映画『GARAGE ROCKIN' CRAZE』

画像80年代後半にスタートし、日本のガレージ・シーンの隆盛を牽引してきたイヴェント「Back From The Grave」。
そのイヴェントを主催してきたDaddy-O-Nov、そしてイヴェントを彩って来たバンドたちの姿を生々しく切り取った映画が出来た。
監督はクロアチア出身、1999年にカナダから日本にやってきてシーンに魅了されたマリオ・クジク。
(現在はカナダ在住とのこと)

Mr.Death(「Back From The Grave」DJ)によるイントロダクションに続いて、映画本編…まず登場したオノチン(JET BOYS)がいきなりボケをかますが(笑)。
ともあれ映画は基本的に時系列で構成されている。
ハードコアのイヴェント「Emotional Market」を主催していたDaddy-O-Novが、GREAT3とTEXACO LEATHERMANの演奏の場を確保するために「Back From The Grave」をスタートし、というところから。
TEXACO LEATHERMANの命名秘話とか。
当時のガレージ・パンクの源流のひとつだったネオGSの話だとか。
(元20 HITSのジミー益子はもちろん、元ファントムギフトのピンキー青木も登場)

そしてTHE 5.6.7.8's(http://s.webry.info/sp/lsd-blog.at.webry.info/201607/article_589.html)とか。
JACKIE & THE CEDRICS(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1605.html?pc=on)とか。
MAD3とか。
GUITAR WOLF(http://s.webry.info/sp/lsd-blog.at.webry.info/201607/article_1869.html)とか。
AMERICAN SOUL SPIDERS(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1578.html)とか。
SUPERSNAZZとか。
GREAT MONGOOSEとか。
…が続々登場し、シーンは盛り上がって行き。

その後もいろいろなバンドが登場して、50代のヴェテランから20代の若い子たちまで、日本のガレージは連綿と、かつ実に健全にしてハッピーなあり方で続いている、と。
それらがDaddy-O-Novをはじめ、各バンドのメンバーや関係者の貴重な証言で綴られる。
(先日亡くなったノートン・レコーズのビリー・ミラーも登場)
演奏シーンもふんだんにフィーチュアされ。
昔のレアな映像から最近の若いバンドまで、実に見どころ満載の1本に仕上がってます。
(TEXACO LEATHERMANの破壊力満点のステージは特に見モノ)

大半のバンドは俺が実際に観たことのある人たちだけど。
俺が観るようになるずっと以前のライヴ映像もアリ。
一方で馴染みのない若いバンドの映像もアリ。
非常に興味深く観ることが出来た。
純然たるガレージ・パンクだけじゃなく、Daddy-O-Novの眼鏡にかなった様々なバンドが登場して、様々に盛り上がる。

編集は実に巧み。
インタヴューのシーンでは、インタヴュー中に登場するバンド名やジャンル名などの固有名詞にシンクロするようにして画面が次々と切り替わるんだけど。
その細かいカット割りが、全然うるさく感じない。
構成がほぼ時系列なので、日本のガレージ界に明るくない人でも流れをつかみやすいと思う。
人によっては「あのバンドが出てない」とかいうのも幾つかあるかも知れないが、ともあれ30年ほどの流れをかなり上手いことまとめてあるんじゃないだろうか。

映画の中でも語られているけど、アートスクール関係者が多いシーンであるせいか、バンドの見た目だけでもカラフルで楽しい。
このへん大好きな人はもちろんのこと、あんまり馴染みのない人にも是非見てほしい1本。


『GARAGE ROCKIN' CRAZE』、2017年1月14日(土)~1月27日(金)、渋谷HUMAXシネマにてレイトショー。


(c)2016 Freza Films


(2024.12.18.改訂)

映画『エルストリー1976 -新たなる希望が生まれた街-』

画像『スター・ウォーズ』絡みの映画として『ピープルvsジョージ・ルーカス』を紹介したのは5年ほど前のことだが。
https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_758.html
ここに新たなドキュメンタリーが。

『スター・ウォーズ』絡みと言っても、けっこう異色だ。
1976年、イギリスのエルストリー・スタジオに集められた人たち…『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』に登場する、素顔の出ないキャラクターの“中の人”や、一瞬しか出てこないようなエキストラの人たちに焦点を当てた映画。
そんなの面白いのか?…というと、コレがなかなかに面白い。
地味な一作ではあるんだけど。

ダース・ベイダー役のデイヴィッド・プラウズや、ボバ・フェット役のジェレミー・ブロックみたいな、それなりに(って、ダース・ベイダーは“それなりに”じゃ済まないけど)存在を示した役を演じた人(もちろん顔は出てない)から、顔こそ出てるけど役名も付かなかったようなエキストラの人まで、10人の『スターウォーズ』以前と以後を捉える。
10人が登場するシーンが無作為な感じでしょっちゅう切り替わるんで、観ているうちに誰が何の人だったかわかんなくなってくるのがちょっとアレだが(笑)。

デイヴィッド・プラウズって、『時計じかけのオレンジ』の“ムキムキマン”の役だったのかー。
コレはちょっと驚いた。
あと、“マサッシ・テンプル・ガード”の役をやった端役俳優(と言ってイイだろう)デレック・ライオンズが、今では小太りのおっちゃんにしか見えないのに、実は格闘技の達人でキレッキレのハイキックを見せたり。

登場人物の大半が世界各地で開かれている『スター・ウォーズ』のコンヴェンションに参加して、そこでファンにサインしたりしてるんだけど。
“ゴールド・リーダー”の役を演じたアンガス・マッキネスが、役名もなかったエキストラがコンヴェンションに出ていることに違和感を表明している一方で、その“役名もなかったエキストラ”だったジョン・チャップマン(反乱軍パイロットの役で一瞬だけ画面に登場する)の話がめっぽう面白かったり。
“シェイクスピア俳優”だったポール・ブレイクのキャリアの頂点が、どうやら顔が一切出ない“グリード”役だったらしいとか。
“リーサブ・サーリン”役のパム・ローズが60年代には『READY STEADY GO』で踊ってたとか。

あんまり説明するとネタバレになっちゃうな…。
ともあれ、大なり小なり『スター・ウォーズ』に関わった人たちが、その出来事の大きさとマスクの下に隠れた自分自身(あるいは『スター・ウォーズ』以後の人生)との間で少なからず葛藤したであろう様子も、カメラは映し出す。
自身の声で演技したにも関わらず台詞を吹き替えられてしまったデイヴィッド・プラウズは、ダース・ベイダー役について「キャラクターを演じたに過ぎない、自分自身とは関係ない」みたいなことを言いながら、現在の主たる収入源は『スター・ウォーズ』のコンヴェンションだったりする…。

90分と尺も短めで、さっきも言った通りわりと地味な映画だと思うんだが。
しかし、深い。
この映画が描こうとしているのは『スター・ウォーズ』撮影の内幕とかじゃなくて、10人の人生。
初期の『スター・ウォーズ』ファンならより楽しめると思うけど、そうじゃない人にもお勧めです。

『エルストリー1976』、12月17日(土)より、新宿武蔵野館他で公開。


(c)ELSTREE 1976 LIMITED.2015


(2024.12.13.改訂)