1974年の『JANIS』(日本での公開は90年だった)から実に41年ぶり(本作の製作は2015年)、ジャニス・ジョプリンの死からは45年を経ての新作ドキュメンタリー。ライヴ映像や本人へのインタヴューに加えて、いろいろなミュージシャンが満艦飾状態で登場してはドキュメンタリーの主人公についてコメントする…というのが常道になっている(?)昨今。
本作は、敢えてゲスト的な出演者を最小限に抑え、当時を知るバンド・メンバーたちを中心に、何よりも“ジャニス・ジョプリン自身によって”その生涯を語らせるような…オーソドックスにきっちり作られながら、ある意味で試みに満ちているとも言える作風。
ジャニスの遺族(妹ローラと弟マイケル)の協力を得て、幼少時のジャニスの写真などもふんだんに映し出し。
BIG BROTHER AND THE HOLDING Co.のメンバーたちを中心とする関係者の証言と、ジャニスが家族や友人に宛てた手紙の内容(キャット・パワーことショーン・マーシャルが朗読している)が、当時のライヴの模様やインタヴュー映像などと交互に現れる。
何よりもインパクトが強いのは、やはり何度観ても強烈過ぎるパフォーマンス映像。
髪をふり乱し、足を踏み鳴らし、歌詞やメロディが乗らないところはすべてシャウトとスクリーム。
周りと人間関係を築けず、容姿を嗤われた少女時代から引きずり続けたトラウマとコンプレックスに起因したのだろう昏いブルーズ衝動…をプリミティヴに爆発させながらギリギリのところでコントロールする。
衝動に発するノイズを垂れ流しのままにせず、コントロールしてラウドなロックに昇華して見せる…というのはSONIC YOUTHあたりがやっていたことだが、結局のところジャニスがステージでやっていたことはそれと同じじゃないか、と思う。
しかしその過程でジャニスが依存して行ったアルコールとドラッグが、彼女の寿命を縮めることになるのだった。
もっとも、ライヴ映像の類はこの映画でなくても観ることは出来る。
注目すべきは、作中で朗読されるジャニス・ジョプリンの手紙だろう。
そこには、アーティスト/シンガーではなく人間ジャニスの真情が生々しく表出している。
両親の望むような“良い子”になれない自分に負い目を感じつつ、それでも一途に夢に向かって駆けて行くジャニスの希望と不安、そして家族への複雑な愛情。
そして、そんなジャニス・ジョプリンの手紙やインタヴュー映像から窺われる彼女の認識と、関係者の証言から明らかになる周囲の認識が必ずしも一致していなかったことも、映画は描き出す。
ジャニスは両親への手紙で、当時の恋人(だったはずの)カントリー・ジョー・マクドナルドと自分を“お似合いのカップル”と言っているのに対し、当のカントリー・ジョーは「ただの友達だった」みたいな発言。
他方、BIG BROTHER AND THE HOLDING Co.のメンバーたちがジャニスに声をかけて来た名プロデューサー、ポール・ロスチャイルドに対して“手駒として操られるのでは?”といった警戒心を抱いていたらしいのに対し、ジャニス自身はヴォーカルのコントロールをはじめとしてポールから得たモノがいかに大きかったかを強調していたり。
(実のところ、BIG BROTHER AND THE HOLDING Co.のメンバーたちは、求められているのが自分たちではなくジャニス一人であることに対する嫉妬や焦りもあったと思われ)
あまりにもポンコツなBIG BROTHER AND THE HOLDING Co.を脱退し。
寄せ集めのKOZMIC BLUES BANDは空中分解し。
遂に真の意味でプロフェッショナルなFULL TILT BOOGIE BANDを得て、これからという矢先。
断っていたはずのヘロインがジャニス・ジョプリンをこの世から連れ去る。
スターとして数千・数万の観客を集めながら、人間として何処までも孤独だったジャニスの姿を、この映画は容赦なくあぶり出す。
ヒッピーの共同幻想はジャニスをスターにしたが(もちろんそれだけじゃないけど)、個人としてのジャニスの孤独をすくい取れる存在は、遂に現れなかったということか。
映画本編中、ジャニスと恋仲だった(あるいは、かも知れなかった)という人物は男女問わず(!)複数登場するのに。
当のジャニスはもういない。
ちなみに、ジャニス・ジョプリンが歌ったバンドの内で、俺が個人的に一番好きなのは、ポンコツ極まりない(?)BIG BROTHER AND THE HOLDING Co.なのだった(笑)。
「Summertime」の演奏とか、正直かなりひどいと思うんだけど、あのガレージ感みたいなのがたまらんのよね。
『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』、9月10日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開。
(C)2015 by JANIS PRODUCTIONS LLC & THIRTEEN PRODUCTIONS LLC.
(2024.11.30.改訂)
