映画『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』

PRINCE.jpg『PURPLE RAIN』(1984年)、『UNDER THE CHERRY MOON』(86年)に続いて、プリンスが87年に制作した、3本目の劇場映画。
新たにマスタリングされているそうです。

以前このブログでZAPPの『V』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1162.html)を紹介した時に書いたけど、80年代はプリンスを聴いてた。
一番好きなアルバムはサイケデリックな『AROUND THE WORLD IN A DAY』(1985年)。
『LOVESEXY』(88年)までは追ってたものの、90年代に入っていったん改名したあたりでついて行けなくなり、そのまま現在に至る。
この映画は同名のアルバム『SIGN“☮”THE TIMES』(87年:全米6位)とリンクしたモノだから、俺が大好きだった頃のプリンスが全開になってる。
(日本で初公開されたのは89年だそうだが、当時は観てない)

プリンスのことだから(?)想像付くと思うけど、単なるライヴの映画じゃなくて。
1987年5月から行われた“SIGN“☮”THE TIMES TOUR”のうちの、6月26~28日のオランダ・ロッテルダム公演と、29日ベルギー・アントワープ公演の模様に、ミネアポリスのペイズリー・パーク・スタジオで撮影された追加シーン(小芝居)を追加。
ライヴの流れに、ちょっとだけストーリー性も加えたような作りになっている。

最初に寸劇のシーンがあって、ライヴがスタート。
プリンスのギター&ヴォーカルとキーボードとダンサーだけで進行する「Sign“☮”The Times」の演奏中、シーラ・Eを先頭にメンバーたちが太鼓を叩きながら行進してくる、コレだけでもう「おおお」となります。

そう、この時のプリンスのバンドは、ドラマーがシーラ・E。
かなりフィーチュアされてます。
タイトなドラミングもさることながら、なにしろ絵になる姐さん。
中盤にプリンス抜きで演奏される「Now's The Time」(チャーリー・パーカーを思いっきりポップにカヴァー)があるんだけど、各メンバーのソロ回しの後、シーラの強烈なドラム・ソロで全部持っていく。
(スラッシュ・メタルばりのツーバスドカドカもあり)
終盤の「Beautiful Night」ではプリンスとドラムを交代して(!)、ステージ前方でラップを披露したりも。
しかしラップよりも、透け乳首に目が釘付けに!(笑)

もちろん他のメンバーも芸達者ぞろい。
ミコ・ウィーバー(ギター)とレヴィ・シーサーJr.(ベース)が、演奏しながら踊る踊る!
故ボニー・ボイヤー(キーボード)もソウルフルに喉を震わせるし、ダンサーのキャットも踊るだけじゃなくてコーラスに寸劇にと八面六臂の活躍。
(エロい!)
Dr.フィンク(キーボード)やエリック・リーズ(サックス)やアトランタ・ブリス(トランペット)もパーカッションを担当するし…このバンドでは、担当楽器以外の何役をも求められるのであります。
スーツでビシッとキメたアトランタと、「スターウォーズ」のオビワン・ケノービみたいな格好のエリックの対比も面白い。

それにしても、やはりプリンス。
圧倒的な存在感。
歌うわ踊るわギタリストとしても超一流だわで、はっきり言って音楽的な才能はマイケル・ジャクソンを遙かに上回ると思うんだが。
(ギター・ソロはもっとやってくれてイイ)
しかしマイケルと違うのは、ポップ・スターとしてはあまりにもアクが強過ぎるんだよね。
まあ、そもそもマイケルと較べたりするべきじゃないんだろうけど。
(しかし、奇しくも同い年。二人とも1958年生まれ)
ともあれ、例えばマイケルがディズニーランドだとしたら、プリンスは…ディズニーランド並みの規模の“秘宝館”、みたいな(笑)。
違うか…いや、この映画でのステージ中の演出にも、プリンスとキャットの絡みがほとんど“セックスショー”みたいなところあるぞ。
逆に、というか…あれだけのアクの強さをきちんとエンターテインメントに昇華してポップ・スターやってるんだから、やはりただ者ではありません、プリンス。

何回か衣裳のチェンジがあるんだけど、最後に出て来た時のプリンスは、もうほとんど『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物みたいな…あっ、こっちが先か。
荒木飛呂彦の方が影響受けてるんだろうな。
…と思ったら、荒木氏が推薦コメント寄せてます、この映画。
(やっぱり!)

映画の尺は84分なんだけど、実際のショーは当然もっと長かったワケで。
プリンスのピアノ弾き語りでワンコーラスだけ歌われる「Little Red Corvette」を除いて、『SIGN“☮”OF THE TIMES』以外のアルバムからの曲は、ライヴで演奏されながらも映画ではカットされている。
(「Let's Go Crazy」は観たかったかもしれない。一方、プリンスにとって初の全米トップ10入りとなった「Little Red Corvette」はやっぱり外せなかったんだろう)
そして、シーナ・イーストンが客演した「You Got The Look」のPVが、ライヴの流れを妨げない形で上手い具合に挿入されていたり。

プリンス、この時点で29歳の誕生日を迎えて間もない頃。
とにかく強力なライヴだ。
実に脂の乗り切った天才の姿が堪能出来る一作。

この試写会に行く前も偶然FUNKADELIC聴いてたりしたんだけど、この映画見た後は興奮もそのままに、改めて黒人音楽のレコード/CD引っ張り出してみようか、という気分になってる今日この頃。


『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』、2014年1月25日(土)より渋谷HUMAXシネマ他で全国公開。


(C)1987 PURPLE FILMS COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED


(2024.2.9.改訂)

映画『サヴァイヴィング・ザ・ポリス』

SURVIVING THE POLICE.jpgTHE POLICEのギタリスト、アンディ・サマーズの著書『アンディ・サマーズ自伝 ポリス全調書』を原作とする、ドキュメンタリー映画。
原作本を読んでないし、ステュアート・コープランド(ドラム)によるもうひとつのドキュメンタリー映画『ポリス/インサイド・アウト』も観てないんで、ちょっとアレだが。
原題は『CAN'T STAND LOSING YOU/SURVIVING THE POLICE』。
なんだかんだと腰が引けた感じで観始めたものの。
個人的にPOLICEのレパートリー中で一番の名曲ではないかと思う曲名が原題になっていて、まずそこでけっこうグッとキた。

ともあれ、THE POLICEのドキュメンタリーでありながら、やはりというか実際にはアンディ・サマーズの視点による自伝映画といった方がイイ仕上がりになっている。
基本的に時系列で、アンディの子供時代からズート・マネーのバンドへの参加やERIC BURDON & THE ANIMALSでの活動など、POLICE以前の話もふんだんに盛り込みつつ、随所に2007年のPOLICE再結成のステージの模様が挿入される、という作り。
ライヴでもPVでも楽曲は完奏でなく、時系列の物語の中に07年の映像が挟まれる、一種忙しい流れになっているが、散漫な感じはない。

70~80年代は眠たげな眼のハンサムさんだったアンディ・サマーズの、現在のルックスの劣化ぶりには正直「…」という感じだが、再結成ライヴで聴かせるあの独特なギターのトーンには、いささかの衰えもない。
(アクションはかなりアレだけどね)
…70年代末から80年代初めにかけて、イギリスから登場したニュー・ウェイヴ系統のバンドのギタリストに最も顕著だった特徴は、独自なトーン…に尽きる、と思う。
その中でも、個人的に、アンディとU2のエッジは、他の追随を許さないモノがあったと思っている。
特にアンディのギターは、ハード・ロック系のバンドだったRUSHあたりにまで影響を与えている(はずな)ワケで。

…閑話休題。
なんにせよ、60年代から音楽活動をやっていたアンディ・サマーズが、同じく(ざっくり言うと)サイケ~プログレ出身だったリズム・セクションが組んだ新バンド、THE POLICEに2代目ギタリストとして迎え入れられ、“パンクのふりをした”ロートル新人バンドから、スターダムにのし上がっていく過程、そしてバンドの崩壊…という物語が、メンバー間の軋轢やドラッグ(60年代はLSD、POLICE時代はマリワナ)の話まで、極めて率直な口調で語られる。
(ナレーションはアンディ自身)

…いきなり無関係なAEROSMITHの曲名を引くが、まさに「Let The Music Do The Talkin'」というか、THE POLICEの卓越した音楽が何よりすべてだ。
クラブ・ギグでパンクスに唾をかけられながら、CURVED AIRでプログレを演っていたドラマーがわざと荒っぽく叩くビートに乗せつつ、ある意味計算高く時流に乗った、それでいてクォリティの高い音楽を生み出していったPOLICEのマジック…が、存分に語られる。
…そしてそれゆえに臨界点に達して行ったバンドの成り行き、更に成功に伴って音楽と家族の間で引き裂かれるアンディ・サマーズのアイデンティティ、も。

諸々のストレスの中でアンディ・サマーズが向かった、写真…も、随所にフィーチュアされている。
カメラマンとしても、かなりの腕前だと思うし、多分グルーピーやコールガールだろうけど、ホテルの部屋で撮影されたと思われるヌード写真など、タブーなくさらされている。
来日時、カメラ片手に花園神社からゴールデン街…とうろついたアンディのたどり着いた先の描写には爆笑。
(コレは是非映画を観て確かめてください)

ともあれ、根源的に、アンディ・サマーズの視点だ。
大ヒットした「Every Breath You Take」のPVも登場しない。
でもそれでイイと思う。
『ポリス/インサイド・アウト』を観ていないし、残る一人・スティングがTHE POLICEを語ったならまた別の物語があると思うけど、アンディから観たPOLICEと周辺の物語として、十分に見応えがある、と思う。
スティングのドキュメンタリー映画『ブルー・タートルの夢』に較べると、音楽ファン以外にアピールする要素は薄いような気がするものの、逆にロック・ファン、特にあの時代のイギリスのニュー・ウェイヴが好きな人には、文句なしにお勧めな1本。


それにしても、アンディ・サマーズって、離婚した奥さんと、4年も経ってからヨリを戻したのか。
凄いなー。


『サヴァイヴィング・ザ・ポリス』、11月23日より、TOHOシネマズ渋谷他にて公開。


あっ、このブログ、いつの間にか、アクセス数が50万件超えている!
皆様、ありがとうございます。


(C)2012 OTL Distribution LLC


(2024.1.1.改訂)

映画『Miss ZOMBIE』

Miss ZOMBIE.jpg『蟹工船』(2009年)や『うさぎドロップ』(11年)の大ヒットも記憶に新しい監督・SABU…が、約10年ぶりに監督だけでなく原案や脚本も自ら手掛けた最新作。

…すいません、『うさぎドロップ』も『弾丸ランナー』も『幸福の鐘』も観てないんですが。

で、ゾンビの映画です。
主役のゾンビを演じたのは、いわゆるグラドルとして活躍してきた小松彩夏。
脇役としては映画のキャリアがあったけど、主演は初めて。

…この映画、紹介するのが難しい。
見どころは圧倒的に終盤で…ネタバレにならずにストーリーの醍醐味を説明出来ない気がする。
正直言って、前半はストーリーの展開が唐突だったり、つじつまの合わなそうな部分があったりで、言葉足らずというか、観ていて消化不良な感じがしたのが。
(そもそも85分というサイズ自体、劇場映画というよりTVドラマな感じがしてしまい)
だがしかし。
後半から終盤にかけて、SABUの代名詞のように言われる“スピード感”が如何なく発揮された力技に、圧倒される。


裕福な医師・寺本(手塚とおる)の家に、怪しい商売を営む知人から、若い女のゾンビ(小松彩夏)が(木箱に入って)送り届けられる。
日常的な存在ではないにしろ、ゾンビがいる世界、という設定。
「2~3日預かってくれ」と言ったはずの知人とは連絡が付かず。
扱いに困った寺本一家により与えられた1個のたわしで、ゾンビは日がな一日屋外の石畳(?)を磨き続ける、という作業に従事するのであったが。
記憶も感情もなく無表情、顔面をはじめとして全身におびただしい傷(というか縫い目)があるにもかかわらず、ゾンビの奇妙な美しさに、寺本家の男たちは魅入られて行く。
そんな折、寺本家の一人息子・健一が不慮の溺死。
死の世界からゾンビとして蘇った“彼女”になら、息子を生き返らせることが出来るはず…と信じた寺本の妻・志津子(冨樫真)の判断を機に、すべての歯車が一気に狂い始める…。


それにしても、小松彩夏。
グラドルとしてデビューした頃、「またえらく細長い、変わった顔の子が出てきたなあ」と思ったんだけど、独特の愛嬌と色気があって、「ヤングサンデー」あたりで“こまっちゃん”と呼ばれて人気を博しているのを、好ましく見ていたモノだった。
彼女の起用は、大正解。
あの特徴ある細長い顔…ゾンビ役にはぴったりだ!
上半身の細さに対してややアンバランスな下半身の肉付き…も、作中で周囲の男の劣情を喚起するのに説得力がある。
無表情でレイプされるシーンや、近所の子供たちにマジで石投げられるシーン(痛い痛い!)や、トップレス姿(胸は見えない)など、なかなかの熱演です。

しかし。
この映画、主演は一応小松彩夏ということになっているのだけど、本当の主役は志津子を演じた冨樫真ではあるまいか。
ネタバレを避けるために詳しくは書かないが、精神のバランスを崩した志津子を演じる映画後半~終盤の鬼気迫る姿。
実に名演。


終盤のスピード感だけでなく、冒頭から全開となる、モノクロ画面で光と影を巧みに配した映像美も、特筆に値する。
前半は消化不良に思えた展開も、極力説明を排しながら登場人物のキャラクター性なり登場人物間の機微なりを伝えんとするモノになっている…というのは後半に気付いた。
そしてナニ、この映画、5日半で撮ったって?
えー?


万人向けとも思わないし、正直言っていわゆる傑作だとも思わない。
しかし、(ネタバレ覚悟で書いてしまうと)ゾンビな彼女が一瞬記憶と感情を取り戻した時の、慟哭…あのシーンにグッときたのは確かだ。
(ちょっと泣きそうになった)
全編を通して描かれているのはゾンビでもホラーでもなく、“愛”と“哀”だ。


『Miss ZOMBIE』、9月14日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国ロードショー。


(C)2013 Miss ZOMBIE Film Committee all rights reserved.


追記:
この映画から10年。
37歳になった小松彩夏は、今年結婚したのだそうで。

(2023.12.18.)

映画『コンプライアンス 服従の心理』

コンプライアンス.jpgまた息詰まる映画だ…。
いや、好きですけど、こーゆーの(笑)。

クレイグ・ゾベル(全然知らんかった)による2作目の監督作品。
この映画がVILLAGE VOICE他で高い評価を受けて、LA TIMESでは“2012年ブレイクした映画人TOP11”の一人に選出されたとか。

2004年にケンタッキーのファストフード店で実際に起こった事件を題材にしている。
そこに、イェール大学で1962年に行われた、権威と服従に関する有名な“ミルグラム実験”(いわゆる“アイヒマン・テスト”)の要素を結び付けている。
俺が真っ先に思い出したのは、ミルグラム実験の“続編”的な71年の“スタンフォード監獄実験”の方だったんだけど、そこまで陰惨な話ではない。
それにしても重いというか痛烈というか。

アメリカの典型的なサバービアにあるファストフード店。
重大なトラブルに見舞われた金曜日、女性店長サンドラ(アン・ダウド)は“決戦は金曜日”とばかり気を引き締めて店員にハッパをかけるのだったが、その気合が裏目ったか。
突然、“ダニエルズ巡査”を名乗る男(パット・ヒーリー)からサンドラに電話が。
ダニエルズ曰く、その店舗の店員がお客の財布を盗んだらしい、ついてはその店員を拘束して身体検査して欲しい、と。
警察官の指示だ、とサンドラはダニエルズの言葉に従う。
疑いをかけられたのは10代の女性店員・ベッキー(ドリーマ・ウォーカー)。
ベッキーを店舗のバックルームに連れて行き、服を脱がせて調べるサンドラ。
しかし、ダニエルズの指示は次第にエスカレートして行き…。

はい、あとは劇場で実際に観てください。

ミルグラム実験、スタンフォード監獄実験…そのどちらも、“善良な市民”が権威に盲目的に服従することによって、(疑問を抱きつつも、あるいは何も疑いすらせず)常軌を逸した行動を可能にしてしまう、ということを明らかにしている。
それらの実験はあくまで実験だったワケだが、それに近いことが実際に起こっちゃいましたよ、というのが2004年の事件。
そしてそれは、実は相手が“権威”である場合に限らない。
オレオレ詐欺/振り込め詐欺…が横行しているのが、いい証拠だろう。
偽電話1本で女の子が全裸にされる…という事態は、ケンタッキーに限らずいつ何処で起こっても不思議じゃない。
(実際04年に同様の事件が全米で起きたという)

トラブル続きの店舗運営にテンパり、“警官”からの電話で更にテンパってしまうフツーのおばさん、である店長サンドラを演じるアン・ダウドもなかなかだが。
疑いをかけられ裸にされ、更にいろいろ酷い目に遭わされるベッキー役、ドリーマ・ウォーカーの、文字通り体を張った熱演が見モノです。
他のキャストも、郊外の“凡庸な”人たちを自然に見せる様がナイス。
(ひどいことになってしまうんだけど、本当にひどい人は基本的に犯人一人)

ただ…ベッキーが軟禁状態になって以降、半ば密室劇のようにして進行する中盤の息詰まる描写に対して、後半~終盤は、正直言って流れに難がある。
放り出されたようなラストも、好みの分かれるところじゃないかと思う。
とはいえ、それも中盤までのスリリングな展開を台無しにするようなモノじゃない。

先日ここで紹介した映画『カレ・ブラン』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_1161.html)の四角くてダークで重厚な映像美とは、半ば対極にあるような映像も興味深い。
アメリカのサバービアのダルな感じをそのまま映し出そうとするような。
道路やあちこちに目立つ、排気ガスで薄汚れた残雪。
ファストフード店の駐車場に集う、ろくに洗車されていない、これまた薄汚れた種々の車や、駐車場に転がる紙コップなどのゴミ。
乱雑(そう見える)に調理される諸々の食材、盛りつけの際に床にこぼれ落ちるフライドポテト。
バックルームの窓から入る陽光が、却って薄ら寒い感じ。

行き過ぎたコンプライアンスの感覚が、そして“善良な一般市民”が内包するもろさや危うさを見事に切り取った映画で、さっきも書いたとおり、アメリカだけに限った話じゃない。
“だまされる側も悪い”みたいな言い方は、容易に“いじめられる側にも責任がある”みたいな言い方に転化しそうで抵抗があるんだけど、ともあれ諸々の自戒を込めつつ、お勧めしたい1本。


『コンプライアンス 服従の心理』、6月29日(土)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー。


(C)2012 Bad Cop Bad Cop Film Productions, LLC


(2023.11.13.改訂)

映画『カレ・ブラン』

CARRE BLANC.jpgジャン=バティスト・レオネッティ(パリ生まれだそうだけど、イタリア系ですね)が自ら興した制作会社で監督した、初の長編映画。

作品中で、背景や細かい部分の説明的な描写は、あまりない。
近未来。
支配層と被支配層がくっきり二分化した社会。
極度の管理社会にして監視社会。
(『1984』だ!)
どうやら食糧事情に問題がある様子。
被支配層の人間が死ぬと、すぐに食肉加工場に運び込まれ、人肉加工食品として食卓に供されるのが当たり前になっている世界。
(『ソイレント・グリーン』だ!)
階層間格差は絶対的なモノらしく、下層階級の人間は“無礼討ち”みたいな形で支配層から暴力を受けて殺されたとしても、何も言えない世界。
跋扈する理不尽な暴力。
(『時計じかけのオレンジ』だ!)

誰もが夢中になっている娯楽は、スポーツ。
野球やサッカーに代わってこの世界で一番人気のあるスポーツは、“クロッケー”。
クリケットとホッケーをくっつけた造語だと思うけど、木槌みたいなマレットでボールを転がす様は、むしろゲートボールに近いな。
しかしボールは、どうやら鉄球らしい。
(『ローラーボール』だ!)

人肉食品工場で働いていた母親を自殺で失った主人公・フィリップ(サミ・ブアジラ)は、孤児を集めた施設に送られ、管理社会に適応して、大人になった今は支配層の“会社”でブイブイいわしている。
被支配層の人間(入社希望?)を、理不尽にして不条理なテストで痛めつけるのが仕事らしい。
(死ぬレベルの感電に無理矢理耐えさせるとか、壁に背中を付けた状態で、そこから更に後ろに下がれと命じるとか)
一方で、施設で知り合って結婚した妻・マリー(ジュリー・ガイエ)との間は、冷え切っている。

マリーは人肉食が当たり前に行なわれる世界そのものへの違和感が拭えず、そんな社会で成功者として振舞うフィリップへの違和感も大きくなる一方。
社会に適応するために心を殺して生きてきたフィリップは、マリーが問題にしている世界の異常性に気付けない。

階級が違うだけで人間が同じ人間を平然と虐待し、果ては人肉食が常態化している狂った世界(しかし作品中ではそれが常識的な世界のあり方)で、スクリーンのこちら側(俺たちの、日常社会)と同じような精神性(多分…)で世界を見ているマリー。
マリーと同じような感覚から自殺に走った母親…を知っているはずのフィリップは、この世界で心の平衡を保ち続け、かつマリーを失わずにいられるのか?
…はい、あとは劇場で観て確かめてください。


重い映画だ。
一方で、上の文中に幾つか作品名を挿入したように、70年代の多くのディストピア映画に対するオマージュを黒いユーモアにくるんで届けてみせる、娯楽作でも…あるかな、どうかな(どっちよ)。
上に挙げた作品以外でも、ダークSFの中に夫婦のねじれた関係性を持ち込むあたりは『惑星ソラリス』を思わせる。
あと、善悪の判断や感情のすべてまで社会の管理に委ねることで良しとする悪夢的な“理想社会”のありようは、(コレは70年代でも映画でもないけど)アフタヌーンで連載中の『勇者ヴォグ・ランバ』に近いセンス。

そして、工夫に満ちた映画だ。
200万ドルという超低予算で制作されていて、近未来SFなのにCGとかVFXの類が全然使われていない。
思ったような映像を得るために、ロケ地の選定とかには相当腐心したと思われる。
とにかく、四角い!
ビルから何から、四角のオンパレードだ。
その中に適宜組み合わされる丸い形。
こだわりの映像美を低予算で実現しようと、奮闘しましたね。


わかりにくい部分も多い。
あと、ある種のトラウマ(それが何かは言わずにおくが)を持つ人には、もの凄くつらい映画だと思う。
それだけに、直接胸に突き刺さってくるような強い訴求力を持つ映画になってます。
楽しい映画、愉快な映画…ではまったくないけど、俺はお勧めします。


『カレ・ブラン』、3月下旬から渋谷シアター・イメージフォーラムで公開。


(C)Solair films-Tarantula-CJSC CTC Network-Tous droits



追記:
”クロッケー”というスポーツは実在するそうだが(ゲートボールの原型になったという)、映画の中に出てくるクロッケーとはちょっと違うような気もする。

(2021.5.30.)


(2023.10.30.改訂)

映画『ライク・サムワン・イン・ラブ』

LIKE SOMEONE IN LOVE.jpg『友だちのうちはどこ?』で知られるイランの映画監督、アッバス・キアロスタミが日本で撮った最新作。
先月15日から公開されていて、行こう行こうと思っていたんだけど、なかなか行けなくて、そうこうするうち新宿武蔵野館では19日まで、渋谷のユーロスペース(この映画の製作もユーロスペース)では26日まで、と残り少なくなり…ようやく観てきました。


現役を引退して悠々自適の生活を送る84歳の元大学教授・タカシ(奥野匡)は、ある晩デリヘル嬢・明子(高梨臨)を家に呼ぶ。

…宣材とかでは“デートクラブ”となっているけど、コレは…いわゆるデリヘルだろう。
多分“現役女子大生の”とかが売りになってて、しかも泊まりコース有りの、けっこう高級デリヘル。

やらしい気持ちはどうか知らないが、とにかく若い娘さんとロマンティックなひとときを過ごそうとしたんだろう…妻に先立たれた老学者・タカシはワインとスープを用意して明子を迎えるが。

…これまた宣材では“まどろむ明子は手をつけようともしない”…と書かれているけど、既に六本木かどっかでワインを飲んできた明子はテーブルにもつかず、早速半裸でベッドにもぐりこんでタカシを“誘う”のである。
そのあとタカシがバタバタしてるうちに、本当に一人で寝入ってしまったという。

結局ベッドに入ることすらしなかったんだろうタカシは、翌朝、試験を受けるという明子を大学まで車で送り届けるのであったが、そこに明子の彼氏・ノリアキ(加瀬亮)が登場。

…またまた宣材では“ストーカー的”と書いてあるノリアキだけど、コレはもう、いわゆる“デートDV”とかそっちレベルの、もの凄くイタい男。
タカシを明子の実の祖父と思い込んだノリアキ…試験を受け終えた明子が戻って来て、そこから3人の珍道中。


明子はきれいな子だけど、見てるととにかくイラッとする(苦笑)。
(車の中で二ーソックスを履くシーンが妙にエロいが)
谷崎的世界になりそうなお話に異物、あるいは潜在的暴力装置として投げ込まれるノリアキ。
そして、年齢にふさわしい達観や諦念や、時には貫禄を見せつつも、女に対する幻想を捨てられず(ああやっぱり男ってこうなんだよな、多分)、逡巡し狼狽するタカシ。
「なるようになる」と余裕を見せて、最後は本当に「なるようになる」。


穏やかで美しい画面に、常に不穏さをたたえて、小さなアレコレはあっても大きな事件やドラマティックなシーンはなく、淡々と進行する物語に…衝撃的なラスト。
衝撃というか…独善的な愛情と、うやむやにし続けてきたいろいろが、なるべくして「なるようになる」ということなんだろうけど。
劇中、タカシが日本語で口ずさむ「ケ・セラ・セラ」は、終盤の展開を思うと実に印象的。

しばらくこういう映画を観てなかったんで、終わったあとちょっと放心した。
あと1週間あるんで、未見の方にはお勧めしときます。
絶妙な後味の悪さを保証します(笑)。


それにしても、アッバス・キアロスタミ、脚本も兼ねてるんだけど、日本についてよくよく調べたんだろうか。
よくこんな話作れたよな。


(C)mk2/eurospace


追記:
『侍戦隊シンケンジャー』などに出演していた高梨臨、現在では誰もが知る有名女優になっているのは言うまでもない。

(2023.10.11.)

映画『ドキュメント灰野敬二』

灰野敬二.jpg今月3日までのはずだったのが、31日までの公開延長となり、しかもモーニング&レイトショーじゃなくて16時半からの上映になったんで、無事観られましたよ『ドキュメント灰野敬二』。

いやー、面白かった。

初めて聴いた灰野敬二は”三里塚幻野祭”のCDでのロストアラーフ。
初めて買った単独音源は不失者、1994年の『悲愴』。
その後何枚も何枚もCDを聴き、何度かライヴも観た。
最後に観たのは7年くらい前の渋谷屋根裏だったが、その時は俺自身がDJとして出演したイヴェントだったな。
EURO-ROCK PRESSを中心にレヴューも随分書き。
そうして何年も聴いて来て、どうかというと、俺にとって灰野敬二という人は、謎だ。
そして、この映画を観ても…やっぱり謎だった。
それでイイと思う。

灰野敬二について何度も文章にしてきたのに、いまだ本当に適切な言葉で語れたと思ったことがないし、正直今後もあんまり自信がない。
パンフレットを買って読んだら、いろんな人がいろんなことを語っていたが、個人的に一番腑に落ちたのは、アーバンギャルド松永天馬の“正統派のロックンロール”という一言だった。
ともあれ、CDに歌詞カードがあればそれを読み、ライヴに行けば轟音の中から飛び出してくる言葉に神経を研ぎ澄ました。
この映画で、自身の幼少期を語る中、灰野敬二が“性善説を信じる”みたいなことを言っているのには、思わず「ああ!」と…凄く納得行った。
灰野敬二のイメージは何と言っても“黒”だけど、闇が濃いからこそ、そこに差し込む光は恐ろしいまでに尊い。
そして灰野敬二の音楽は、その闇の中の光を慈しむ。
灰野敬二の言う“ハード・ロック”はジャンルとしてのハード・ロックとはちょっと違うようだけど、彼の音楽の中でも特に不失者は“ロック/R&R”だとずっと思ってきたし、一方どの演奏形態の時も、言葉はいつも”ポジティヴ”だ。

それにしても、禅問答みたいなスタジオでのリハーサル風景が凄過ぎる(笑)。
ロストアラーフに顕著だったフリー・ジャズ的な方法論がその後もメインだと思っていたのに、不失者の楽曲/演奏があんなにガチガチにコンポーズされていたとは(…いや、あの謎の“譜面”と謎のアレンジ指示を以てガチガチのコンポーズというべきかどうかもわからないが)。
宇宙人みたいな人だなー。
ともあれ、バンドやってる人は全員必見の映画だと思う。
間とかリズムに対する感覚がアレだけ鋭敏な人もそういないだろう。

しかしアレだ、今でも川越に住んでるのか!
昨年まではほぼ毎日通った川越の街、その見慣れた景色の中にたたずむ灰野敬二。
なんか、頭くらくらしました。


(C)2012 『ドキュメント灰野敬二』製作委員会


(2023.8.30.改訂)

映画『すべての若き野郎ども/モット・ザ・フープル』

MOTT THE HOOPLE映画.jpg公開期間ももう終わるという6日になって、ようやく観てきましたよMOTT THE HOOPLEの映画。

プロデュースと監督のクリス・ホールとマイク・ケリーにとっては、アーサー・リー(LOVE)の映画に次ぐ2作目のドキュメンタリー作品だそうだ。
(その、LOVEの映画も観てえな!)
非常にオーソドックスな作りのドキュメンタリーで、MOTT THE HOOPLEの歴史を丁寧に追っていく。
MOTT THE HOOPLEだけでなく、彼らが登場した頃の状況についてもかなり丁寧に説明されている。
(人によっては「早くMOTT THE HOOPLE出せ」とか思うかも)

そう、MOTT THE HOOPLE自体について語る前に、バンドを世に出したA&R/プロデューサー、ガイ・スティーヴンス(奇人)の人となり、彼が以前何をやってたか、についてもかなり詳細に迫る。
相当のキチガイだったんだなー、ガイ。
エンジニアとしてガイとコンビを組んでいたアンディ・ジョンズの生々しい証言も大フィーチュア。

その後は当のメンバーはもちろんのこと(あれっ、オヴァレンド・ワッツは?)、当時のファンクラブ会長やQUEENのロジャー・テイラー(MOTT THE HOOPLEはQUEENが前座を務めた唯一のバンドだとか)、そして昔からMOTT THE HOOPLEファンとして有名なTHE CLASHのミック・ジョーンズ(ってかこの人『極悪レミー』にも出てたけどな!)といった人々の様々な証言と、見たこともないような映像(ライヴはかなり画像の荒いモノが多かったけど、全然見たことないようなのもまた多かった)で綴られていく。
メンバーのルックスが意外と劣化してない。
特に、70歳を超えているはずのイアン・ハンター(ヴォーカル)が驚くほど変わってないのは凄いな。
バフィン(ドラム)は太ってるしハゲてるものの、あの鼻の形ですぐわかる。
一番変貌しているのはミック・ラルフス(ギター)…。

とにかく興味深い話が満載です。
オルガニストがいて、ヴォーカリストがピアノを弾いて歌う、という鍵盤二人の編成はPROCOL HARUMを意識したらしい、というのは前から聞いてた話だけど、本当にそうだったんだなー。
ミック・ラルフス脱退後に加入したルーサー・グロヴナー(元SPOOKY TOOTH)が“アリエル・ベンダー”になった秘話は、笑ってしまった。
ヒットが出なくて、アイランド・レコーズから契約切られてCBSに…と思ってたのが、一旦解散を決意した時点でもアイランドはMOTT THE HOOPLEのツアーを企画していて、バンドをサポートするつもりがまだあった、というのには驚いた。
(そして、CBS移籍の経緯は、いまだに話せないのか…)

基本的には、THE ROLLING STONESとボブ・ディランを合体させたようなのを目指したR&Rバンドが、ワイルドなライヴ・パフォーマンスで人気を博しつつもレコードが売れず、解散寸前のところをデイヴィッド・ボウイに救われて、グラムの潮流にも乗ってスターになったものの、オリジナル・メンバーが抜け始めたあたりからまた雲行きがおかしくなって、結局は解散しましたよ…という、よく知られている話を、映像と音楽と言葉でわかりやすく提示する、という作りなんだけど。
ただ、パンクをはじめとしてのちのロックに与えた影響はかなり大きいバンドだし、『極悪レミー』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_496.html)や『オジー降臨』(https://lsdblog.seesaa.net/article/201607article_776.html)みたいにやたらとたくさんいろんなミュージシャンにしゃべらせないでも、後世への影響力を検証するような部分がもっとあれば、より訴えかけるモノが大きい1作になったと思うのだが。
MOTT THE HOOPLEに憧れてLONDON S.S.をやってたミック・ジョーンズに、ただMOTT THE HOOPLEの追っかけだった少年時代の思い出だけ語らせる、というのはちょっともったいなかった気も。

しかし、コレはコレで十分OK。
存分に楽しみました。
ライヴ盤のジャケットで有名な、上から人形ぶら下がってるあのステージの模様には、「おおっ」となった。
アイランド時代のライヴ映像がけっこう多いのも嬉しかった。
シアターN渋谷での上映は8日で終わりですから、まだ観てない人で都合付く人は是非。


(C)Start Productions


(2023.8.14.改訂)

映画『ミッドナイトFM』

MIDNIGHT FM.jpg韓国のサイコ・スリラー。
主演のスエは、韓国のアカデミー賞といわれる“青龍賞”の主演女優賞をこの作品で受賞したそうだ。
監督は『JSA』などで美術監督を務めてきたキム・サンマンで、この映画が2作目の監督作品。

TVの人気キャスターからFMのパーソナリティーに転身したコ・ソニョンは、深夜の人気番組「真夜中の映画音楽室」を5年間担当していたが、失語症の娘ウンスの治療のため渡米を決意。
最終回の晩、ソニョンは娘の世話を妹に頼み、“別れ”をテーマに生放送を開始する。
ところが、そこへいきなり携帯電話に見知らぬ男からの電話が。
男はソニョンの家族を人質に取ったと言い、自分の指示通りの選曲をしなければ家族を皆殺しにする、と宣言。
携帯に送られてきた画像には、ソニョンの家に侵入した男と、捉われた妹の姿が…!

ネタバレを避けるため、あらすじの説明はここまでにしておくが、コレは本当に序盤。
FM局のスタジオに電話してくる犯人との攻防、ということで、いわゆる密室劇を想像して観始めたんだけど、そんなもんではまったく済まなかった。
話はどんどんあらぬ方向に展開して、まあ文字通り息つく暇もない。
観終わって、どっと疲れた。

いわゆる”韓流”が一大潮流になって久しいが、俺は韓国映画って初めて観たんだよな。
近年のサスペンス/スリラーってのも全然観てない(古典的なのばっかり)。
なので俺がこの映画に関して言えることはそんなにないんだけど、とにかく106分間のほとんど、もの凄い緊迫感で、画面から目が離せない映画でしたよ。
結末はアレでよかったのかなーとか思わないこともないものの、ともあれ緊張感は最後までマックス。

混乱と絶望のどん底に突き落とされながらも必死に犯人と対峙するコ・ソニョンを演じたスエは、知的なムードと気丈さ、裏腹な弱さ(転じてブチ切れ)を好演。
狂気の犯人、ハン・ドンス役のユ・ジテも、イカレまくったサイコキラーぶり全開の名演(THE DAREDEVILSのヒロシにちょっと似てる)。
で、失語症の娘を演じたイ・ジュナが天才的。
一緒にとっつかまる従妹役の子ともども、5歳前後くらいだと思うんだけど、よくあんなせっぱつまった感じが出せるよな。
ソニョンのストーカー(?)を演じるマ・ドンソクも、随所でイイ味出しまくってる。

で、コ・ソニョンがやってる番組が映画音楽の番組ということで、番組中で次々に語られる映画、流れる映画音楽。
なんというか、メタ映画的な作りになっていて、映画ファンでロックファンならニヤリとするであろう部分も幾つか。
特に『タクシードライバー』へのオマージュ、みたいな部分が際立っている。

それにしても…韓国の人たち、顔だけ見ると日本人と全然変わらないんだけど、日本でこういう映画作っても、多分こういう風にはならないだろうなあ。
だが、字幕を追いながら韓国語の台詞を聞いていると、日本語と同じ発音の言葉ってけっこうあるのね。
けっこう…まさにその「けっこう」とか、「3」とか「2」とか、いきなり日本語? とか思ったりして。
あと、ハン・ドンスが「おお~」って言うところも、英語の「Oh」じゃなくて日本語の「おお~」そのものだったしな。
初めて観たお隣の国の映画、堪能しました。

『ミッドナイトFM』、5月に新宿武蔵野館で公開だそうです。
お勧めだけど、疲れるぞ。


(C)2010 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.


(2023.7.26.改訂)

映画『実演! 淫力魔人/イギー&ザ・ストゥージズ』

実演! 淫力魔人.jpgはい、封切りから1ヵ月も経って、やっと観てきましたよ、『実演! 淫力魔人/イギー&ザ・ストゥージズ』。
このブログを御覧の皆様の多くがもう観に行かれたのではと思うんだけど、関東在住じゃない人もいるだろうし、都内在住の知り合いでもまだ観てないという声がけっこうアリ。
行ける人は、行っといてください、今月23日までです。

再結成を果たし、新作アルバムまでリリースしながら、ロン・アシュトンを失ったTHE STOOGES。
しかしすかさずジェイムズ・ウィリアムソンを迎え、新生IGGY AND THE STOOGESとして活動再開。
そのライヴの模様はYouTubeでも観ることが出来たが、ここに劇場用映画として完成。

2010年9月3日、ジム・ジャームッシュがキュレイターを務めた「ALL TOMORROW'S PARTIES」でのライヴ。
公募により選ばれた、20~40代の6人のファンがカメラを手にして、そのライヴを撮った、というモノ。
原題は『IGGY AND THE STOOGES:RAW POWER LIVE IN THE HANDS OF THE FANS』…なるほど、ってか長ぇよ!

早期退職して音楽活動を再開した(!)ジェイムズ・ウィリアムソンの参加により、2004年のTHE STOOGESとしての来日時にはまったく聴けなかった、IGGY AND THE STOOGES唯一のスタジオ・アルバム『RAW POWER』の楽曲が21世紀に蘇る、というのが最大の観どころ聴きどころだろう。
何度も言うが、『THE STOOGES』『FUN HOUSE』をリリースしたSTOOGESと、『RAW POWER』『METALLIC K.O.』のIGGY AND THE STOOGESは、基本的に別のバンドです。
ジェイムズがギターを弾いていた70年代のIGGY AND THE STOOGESは初期STOOGESのレパートリーを演奏しなかった。
21世紀に入って復活したSTOOGESはロン・アシュトンがギター…つまり60年代末のSTOOGESの再編だったワケで、こちらは逆にジェイムズ参加時の曲を演らなかった。
で、ジェイムズが復帰した今のIGGY AND THE STOOGESには、何故か『FUN HOUSE』に参加していたスティーヴ・マッケイ(サックス)もいたりして。
ハイブリッドなSTOOGESだ。

そんなワケだから、ALL TOMORROW'S PARTIESでのIGGY AND THE STOOGESは『RAW POWER』の曲は全部演っちゃうし、「1970」も「Fun House」も「I Wanna Be Your Dog」も「No Fun」も演るのでありました。
インタヴューとか挿んだ“IGGY AND THE STOOGESのドキュメンタリー”なのかと思っていたが、実際にはファン6人は映画の最初と最後にちょっと登場するだけで、かなりシンプルに“IGGY AND THE STOOGESのライヴの映画”になっている。
「Raw Power」で演奏が始まった瞬間からテンション最高潮、流れは途切れず、一気にもってかれる。

とにかくイギー・ポップ。
1947年生まれだから、このライヴの時点で63歳なワケだが…こんな、裸でステージ狭しとかけずり回ってダイヴを連発する63歳って…。
なんだろうなこの人は。
ただ暴れ回ってるだけじゃなくて、昔この人の歌を初めて聴いたときから一貫して感じ続けている、声の“深さ”。
とんでもないカリスマ性。

で、噂の“完全日本語字幕”っていうのが採用されていて。
イギー・ポップの雄叫びまでいちいち日本語で字幕にしてあるのが、かなり笑える。
しかも雄叫び系は全部ひらがな。
「うぁぁぁぁぁぁお!」とか「あああああいいいいいいい」とか(笑)。
当然歌詞も全訳で…元の歌詞じゃなく聞き取りから起こしてあるようで、ちょっと「?」な部分もあるけど、まあ些細なことだ。

『RAW POWER』の頃にはむしろこっちの方が魔人、という感じのルックスだったジェイムズ・ウィリアムソンは、完全におじいちゃんな見た目に変貌していて、言われないと誰だかわからないが、プレイは健在。
『RAW POWER』の曲を完璧に弾きこなすのは当然として、ロン・アシュトンがギターを弾いていた時代のTHE STOOGESのレパートリーで、ちゃんとワウを多用したあのロンならではのソロを弾いているのに注目だ。
(JAMES WILLIAMSON WITH THE CARELESS HEARTSのライヴでもそのへんの曲は演奏していたものの、DVDを観たらロン時代の曲ではジェイムズはリード・ギターじゃなかった)

スコット・アシュトンは、ハイハットを叩かない独特のスタイルでビートを刻み続け、マイク・ワットが太いベースで応じる。
『FUN HOUSE』ではB面のみ参加していたスティーヴ・マッケイは今回ライヴ全編に参加していて、『RAW POWER』の曲とかでもちゃんと曲に合わせてサックス吹いてる(ハープやウッドブロックもプレイ)。
70年代のIGGY AND THE STOOGESの復活、と考えるとスティーヴよりもスコット・サーストン(キーボード)にいてほしい気もするけど、まあそれはそれとして。

しかし、やっぱり何よりイギー・ポップ。
終演後、一人でステージに戻って来て愛嬌をふりまく(?)イギーのかわいらしさといったらもう…。
浮世の憂さも吹っ飛ぶぜ。
改めて言うが、観に行ける人は行っといた方が。


追記:
どのレパートリーでも演れるハイブリッドなIGGY AND THE STOOGES、と言ったが、どうやら新たな禁じ手になってしまったらしいのは、THE STOOGESとしての復活アルバム『WEIRDNESS』の収録曲。
IGGY AND THE STOOGESの新曲、をライヴで聴くには、現編成での新作を待たなければいけないようだな。
その時は、是非スコット・サーストン参加でお願いしたいもんだ。


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(2023.7.26.改訂)